第270話 オゾン号 4

 大きい船と言ってもシンプルな作りなので程なくモーザ達は見つかる。どうやら村の戦士たちと話をしているようだ。なんだろうと、近づいていくとすでにモーザは英雄のような扱いをされている。俺はニヤニヤと近づき話を聞いていた。俺に気がついたモーザがチラチラと嫌そうに俺のことを見る。

 どうやら、モーザとハーレーが居れば村の開放は問題なく出来ると、戦士たちがテンションを上げているようだ。村長が回復した話もあり、村長の体調が戻ったらすぐにでも出発しようという流れのようだ。


 まあ、ウルフとかばっかりなら開放は楽そうだけどな。その前に船で待ってる人たちはどうするんだろう。交渉役のハヤトを怪我をした村人たちの回復に行かせちゃったので、話が止まっている。戻ってシャーロットさんに、とも思ったがちょっとタイミング的に恥ずかしいな。俺がでしゃばるのも良くないか。


 

 そして今日の俺達の眠る場所へ案内してもらう。と言っても部屋があるわけでもなく、なんとなく空いていそうな場所を探して「ここらへんで寝てもらって良いか?」というくらいの感じだ。もちろんわがままを言うつもりもないし、ありがたく使わせてもらう。


 やがて、みつ子とハヤトも戻ってくる。


「おお、みっちゃんお疲れさん。なんか無茶振りしちゃってごめんね」

「ううん。大丈夫。でも久しぶりに回復しまくったなあ。最近、みんな怪我もしなくなってきてるからわりと出番なかったもんね」

「ハヤトはちゃんとやってたか?」

「ちゃんとって……もう、子供じゃないんだから」


 まあ、そうか。ハヤトも十分怪しいエージェントやってるしな。


 船は古いだけあってよくぞ状態をキープしてるなって感じなのだが、もしかしたらそういう状態を維持をするような魔法とか掛かっていたのかもしれない。今じゃ魔力の気配は感じないが。


 俺たちは天井の低いだだっ広い部屋の真ん中あたりのスペースでまとまって一晩を明かした。過去の勇者のノートを開きたかったが、流石に日の入りとともに寝静まる船内で<光源>出して読むのは憚れる。




「ん~~。やっぱ硬い板の上だと寝起きで体が少し痛いな」

「まあ、皆そうやって寝てるからね。文句は言えないね」


 朝起きると、すぐに村の戦士っぽい若者が呼びに来た。村長も起きて早めに村を取り戻そうという話らしい。俺たちはとりあえずハヤトに行ってもらう。ハヤトは俺にも一緒にと言うが、まあ俺は行って戦うだけだ。細かな作戦はおまかせすることにする。


 現状、村にアンデッドは居なかった。その事を考えると奪還はそう難しいとは思えない。俺たちがやっつけたアンデッドは意思を持ってあの場所に留まっていたのかは解らないが、今村に行ってもそんな問題はないような気がするんだよな。


「ハヤト、俺達はいくらでも戦うからさ。先に露払いに行っても良いぜ」

「え? ……でも村長をあんなにした親玉みたいなのが来たらさ、そう簡単じゃないんじゃない?」

「ハーレーにバンバン頑張ってもらえば行けそうな気がしない?」

「うーん……」

「それに、剣聖の秘訣。まだ完全じゃないけどさ、この航海で皆の強さも底上げ出来てる気がするんだよなあ……」


 で、これはあまり大きな声で言えないけど。メイセスさんの戦闘を見て、あれ? もしかしてあまり強くないのかな? なんて思っちゃった自分が居るんだ。大陸のようにダンジョンでオーブを探したり、教会でスクロールを買ったり出来るような環境ではない。流石に村長レベルで長生きをしていればかなりの強さはあるんだろうが。

 なんとなくこの世界のレベル的な強さじゃなく、技術的な戦いをしてきているような気がする。


 コソコソとそんな話をハヤトに耳打ちすると、ハヤトも「うーん」と考え込む。一応モーザも会議に参加するように言うが、嫌そうだ。それでもメイセスが連れてきたキーマンなんだからと、無理やり行ってもらった。



 会議に向かうハヤトとモーザを見送ると、俺はみつ子に声を掛けて勇者のノートを少し見てみることにした。みつ子も興味深く読み始める。


「えっと、なになに……へえ、トラックに引かれそうな子供を助けようとして死んじゃったのか、うんうん。勇者くん。完全に主人公ね」

「え? いや。みっちゃん。俺もトラックよ?」

「うーん。スマホ見ながらウォーキングしてて、でしょ?」

「う、うん……」


 まあ、人助けはしてないな。


 その後、女神と出会い光の勇者としての適性を貰ったらしい。陽キャでありながらゲームもこなしたことのある彼は、効率的にレベル上げをこなし、出会った仲間たちも一緒に育てていったようだ。ただ、あまり細かくは書いていない。日記というより、自分の回顧録のようなものだな。うんうん……来る女の子をすべて受け入れてやがる。


 なんか、段々と読むの嫌になってくるな。


「まあ、私的にはハーレムは……ねえ」

「も、もちろんさっ!」


 それでもあえて日本語で書いてあるって事は、俺達みたいな転生者に向けての記録なんだろうけど。転生者どうしのチート自慢合戦とかしようというつもりなのだろうか。


 ハーレムNGと言いながらも、みつ子はいろんな女性達との出会いの話を興味深そうに読んでいる。俺は興味を無くしていたため、面白い記載があったら教えてと、ノートをみつ子に渡して雑談をしていたミドーやジンらに混じる。

 ミドーは、チラッとノートを見ていたが、全く読めない文字に不思議な顔をする。


「あれって、過去の勇者の書いたやつなんすか?」

「ん? そう。読めないだろ?」

「やっぱ旦那と姐さんは読めるんですか?」

「うん、まあな。大したこと書いてねえけどな」


 ゾディアックも興味を持ったのかノートを覗く。


「ふむ……おぬし、渡河の者じゃったか……」

「渡河??? ああ、そういう言い方もあるのか。まあ、爺さんには言ってなかったね」

「なるほどのう、それならお主の異常性も納得じゃわ」

「ちょっと、異常性とかやめてよ」

「ふぉっふぉっふぉ」


 まあ、ゾディアックもウブロット共和国の重鎮だったもんな、過去の勇者が異世界からの転移者だという事は情報として知っていたんだろうな。その過去の勇者の文字が読めるということは……バレるだろう。


 やがて、会議を終えたらしいハヤトとモーザが村長らと共に階段を降りてきた。

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