第287話 アンデッドは夜に蠢く 3

「ショーゴ、ちょっと良いか?」

「どうした?」


 襲撃してきたアンデッド達があらかた片付けられた頃、神妙そうな顔でモーザが話しかけてきた。なんだろうと呼ばれるままにモーザが戦っていた辺りまで連れてこられる。


「おお、いっぱいやっつけたなあ」


 現場には大量に倒れれたアンデッドの中、「オデも頑張ったんだど」と言わんばかりにハーレーが胸を張って俺を見下ろしている。ムカつくのでそのハーレーと目を合わさないようにと足元を見ると一匹のアンデッドを踏みつけていた。


 ん? 見ればそのアンデッドはまだ生きているようで、もそもそとハーレーの足から逃れようと悶ている。


「んっと、こいつ……の事か?」

「ああ……」

「こいつがどうした? 知り合いか?」


 モーザに答えながらそのアンデッドの顔を覗き込む。


 !!!


「え??? えっと……たしか、ベンソンさん???」

「そうだ……覚えていたか?」


 覚えているも何も、オーク討伐時に副団長と一緒に必死に逃げてきた仲だ……流石に短い交わりだったため、一瞬名前が出てこなかったが生死をともにした仲だ。忘れはしない。

 あの時は一息ついた所にやってきたアペルとイペルの兄弟に殺され――。


「……アペルもいたのか?」

「ああ、それは俺が片付けた、そこらへんに転がっているだろう。流石にベンソンさんは……俺の子供の頃に遊んでもらった事もあったからな、みつ子に浄化してもらいたくてな」

「……そうだな。あの時は余裕もなくて、アペルも簡単に埋めただけだったが……くっそ。そんな遺体まで攫ってったのかよっ」


 考えてみれば村を襲ったオークのアンデッド。あれだけのオークのアンデッドを用意するなんて、あの戦闘の後で集落で遺体を集めたと考えれば自然だ。そして、その過程で死んだ2人の遺体もついでに……というわけか。思ったより大きい組織なのだろう。


「おお! ショーゴだったなっ! さ。俺を開放しろ。これじゃあお前を食えないじゃないか。くっそ。なんだこのドラゴンはっ!」

「いや、なんていうか。ベンソンさん……すいません」

「おう。許す。早くコイツをどかせろ。モーザの野郎。あいつは生意気だな。喰おう。うん。それがいい。美味そうだ」


 ……なんか。それだけ食欲を見せてくれるとゾンビっぽくてわかりやすい。まあオーヴァもアリステも微妙にそうだったが、ここまでガツガツはしてなかった。やがてやってきたみつ子がベンソンさんを浄化していく。

 ホーリーの光の中で徐々に顔の表情が落ち着いていき、やがて穏やかな顔で眠ったように動かなくなる。そんな姿を見て俺もようやくホッと落ち着く。


「みっちゃん、ありがとう」

「うん……」




 アンデッドは一塊に積み上げ、火葬することにする。一応みつ子とプレジウソの2人で動かなくなったアンデッド達にも浄化処理もしてからだが、みつ子のバーナーの魔法で一気に焼却を始めると、若干引き気味のプレジウソがこれは何かと聞いてくる。


「ああ、鍛冶場とかでも使うけど火に風を送ると火の力が強くなるじゃないですか。みつ子はもともと火魔法が得意だったので、風魔法も覚えさせて混合させるとこんな具合になったんです」

「な、なるほど……しかし凄いな。これは」


 まあそうだろう、もともとのみつ子の魔法の威力も半端ないんだ、こんなでかいバーナーは普通の魔術師が覚えても出せないと思う。



 今回の襲撃はベースが人間のアンデッドを集めたのだろう。オークの親玉がオークやゴブリンを引き連れていたが、そこらへんはベースになってる種族毎の相性などがあるのだろうか、それとも裏にいる人間のきっちり分別したいとか言う性格だったりするのだろうか。


 だが、これで相手の戦力はかなり削ったと思われる。後は生身の人間。モルニア商会なのかスラバ教団なのか分からないが、人間との戦いになるかもしれない。

 俺としても知り合いがアンデッド化されたのもあり少し他人事じゃ無くなってきてる。きっと思う存分ぶっつぶせる気分だ。



 深夜の戦いから少し皆仮眠をとってもらう。みつ子も流石に1時間以上火炎放射を続けてただけ有り少し疲れた顔をしている。もうちょっと明るくなるまで仮眠を取るように勧め、まだジュクジュクと煙を上げるアンデッド達をボーッと眺めていた。

 年寄りは朝が早いな。いつもと違い気配を消さないままゾディアックが近づいてくる。


「ショーゴよ……ありがとうな」

「ん? 俺は何もしてないよ。ジイさんが自分でやってきたことだろ?」

「そうじゃがな。お主が居なかったらこんな離れた島まで来ることは無かったじゃろ」

「……」


 珍しく、ジジイは大人しいというか、素直な感じというか、なんとも棘が抜けたような反応だ。ずっと探していた妻を供養できたというのもあるのだろうが、なんとなく人生の目標が終わって生きる張り合いが無くなったりしないか不安になる。


「……なんか……」

「……なんじゃ?」

「いや……なんていうかさ」

「ん?」

「一気に老け込んだ?」

「なっなんじゃと???」


 お、老け込んだって言われて少しいきり立ったか? なんだまだ行けるんじゃねえか。


「しっかりしてよ。帰りの船で介護とか厳しいんだから。ボケるなら大陸に戻ってからで。な」

「まったく。お前は年配者を敬うとかないのかい?」

「年配者だろうが、うちの社員だ。部下はきっちり管理するさ」

「ふぉっふぉっふぉ」


 まあ、それでもこんな島まで追っていた目的を達成したんだ。すぐには気持ちは立ちなおらないかもしれない。だがもうゾディアックも俺たちの仲間だ。きっちり寿命まで駆け抜けてもらおうじゃねえか。




 日が昇り、みつ子が仮眠から起き出すと、皆でちゃんと朝飯をとり再びハーレーに乗って出発する。


「あそこの山か……」

「わお。麓だったよね。登ることにならなくてよかったよ」

「えー。なにげに登山って楽しいよ? この仕事終わったらさ、大陸でどっか山にでも登りに行こうよ」

「えー。それって楽しいの???」


 むう。みつ子は登山の素敵さを知らないらしい。そのうちにちゃんと教えてあげないとな。


 森の切れ間からは、それなりにちゃんとした山が見える。予想としてもう少し丘っぽい物を予想していたのだが、峰も3つくらい並んだ連峰とも言える感じだ。地図によるとその真中の峰の麓ということだ。後は内陸をひたすら目的地まで向かっていく感じだ。


 この日のうちに到着すると思えたが、少し時間が半端になりそうだ。昨日の夜は寝る時間も短かったし、今日は早めに移動を止め、明日の早朝に遺跡に向かう予定で野営を行った。





※おはようございます。

 遺跡辺はもしかしたらちょっと悩みながら書く……かも?

 また更新滞っても生暖かい目で見守りくださいな。

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