第273話 村の奪還大作戦 2
村の門の方面を見ると魔力のモヤが立ち上っている。それなりに魔力を持った魔物が入ってきているようだ。じっと耳を澄ます。かすかに聞こえてくる魔物たちの足音を聞いているとなんとなく二足歩行の魔物のような感じがする。グールのようなアンデッドなのだろうか。
「足音的にフォレストウルフとかじゃ無さそうだな。けっこう居る」
「うーん。やっぱりアンデッドだよねえ? ゾンビとかかなあ? 嫌だなあ」
俺たちの会話を聞いて魔物が村の中に入ってきたのに気がついたのだろう、チャイカが急にソワソワし始める。
「魔物が……来たのか?」
「そうですね……ちょっとどこかで隠れていてください。処理しますので」
「処理って何を……あのドラゴンは居ないんだぞ?」
「まあ、問題ないでしょう」
「な……なんだと?」
大丈夫だと言っても、俺達のことなんて知らないだろうしな。同じ国の人間ならもしかしたら知ってるかもしれないが、遠く離れたシュトルム連邦の人間が知ってるわけがない。ここは行動で安心させるしかないか。
「みっちゃん、俺達の装備にエンチャントしてもらっていい?」
「オッケー。聖魔法ね?」
「うん。聖属性あれば効きそうだもんね。あと、みっちゃんは火事怖いから火力気をつけてね、聖魔法で処理できたらそれでよろしく」
「うん」
この島の魔物はアンデッドだ。俺たちが聖魔法を使っていると知れば安心だろう。そう思いチラッとチャイカの方に目を向けると真っ白な顔を更に白くして驚愕の表情で「せ、聖魔法……だと?」とつぶやいている。
「アンデッドと言えば聖魔法ですよね。安心してください。準備は完璧です」
「ま、まさかお前たちは教会の人間なのか???」
「いやいやいや、単なる冒険者家業をしている人間ですよ。さ、安心して、そこらへんの家の中にでも入っててくださいよ」
「あ、ああ……」
男が後ろの方に下がりながら適当な建物に入っていくのを確認すると、俺たちは魔物の音のする方に向かう。建物の影から村の入口あたりを覗くと、10匹は居るだろうか、魔物たちが門の外の方を向いていた。
魔物は、ゴブリンやオークで構成されている。見てみると片腕が無かったりと怪我をした状態の個体も居るが、どれも一様に同じような禍々しい気配を漂わせていた。しかも違う種族の魔物が一緒に居る。大陸の感覚だとだいぶ違和感を感じてしまう。
「やっぱりアンデッドだな。ウルフたちとは違うな」
「旦那、俺から突っ込みますかい?」
ミドーが聖魔法を付与された盾をチラチラと見せながら聞いてくる。初めてのエンチャントで試したくてしょうがないんだろう。一方ジンの方は顔を険しくして緊張しまくっている。
「ちょっ。ちょっと待てよ!!! あんな居るじゃないか、私達はこれしか居ないんだぞ???」
話を聞いていたフィービーが焦ったように抗議してくる。あら? 戦士枠のフィービーもこの人数差だと駄目な感じか。チャイカと一緒に待っててもらった方が良かったか。
「族長達とやりあったのはオークだったのか?」
「そうだ。あの時はもっと多かったが、村の戦士たちがやっとの思いで数を減らしたんだぞ」
「他には居なかったのか?」
「リーダーが居たんだ。他のオークたちと比べても段違いに強い。ハイオークのアンデッドじゃないかって」
ふうむ。オークがいればハイオークだって居てもおかしくないか。でも今は居ないだろ? 潰せる時に潰したほうが良いよな。
「うーん。とりあえずフィービーはここで見ててくれよ。俺とミドーで突っ込むから。みっちゃんとジンは、後ろから魔法で頼む」
「うん。ウルフも大陸のウルフより強そうだったんだよね? オークも力が底上げされてるかもしれないから気をつけてね」
「ちょっと。誰も止めないのか???」
フィービーは攻める前提の俺たちに全く付いてこれない。
それにしても、奴ら皆門の外から来る何かを待ってるのか? フィービーの言うリーダーのオークでも待っているのか? 皆門の外を向いたままだ。でもまあ、どうせ全部潰すんだけど。増える前に各個撃破するのが戦術的に大事だって魔術師ヤンも言っていたしな。
「行くぜ、ミドーはオークの方を止めててくれ。先にゴブリンを処理する」
「がってん!」
俺とミドーで建物の影から出て走り出す。全速力だ。オレたちの音に気がついて手前のゴブリンが振り向いたときにはもう俺の剣は攻撃に移っている。逆袈裟に切り上げた剣で心臓あたりを通過するように真っ二つに斬る。
!!!
状況に追いつけない魔物たちが俺たちに戦意を向けるまでに更に2匹のゴブリンを両断していく。うん。切れ味的にはエンチャントが効いているか全くわからない。癖で剣に魔力を流してしまうので、もしかしてみつ子の<聖刻>が吹き飛ばないか心配になる。
「うぉりゃああ!」
相変わらずやかましいミドーが俺の方に向かおうとしたオークにシールドバッシュを仕掛ける。ほとんど体当たりだが、力の乗った一撃に巨漢のオークが吹き飛ぶ。近くに居た3匹のオークが今度はミドーに向かう。
ミドーはそいつらの攻撃が揃わないように上手く位置取りを変える。大きめの盾で相手の動きも見にくいはずだが、ミドーは視界のデメリットを感じさせずオークの攻撃をすべて受けていく。これも俺の<気配感知>によく似た<動態感知>というスキルのおかげだ。
俺が斬ったゴブリンは、やはりというかまだなんとなく動いているが、後ろからみつ子が<ファイヤーボール>で焼いていく。燃焼は割と聞きそうだ。
「ジン、ミドーの援護をっ!」
「はい!」
ミドーが囲まれるのを防ぐように、ジンもオークに<ウォーターボール>で攻撃を始める。しかし、なんていうか魔力防御的な部分が普通のオークより強い気がする。思ったよりダメージを与えられていない。それでも、そのくらいの牽制があるだけでもミドーは随分余裕が出るようだ。聖魔法がエンチャントされた剣でチマチマとオークに攻撃を加えている。
俺たちが攻めたことで、フィービーの意を決したのか走ってやってきていた。無理しなくても良いのに。なんて思ってしまうが。
「ふう」
俺は担当のゴブリンの処理を終わらすとふと門の外を見る。門の外からはちょっと無視できない量の魔力のモヤが立ち上っていた。遠くから見えたモヤはこれか?
――やべえな。
慌ててミドーの相手をしているオークを先に仕留めようとする。
ドンッ!!!
俺がミドーの方を向いた瞬間。門の辺りから嫌な音が鳴り響く。とっさに振り向いた俺の目にはありえない勢いで弾丸のように突っ込んでくる赤銅色の巨体が。
ングッ!
「省吾君!」
みつ子の叫びの中、真下から切り上げられる蛮刀をなんとか受ける。
ガキィィイイン!!!
下からの剣を受けた俺は、そのまま体を持っていかれる。体が浮き動けない俺に対し魔物はそのまま一歩踏み込み切り上げた蛮刀を叩きつけるように振り下ろす。
「マジッかよっ!」
再びなんとか剣を受ける。そのまま俺は地面に叩きつけられるように着地する。やべえな。こいつ……怪力ってもんじゃねえぞ。地面に勢いよく着地させられた俺はとっさに動けない。魔物は尚も俺に詰め寄ってくる。
「な、め、る、な……よい!」
俺は<剛力>と<過重>を発動させる。<過重>はミドーが使っていたタンク向けのスキルだ。大きい魔物と戦うには重さも有ったほうが良いとゲネブのダンジョンの50層にひたすら籠もってヘビーゴーレムを狩り続け、ついに手に入れたスキルだ。そこまで超重量を出せるものでは無いのだが、有ると無いとじゃだいぶ違うんだ。
ガツイン!!
魔物も急に俺の受けがどっしりしたことに気がついたのか、驚いて俺の顔を見つめる。
「……え?」
『クックック。コンナ事ガ……アルノカ』
交わる剣の向こうで、赤銅色のオークが真っ赤な目を嬉しそうに光らせていた。
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