第272話 村の奪還大作戦

「みっちゃん。回復を」


 やはりというかなんというか。フィービーの体力が足りない。様子も見たかったために少しペースを上げ気味で走っているのもあるが、まだジンも余力を残している段階でもう膝を押さえてゼエゼエと息を切らしている。


 回復を与えるとすぐに息は整うが、精神的にショックは受けていそうだ。スピード的には俺たちについてくるので、全然駄目なわけじゃないが、猛ダッシュを何分も続けるなんて普通はありえない話だからな。息が整うと再び走り出す。それを絶望した様な顔でフラフラと走り出す。まあ、走れるだけナイスガッツだ。



「はっ。はっ。はっ……ば、化け物め」

「いやあ、フィービーさんも訓練をこなせばこのくらい出来るようになりますよ」

「はっ。はっ。……まっ……まじか……」


 ここまで特にアンデッドとは遭遇せずに来た。やはり個体数はそこまで多くないのか? ていうか、村を襲撃したアンデッドたちはどこ行ったんだ? 程なく村に着くとモーザに索敵を頼む。


 俺の<気配感知>よりモーザの<気配察知>の方が広域でチェックは出来るんだ。どちらが優れてる索敵かというより、より細かく見れる<感知>とより広くチェックできる<察知>の特性の差だ。まあ正直<察知>も欲しいのだが<感知>が邪魔してスキルが発生しないのかも知れない。


「ん?」


 周りを探っていたモーザがすっとハーレーを走らせ村の中の方に入っていった。魔物が居たのだろうか? 走り出したハーレーの動きで、全員に緊張が走る。すぐに俺たちも陣形をキープしながら村の中に侵入していく。


 「な、なんだ?」


 訳のわからないフィービーが戸惑うが、かまっていられない。ハヤトの方に「任せた」といった感じで、チラリと視線を向けるとハヤトは苦笑いしながらフィービーに近づきフォローをする。ちゃんと回復もかけてあげている。


 壊された門から村の中に入っていくと、すでにモーザはかなり奥に行っている。俺も感知を出来る限り広げながら追っていく。


「ヒィイイ!!!」


 村の奥から人の声が聞こえた。


「大丈夫だ! 落ち着け! こいつは俺の騎獣だ!」


 ん? モーザのなだめるような声が聞こえる。また誰かが村に忘れ物を取りに戻ってたとかいうやつか? 現場に行くと、1人の男がハーレーの前で座り込んでいた。すぐに俺とみつ子で間に入る。確かに初めて目の前にハーレーを見たら腰を抜かしてもしょうがない。しかもモーザは不器用だからな、ビビってる一般人に大声で宥めようとしても……。


 みつ子が「大丈夫です、村を奪還する作戦を行っているんです」と静かに言うと、男もようやく耳を向ける。「え?……」と驚いた顔でみつ子の方を見た。

 それにしても、この男もだいぶ色が全体的に白いな。なんだろう、白人っぽいと言うか不健康な感じがしてしまう。モルニア商会の人間か? シュトルム連邦は大陸だと大分北の寒いところにあるという、民族特性的にそうなのだろうか。ていうかなんでそんなのが村に?


「だ、奪還作戦?」

「はい。流石に船の中でいつまでも避難できないですからね」

「そ、そうか……君たちは?」

「先日大陸からこの島にやってきたものです」

「なっ……大陸から?」

「はい。もしかして貴方はモルニア商会の方ですか?」

「あ、ああ……知っているのか?」

「避難先でモルニア商会の方が居たので、しかしなんでこんな所に???」


 外部の商人がなんで1人でこんな村にいるのか。流石に気になる。尋ねると少し男は言い淀んでいたが、やがて諦めたように話し出す。なんでも、この島にはかなりレアな植物があり。それを求めてモルニア商会が危険な航海をしてまでこの島に来ているという。流石にその植物の事や群生地などは教えられないと言われる。


 まあ、俺たちも大陸から来たんだ。彼らにとってはライバル的な存在に見えるのかも知れない。そんなレアな植物なら独占したいのが商人の感覚だろう。特に俺たちもそこはあえて突っ込まないでおく。そのレアな植物のおかげでこの島への大陸の文化の流通も行われると考えれば島のためにもキープをしてもらったほうが良いだろうしな。


 その植物を仲間たちで採取しに森の中に入っていって、アンデッドたちに遭遇。彼、チャイカと名乗ったその男は仲間とはぐれ、ずっと森の中をさまよっていたという。ようやく村に戻ってきたら無人で途方に暮れていたらしい。


「なるほど、村にはアンデッドは居なかったですね?」

「そ、そうだな」


 ふむ……。やがてやってきたハヤトとフィービーとも合流する。とりあえず今の状況を村人達に伝えて移動を開始させたい。相談の結果、俺とみつ子、ミドー、ジン、フィービーで村で留守番をして、ハーレーに乗ってモーザ、フルリエ、ゾディアック、ハヤトがオゾン号へ合流して村人たちの護衛をする事にした。

 村人もハーレーが護衛をすれば安心だろう。



 早速ハーレーたちを見送ると民家の脇に置いてあったベンチに腰掛けていたチャイカに近づいていく。


「ふう。あ、チャイカさん。食べますか?」


 次元鞄から干し芋を出して差し出す。森の中を彷徨っていたなら腹が減っているだろう。男は受け取りムシャムシャ芋を口にする。俺はじっとその姿を見つめながらチャイカに話しかける。なんとなく被害者っぽいんだけどなんか……胡散臭いんだよな。コイツ。ちょっと悲壮感が足りないと言うか……。


「それにしても、よく生き残れましたね。武器も持たずに?」

「え? ああ……少し魔法を使えるんだ」

「ああ、なるほど……」

「それで、君の上に漂っている……その玉も魔法か?」


 あ、そうか。……まあ、適当で。


「そう、魔法なんですよ。これ。ていっても……秘伝なんですけどね。これ」

「秘伝? どんな?」

「いや。秘伝なんで言えないっすよ。秘密っすよ」

「秘密……なのか? その索敵とかそういうのが出来るのか?」

「いやいや、そんなんじゃ無いですよ。ん~~~~。……まあ言ってみれば初期魔法をずっと出しっぱなしにして魔法のスキルを上げている……そんな感じですかね」

「ずっと出しっぱなしなのか? 魔力は?」

「はっはっは。そこが秘伝なんです。周りの魔素も利用して自分の魔力を極微量、維持にちょっと使うくらいで……おっと。秘伝ですからね。これ以上はちょっと……」

「そ、そうか……」

「はい。一子相伝なんです」

「一子相伝? なんだそれは?」


 やべ。余計なこと言っちまった。もうこの話は終わらせたいのに。


「一子相伝というのはですね――」


 その後世紀末覇者的な話をグダグダと始める俺を、呆れ半分でみつ子に止められる。


「省吾君。なんか、来たわよ」

「ん?」


 平和かと思っていたけどな。敵さんがやって来たようだ。

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