第288話 スラバ教団 1

 朝、出発の準備をすると、あまり目立たないようにハーレーには小さくなってもらう。と言っても俺たちを始末しによこしたアンデッドの軍団はすべて返り討ちにしたため、一匹も帰ってきてないと思う。そうなれば俺たちがやって来ることは想定済みになっているとは思うのだが……。


 斥候的に爺さんやフルリエに先に行ってもらおうとも思ったが、このメンバーなら皆でゆっくり向かっても問題ないかと、特に知恵も絞らず進んでいった。

 場所は、どうやらこの方向で合っているようだ。ハーレーが呪いの嫌な感じを敏感に捉えているようで途中から先導をしてくれる。まるで警察犬だ。


 少しづつ森が上り坂になってきた頃、チョロチョロと水の流れる沢に着く。山のどこからか湧き水でもあるのだろう。そこまで水量が多いわけでは無いが、沢は不気味に赤く染まっていた。


「うわ……これも呪いのせいかな?」


 みつ子が気持ち悪そうに沢を見ているが、水自体は無色透明な感じはする。


「いやあ、水に鉄分とか……タンニン? とかが含まれているだけだと思うな」

「じゃあ、自然の色なんだ」


 そう言いながらもみつ子は水には近寄らないでいる。まあ気持ちはわかる。アンデッドの島だしな。日本にいた頃、まあ沢じゃなく温泉だったが、確かこんな周りの石とかが赤く染まった所を見たことがある。似たようなものだろう。触るとひんやりとした水が心地よい。


 俺たちはそのまま沢沿いを登っていく。しばらく登っていくと、ふとモーザが手を上げ一行を止めた。そのまま俺たちに止まっているように手振りで指示を送ると、フルリエとゾディアックに気配がする方向を指で指し示す。

 2人はモーザの指示を読み取り、気配を消しながらこの先の様子を見に行く。俺たちはただそれを待つ。


 程なくして2人が戻ってくる。話を聞くと遺跡と思われる場所の周りは簡単に整備がされているようだ。ちょっとした集落のように周りには木の杭でグルっと囲まれており、中には丸太小屋のようなものも3棟建てられて居るのが見えたという。あきらかに人が住んでいると。


「そこそこ人が居るみたい。と言っても警備をしていたのはアンデットっぽかったわ」

「そうじゃの、視界に写ったので生きたのは1人くらいだろうか。じゃがそいつも生きてるか死んでるかわからないくらい真っ白じゃったぞ」

「真っ白?」


 ……確かにモルニア商会の連中もだいぶ白い感じだが……それを更に強くした感じか? 俺はふと以前どこかでそんな真っ白い人間を見かけたことが合ったような気になる。どこだったか……。


「真っ白くて、アルビノじゃないか? って人見たこと有った気がするんだけど、その時みっちゃん一緒に居なかったか?」

「え? アルビノ??? うーん……あ。シュワの街だったかな? 雨の中佇んでいた人」

「ああ……そうかも。そうかも。うんうん。じゃああの時のも?」


 そう言えば、だいぶ前になるが正月に2人でエルフの集落まで旅行したことが有ったな。たしかあの時に雨の中にぼ~っと佇んでいたアルビノっぽい人を見た気がする。そして……次の日みつ子をナンパしようとしたイケメンが、ギルドで魔物を盗まれたという話をしてたのも。


 間違いない。あの白い連中か。


 それにしてもモルニア商会の連中も一般的な感覚で言えばかなりの色白だ。やっぱり何か関係あるのだろうか。即身仏みたくミイラになっちゃうとか。そんな事を考えると、報告を終えた爺さんがつぶやく。


「ふむ、それじゃあワシは本来のやり方でやらせてもらうかの」

「本来のやり方?」

「遠くからひっそりと、相手に気が付かれずに、知らないうちに殺る。そうやって戦ってきた。近接は得意じゃないんよ」


 そう言えば、対剣聖の時も俺もモーザも分からないところからか狙撃してきてたな。戦争時はシモ・ヘイヘみたいな存在だったのかもしれないな。ていうか近接が苦手とか言いながらそれなりに強えよな。俺が会得した剣聖の剣技も誰よりも早く理解して仲間たちに説明してたし……。


「なるほど、狙いの状況判断は任せる、頼んだぜ」

「アリステを汚した奴らは容赦せんよ」


 気配を消しながら森の中に紛れていくゾディアックを見ながら、フルリエとかもそういう方向で教えてもらおうかななんて考える。




 木々の隙間からそっと集落を覗く。たしかに、建物の屋根が3つ見える。しかも1つはだいぶデカイな。呪い的な感じは……たぶんある。なんとも言えない嫌な空気があたりに漂っている。淀んでるとも言える感じだ。そして、入り口っぽいところにあきらかにアンデッドと思われる死んだ目をした男が2人立っている。


 2人のアンデッドまでの距離は25mくらいだろうか、プール的な感覚で距離を測る。

 モーザに、手振りで俺が行くと合図するとモーザは少し不満げに頷く。まあ行きたかったんだろうな。他にも戦う相手は居るんだ、あまりがっつくなよと思うが、今は声を出さないようにそっと、襲撃の態勢を取る。


 2体のアンデッドはなんだろう、クンクンと生きた人間の匂いでも感じるのだろうか、微妙にこちらの方に反応をする。あまりノンビリもしていられないな。俺は一気に飛び出し2体に向かう。


 タッタッタッ!


 3歩で2体までの距離をゼロにする。それだけの蹴り足だと音は消せない。響かないようにジンに風魔法で反響は防いでもらうが、それでも漏れる音なのか俺の気配に反応するのかアンデッドが反応する。2体揃って、まるで機械じかけのように同時にこちらを見る。3歩目。目線が合うと同時にで斬撃を浴びせつつ後ろに飛ぶ。


 俺は後ろに下がりながら余裕を持って2体のアンデッドが崩れていくのを確認する。同時に俺の感知で捉えられる範囲を確認するが今の所問題無さそうだ。

 

 

 予定では中に入ったら、人間に関しては出来る限り<ノイズ>と<ラウドボイス>で無力化していく。そして残ったアンデッドはすべて倒し。無力化したスラバ教徒の連中は縛り上げて、あとはゆっくりと遺跡とやらを埋めてしまうと言う感じだ。完璧だ。


 後ろから仲間がついてくるのを感知しながら、門をくぐり中に入っていく。中にはやはり人タイプのアンデッドが大きめの小屋から数体出てきていた。それを白いスラバ教団の男が従えている。よし、あいつからだ。


 なるべく音を立てず<ノイズ>の範囲まで入ろうと俺は男に向かって走り出す。だが遮蔽物もなにもないところだ。男も俺に気がついたようだ。視線が交わるが状況についていけない男に俺は向かっていく。



 ボゴッ。


 え?


 門を抜けて、5m程走った所で突然俺が踏んだ所の土が抜ける、そして俺はそのまま穴に落ちていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る