第294話 遺跡封印 3

 モーザが帰ってくると状況を説明してもらう。


 モルニア商会がスラバ教団の表の名前で、この島に来る大きな理由である「貴重な薬草が有る」という話も嘘であるという事。そして遺跡を掘り起こし、ヨグ神の復活まで企んでいた話を伝えてもらった。かなりオーバーに手紙には記したが、村は大騒動になったらしい。

 それでもどこの馬の骨かも分からない俺たちより、モルニア商会を信じようという者も多く、モーザの連れいていった教団員はとりあえず村長預かりで、自警団が管理をしているようだ。


「そっか、ご苦労さん。じゃあ次もよろしく」

「なに? すぐにか? すこしは休ませろよ」

「えーしょうがないな」


 まあかなりのスピードで往復してきたんだ。ずっと揺れられてシンドいのは分かる。行きも教団員をくくりつけたまま1日で村まで踏破したらしいからな、教団員はグロッキーだったらしいが。


「で、食料的なのはもらってこなかったのか?」

「……必要だったか?」

「おーい。見てみろよ、ほぼほぼ保存食ばかりだろ? せっかく村に行ったんだからさあ、頼むぜ」

「……分かった次は貰ってくる」


 話を聞いていたフルリエは「ショーゴさん」と俺を責めるように言う。せっかく片道1日かけて村まで往復してくれたのに何を言ってるのよと。まあ、言われてみれば頼まなかった俺も悪かったんだけどな。俺とモーザの関係も長いからな、あんまり遠慮とか無くなってはいるんだなあ。

 ただ、モーザも自分の気の利かないのに少し感じるところがあるのか、申し訳無さそうに次元鞄から一本の瓶を取り出す。


「その代わりといっちゃ何だが、ホレ。これでどうだ」

「……おおおおっ。っと」


 俺はモーザの差し出した物を見て少し声を上げそうになる。が。慌てて周りを見渡してトーンを落とす。


(最近みつ子が厳しいからな。これは俺の次元鞄にそっと入れておく)

(ん? ミツコには内緒にするのか?)

(いや、別に内緒って訳じゃねえよ? たださ。ほら。こういう非常時だからな、なんとなく)

(なんとなくって何だよ)

(なんとなくは、なんとなく。だ)


 コソコソと話し始める俺とモーザにフルリエはフフフと、お姉様的な笑みを向ける。うん。きっとフルリエは大丈夫だ。空気を読める大人の女性だからな。

 


 そのフルリエは、捕虜に食事を持っていこうと用意していた。俺はフルリエの機嫌を損ねないように……何ていう下心は全く無いが。俺が変わるよと教団員を閉じ込めてある小屋に向かった。

 中に入ると鬼の形相でボストークが睨みつけてくる。怖い怖い。


「神を恐れぬ異教徒めっ! 決して許さんぞ!」

「いやいやいや。むしろ他の神様からの依頼だから。ヨグ神は駄目だから封印してって」

「ありえん! 貴様のような唯の人間が……私のように祝福を受けた――」

「ああ、良いから。そういうの」

「なんだとぉ!?」

「う~ん。次は誰を運ぼうかな……」

「くぅゔゔゔゔ」


 なんか偉そうにしているやつが悔しがってる顔はちょっとスッキリするな。ボストーク含めた残り四人は小屋の一番太い柱に4方を見る感じで縛り付けられている。何も出来ないしな。俺は水分がだいぶ減ったパンを手に4人に近づいていく。


 4人の口元には小さい木の板が紐で吊るされている。俺考案の『縛られても食事できる君』だ。そこの上に1つづつパンを置いていく。そして上にある鉢に水を満たしていく。この鉢からは4本の管が伸びていて『縛られても食事できる君』に固定されている。

 たまたま次元鞄に入っていた何かの魔物の血管を加工したチューブだ。以前店で見かけて、なにかに使えるかなと買っておいたのだが、ドンピシャだった。


「夕飯だ。ハンガーストライキは別に止めないからご自由に」


 捕虜の取り扱いはジュネーブ条約だっただろうか。良くわからないが少なくともそれに準じた扱いでは無いよな。俺はそのまま小屋から出ていこうとすると、1人の教団員が「すまん、用を足したいんだ」と言葉を漏らす。とくに意地悪するつもりはない。俺は「あいよ」とそいつの拘束を外し、外へ連れ出した。


 いつもゾディアックやフルリエがどこで用を足させているのか知らないので、適当な場所へ連れて行く。草むらでちゃんと用を足しているのを見守り、小屋に戻っていく時に男がふと立ち止まり、みつ子たちを見て聞いてくる。


「あれは……何をしているんだ?」

「ん? 遺跡の封印だよ。ああやって<聖刻>を刻んだ石で埋めていこうと思ってな」

「せっ聖刻だと!?」

「ああ、聖魔法でアンデッドを浄化出来るんだ。それでびっちり囲めば呪いの力も抑え込めそうだろ? 実際過去の勇者はそれで封印をしたらしいしな」

「……何という事を……」

「いやむしろそれを掘り出したお前らが、何という事を、だぜ?」


 男は唖然とした顔で俺たちの作業を見ている。俺は軽く小突いて小屋まで戻るように促した。




「ねえ、省吾君。もっと大きい石は無いの?」

「え? なんで?」

「この数の聖刻は、ちょっと流石にしんどいなあって。ねえプレジウソさん」

「ん? そうだな……だが、俺はみつ子さんと比べてかなり魔力が足りなくて申し訳ない」

「いやまあ、それは気にしないで。レベルだって違うし」

「ううむ。ミドー。もっと大きいのが良いって」

「旦那~、そこまで大きい石は埋まってたりして取り出すのが時間かかるんですよ~。……でもまあ、もう少し大きい石ですね。了解です」


 まあ、ミドーとしてもとっとと大きい石で埋めちゃって終わらせたいだろう。探してみると約束してくれる。

    

 ただ、大きい石だと、隙間が出来やすい気がするんだよなあ。教会に聖水が置いてあるように、細かい土とかでも<聖刻>がある程度刻める。それで隙間を埋めているのだが、なんとなく石とかに刻まれたものより薄い感じがしてしまい、あまり隙間が大きいと呪いが漏れないかとか考えてしまう。


 山からの石の採取などはミドーとジンに任せて、遺跡を直接石で埋める作業は俺が1人でやっている。遺跡の周りをデザイニングをしてると、みつ子が様子を見に入ってきた。



「……なにこれ」

「ん? どう? 結構いい感じで埋まってるでしょ?」

「……」


 ん? なんかみつ子の反応はあまり良くない。


 俺は少し広めの空間を石畳の如く<聖刻>が刻まれた石をきれいに並べていた。これはこれで難しいんだ。石の形や大きさを合わせながらパズルのように並べていく。並べそれが終わると次の段を並べていく。あまり並行でやりすぎると入り口が入りにくくなりそうなので、今は奥の壁に沿って綺麗に石垣の様に積み始めているところだ。


「こんな綺麗にびっちり並べる必要あるの?」

「え? 必……要???」

「なんか、私達が<聖刻>刻むより、省吾君が石を洞窟の中に運んでいくスピードの方が遅いから、変だなって思ってたのよ」

「あ、ああ。みっちゃんたち頑張ってるもんね」

「そうじゃないでしょ!? こんなビッチリ綺麗に並べなくてもいいじゃない。もっと早く積んで終わりにしちゃおうよ」

「えっと……まじで?」

「うん」


 むう……女性はこういう石積みのロマンが分からないんだろうな。納得は出来ないが、ある程度は致し方ない。もう少しこだわりを減らして積んでいくか……。


「でもまあ、今日はこのくらいにしておきましょ。フルリエさんが夕食用意してくれているわ」

「お、おう。じゃあ、これだけ積んだら戻るわ」

「……適当でいいからね?」

「う、うん」


 俺は寂しそうに。芸術的に配置された石を眺めた。

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