第271話 村の奪還

「おお~、村長お元気になられて」


 俺はやってきた村長の顔を見て声をかける。実際昨日とも比べてもだいぶ顔色もよくなっている。元気になると、あ~強そうだなって雰囲気もある。声を掛けられた村長は覇気をムンムンと漂わせながら笑顔で答える。


「ショーゴさん。昨日はありがとうございます。いや。わざわざこんな遠くの島まで来て頂きありがとうと言うべきですね。村人の治療までしていただいて……。私のことはファーブルと呼んでいただければ」

「ファーブルさん。ですね。でも、あまりお気になさらず。こういうのはお互い様ってやつですよ。昨日はみつ子が頑張ってくれたので、今日は僕らががんばりますよ」

「お互い様……ふふふ。父がよく言っていた言葉です。ありがとうございます」


 なんとなく、モーザ様一辺倒で行けるかとも思ったが流石に村の長を務める人間だ。オレたちのグループのリーダーが俺という事でちゃんと俺のことを立てて対応してくる。もしかしたらシャーロットさんから何か言われてるのかもしれないけど。

 それにしても、勇者も使っていたのか「お互い様」日本人的で良い言葉だよな。



 それから今日の予定についてすり合わせをする。

 一応こちらの戦力はハヤトを通して伝えてある。タンクのミドー。アタッカーで俺、モーザ、フルリエ。後衛に、みつ子、ジン、ゾディアック。という事で、ハヤトはオールマイティーで俺たちに加わる予定だと。

 この島の人達と比べ戦力的に違うかもしれない、とは言ってないだろうな。


 戦力の問題として、この島では金属は貴重だ。当然鉱山などもない為、ここまで来た船を分解した際に出た鉄などを溶かして武器や生活道具を作っている。鉄自体をリサイクルして使うしかない状態という。

 今回はその話もあり、メイセスはエリプス王から10本程の剣を譲り受けているという。それもすべてミスリルなどの希少金属を使った物だ。この島にも希少金属の剣はあるらしいが、ミスリルの剣など勇者や仲間が持っていた数本を大事に使っていた位らしく、200年の間に破損等でその数は減らしている。

 破損した希少金属の加工を出来る鍛冶師も居ないらしい。こうなると裕也も連れてきたかった気もするが、まあ無理なものは無理だな。


 メイセスが持ってきた剣を渡されたらしい戦士たちは誇らしげにファーブルの後ろで指示を待っていた。



「走れば30分ほどで村まで着くだろうという話だが?」

「そうですねえ。ユピーと歩いてくるのに掛かった時間を考えれば、そのくらいあれば」

「それは全員そのスピードで行けるということか?」

「ジンは、ちょっと厳しいかもですが、回復魔法を使えば問題ないかなと」


 ハヤトから聞いているのだろ、俺たちならさっと村の状態を見てこれると。ファーブルの後ろで聞いていた若い戦士が「ホントか?」と訝しげな顔をする。だが、そのまま、まず俺たちが先に村に行き、村の安全を確保したら、村人たちを移動させる予定で話は進む。


「村長! それじゃあアタシ達は何もしないで彼らにすべて任せるって事なのか?」

「そうわけじゃない。村人たちが村まで無事に着くように護衛をするのも大事な仕事だ」

「だけど……」


 まあそういう反発もあるよなあ。分かってるけど。きっと俺たちが戦ったほうが犠牲が少ないだろうって考えると、このままで行きたいんだよな。それにしても反発心むき出しのこの子……成人なのか?


 戦士たちの中に赤毛の小さい女の子が1人混じってるんだ。違和感バリバリだ。それでも他の戦士たちと同じように武装して戦いに赴く格好はしている。俺がなんとなくチラチラ見ているとそれに気がついたその子は不機嫌を隠さずに噛み付いてきた。


「何見てるんだよ。小さい島の戦士だからって馬鹿にしてるのか?」

「へ? いやあ。バカにしてないっすよ。ほんと」


 うわ。噛み付いてきやがった。小さい島の戦士じゃなくて、島の小さな戦士。の間違いじゃないか? などと突っ込みたい気持ちを必死に我慢する。


「けっ!! ジロジロとイヤラシイ目で見やがって。長い船旅で溜ってるのか?」

「ぶっ。駄目だよ。女の子がそんなはしたないっ!」

「なっ。女の子だあ!?」


 おいおい。なんだいきなりシモで攻めてきやがったぞ。この幼女。

 すると、慌てたようにファーブルが間に入ってくる。


「フィービー! やめないか!」

「だ、だってさ――」

「ショーゴさん。申し訳ない。この子もこう見えてちゃんと大人なんだ。ドワーフの血が混じっているから少し身長が小さいが、勇者の血も引いている貴重な戦士なんだ」

「ドワーフの???」

「ぞ、村長ッ! え? こいつ私を子供かと思ってたのか???」


 なんか、俺がこのフィービーと呼ばれた子を子供だと思っていた事を全く想定していなかったようだ。俺は……何も言えず、苦笑いでこの場を済まそうとする。


「……」

「……いや。それでも私はコイツラと一緒に村に行くからっ!」

「フィービー。あまりショーゴさん達を困らせるなっ!」

「あ~。村長。フィービーさん。僕らは大丈夫なんで、一緒に行きましょう。村の案内とかしてくれる人がいると助かりますし。ね?」

「し、しかし……」

「メイセスさんが来る予定だったんですよね? メイセスさんも長旅で帰ってきたばかりですし、ここは元気の有り余ってるフィービーさんにお願いしましょう」

「おう。分かってるじゃん! よし案内してやるよっ!」


 ま、まあ……変に揉めるより良いよな。ふと横を見るとみつ子が腐った目でブツブツと呟いている「ほほう。ドワーフの血? 勇者の血……なるほどマフィーの曾孫? いや玄孫か???」


 マフィー??? 昨日読んでいた勇者のノートにドワっ子との恋バナも載っていたんだろうな……。やっぱ娯楽の少ない世界だからなあ。みつ子にはちょっとした恋愛小説的に楽しかったんだろうな……。



 船を降りると海岸で寝ていたハーレーが嬉しそうに尻尾を振る。それだけでデッキから眺めていた島民らは「おお~」とどよめく。ほんと得な存在だなあ。ドラゴンは。


 それじゃあ、とファーブルに声を掛けて浮き桟橋を渡っていく。近づくにつれハーレーの大きさにフィービーが少し怖気づくのを感じる。


 ううむ。尖っている子のそんな姿を見るとちょっといじりたくなってしまうのが人の子だ。


「フィービーさん。じゃあ、ハーレーに乗りますか?」

「へ? な、な、なに?」

「いや、そこのドラゴンに騎獣具つけるんで、乗っていきますか?」

「は、走るんじゃなかったのか?」

「僕らは走りますよ~。なんとなくドラゴンに乗ってみたそうな顔をしてたんで」

「だっ大丈夫だ!」

「ですか~?」


 まあ、このくらいで。フィービーは少しホッとしている感じだったが、でも気になるのかチラチラとハーレーに目を向けている。モーザも走るつもりは無いらしい、さっさとハーレーに騎乗すると、俺の方を向き「まだかまだか」と熱い視線を向ける。


「じゃあ、行きましょう」


 こうして村を取り戻す作戦は開始された。

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