第295話 遺跡封印 4

 翌日、再びモーザが村に向かっていく。適当に選んだ教団員はかなり口汚く俺たちを罵り抵抗する。モーザも面倒くさそうに<ノイズ>で気絶をさせてハーレーの背中にくくりつける。そんなのを見ていると、酷い事をしているような気分にもなるが、邪神を復活させようとする危険な人たちだ、実際敵陣営なわけだしな。お互いに殺し合いもした。


「じゃあ、飯系もよろしくな」

「ああ、分かった」

「気をつけていってこいよ」

「問題ない」


 ハーレーはやっぱりモーザと2人で思いっきり走り回るのは嬉しいようだ。ブルンブルンとしっぽを回しながら早く行こうと急かしている。


「ハーレーも気をつけろよ、モーザを頼むぜ」

『あ~。任せておけって事だ。オデが居る限り何の問題も起こらないで』


 トラブルメーカーのハーレーの根拠のない自信をスルーしてモーザに手をふる。モーザは苦笑いしながらハーレーの首筋を撫でてやると、ハーレーは気持ちよさそうな顔をする。ホント。この2人は仲が良いよな。



 やがて出発したモーザを見送ると、フルリエが話しかけてきた。


「ショーゴさん、少しなにか野菜や、果物で食べれそうなものを探してきたいのだけど良いかしら?」

「ん? ああ。少し栄養偏っちゃってるか。でも1人じゃ危ないから爺さんと一緒に行ってきなよ」

「ゾディアックさん? でも教団の人たちは?」

「まあ、あれだけ拘束して魔力も封じてあれば大丈夫だろ。飯とかも俺がやっておくからよろしくな」


 確かにここ何日か行動食とか携行食ばっかりだもんな。何かあれば助かる。フルリエはゾディアックに声をかけて、森の中に消えていった。

 ミドーとジンは山に石を集めに行き、みつ子とプレジウソが石に聖魔法をかけていく。昨日までと同じだ。俺は……ミドー達と一緒に山に石を探しに行く。ちょっと大きめの石という狙いのサイズが変わったのも在るため、俺も付き合う。


「こんな感じかな?」

「ですねえ。でも少し奥に行かないとなかなか良い感じのが無いかもしれませんね」


 石は基本的に沢沿いのところが集めやすい。拾った石は教団の連中が使っていた二輪車に乗せて運ぶのだが、タイヤが木製のため微妙に使いにくい。特に石が増えると重くなり結局2人で押す感じにはなる。予定としては<聖刻>前の石のストックがある程度増えたら今度は石積みの方をしようかと思っている。


「あとどのくらいかかりそうです?」

「う~ん。一週間位で終わらせたいよな」

「まだそんなかかりますか。はぁ。モーザさんは村で晩酌とかしちゃったりするんですかねえ」

「うーん。どうだろうなあ……うーん。うーん」


 実は昨日モーザから差し入れでもらった酒を1瓶もらったんだが……どうしてこういうタイミングでそういう話が出てくるんだろうか。まあジンは酒を飲めないからどうでも良さそうな顔をしているが、ミドーもしばらく酒を飲んでいないのか。


 今夜こっそり1人で飲もうと思ってたんだけどなあ。ミドーは酒に強いから飲まれることも無いしなあ。まあ、ちょっとなら……。


「よし、ちょっとだけ休憩しようか」

「え? いやまだ全然疲れてねえっすよ」

「いやまあ。な。良いのがあるんだ」


 そう言いながらカップにトウモロコシから作ったらしい酒を注ぐ。ミドーもすぐにそれが何かを理解したのか、ゴクッっとつばを飲み込み休憩する態勢に入る。ジンには、ドクペシロップを水で希釈して渡す。ジュースで良いんだ。子供はなっ!


「おおおお。旦那。良いんすか? ありがてえ」

「仕事中だから一杯だけだぞ? あと……みつ子にも内緒でな」

「え? 姐さんには内緒なんすか?」


 そう言いながらミドーは並々継がれた酒を眺め、一瞬の躊躇を見せる。


「このくらい、どうってことないだろ。肉体労働で汗もかけばすぐに飛んじまう」

「そ、そうですね。たまには……甘えちまいましょう」


 ジンも嫌なものを見ちまったと言う表情をしていたので、俺は100万ドルの笑顔とともにウィンクでごまかす。俺のウィンクにキョトンとしながらも、苦虫を噛み潰したような表情をしながら「僕は関係ないですからね」と後ろを向きグビッとジュースを飲でいる。

 ふふふ。若いな。ボウズ。


 モーザに貰った酒は、やや焼酎っぽいアルコール度の高めの酒だ。だがコップ一杯だけだ。大した問題も起こりはしない。

 俺も自分のコップに波波と注ぎ、グイッと胃に流し込めば、久しぶりの感覚にしばし酔いしれる。いや。こんな一杯じゃ酔わないけどな!



 そう。俺もミドーもこのくらいじゃ酔うことは無いが、久しぶりの飲酒という魔力にご機嫌度も増す。ただ石を運ぶだけのルーティンワークにも耐えられるというものだ。



 それから二往復ほど、石運びをする。そろそろ<聖刻>した石がたまり始めたのでと、みつ子にそっちの方を頼まれる。


「省吾君、じゃあ、洞窟の方良い?」

「ん? ああ了解。じゃあそっちに回るね」

「うん、あ、<聖刻>かけるからっ」

「お、おお。よろしく」


 ん……あまり近づくと匂いがバレるかもしれない。そんな不安を懐きつつ絶妙な距離でみつ子に保護の<聖刻>をかけてもらう。


「ん? どうしたの?」

「え? なにが?」

「いや、なんか急いでるっぽいから」

「はははは。急いでなんてないよ。全然。まったくだ」

「ふうん……なんか、顔赤い?」

「へ? ああ。これだけの天気だ。少し日に焼けちゃったかな。美白の美少年が台無しだね」

「美少年とか……」



 俺は変に疑われる前に、準備のできている石を両手に抱えて洞窟の中に入っていく。それでも少しは形を揃えて行きたいんだよな。と、先に<聖刻>済みの石をどんどんと遺跡のある空間へ運んでいく。全部運び終わってから、いろんな形の石を合わせながら積むのが賢いやり方ってわけだ。


 <聖刻>が終わってる石をすべて洞窟の中に運び終わると……大きさを比べながら配置をしていく。


 そう。


 みつ子に適当でいいよと言われても、なかなかはいそうですか。と行かないのが男のコダワリというやつだ。いい感じで石がハマると、思わずニヤリとしてしまう。簡単なルーティンワークでもそんな楽しみを見つけるのは悪いことじゃないんだと思うんだよ。



 そして在庫していた<聖刻>済みの石をすべて持ってきたので、しばらくは外には出ないか……うん……もう一杯だけ……良いかもしれない? うんうん。一杯くらいじゃ全然酔わないしな。<強回復>もあるし。うん。これからもう少し石積みも続けなくちゃいけないしな。


 ……



 グビッ。





 ◇◇◇


 ……。


「彼奴等……これ以上聖柱の封印などさせられないですよ」

「うむ……しかしこれでは……」

「ボストーク様。いつでもヨグ神にこの身を捧げる覚悟は出来ています。このままだとあの2人と同じ様に村に連れて行かれてそれもかなわない!」

「……分かった。ヨグ神の力のあふれるこの地なら、魔力を封じられていても……あるいは」

「ボストーク様なら必ずや出来ると信じております……ん? 今彼奴等、一人になっています。よし……今しかない。ふぅ……ふぅ……後は頼みます。良いな。お前らも命を惜しむな」

「おう。永遠の命を得たら、そのときはまた」


 ……。


「……お前らの命。決して無駄にせん」

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