第170話 第3の龍珠を求め

 パワーレベリングの休みの今日、みつ子とスティーブは木の実を割る仕事に行っている。俺はモーザを誘って大聖堂に向かった。当然、次の龍珠狙いで水魔法をゲットしようという狙いだ。


「水魔法は良いけど、金は大丈夫なのか?」

「今のところはな、レベリングの仕事でなんとか黒字には成ってるから」

「じゃあ、なんか良いのが有れば俺も買うか」

「おいおい、ただでさえ<硬皮>と<剛力>と<センス>で魔力食ってるんだから、あんま無駄に増やさなくても良いんじゃねえか?」

「まあ、何が有るか見てからだな」


 うわあ。モーザがウキウキしてやがる。俺の買い物だっちゅうの。


 大聖堂に行くと、ブラン司祭に声をかけて水魔法が欲しい事を伝える。やはり司祭も俺の頭の上の珠が増えたことに気が付きチラチラと視線を送ってくるので、また増えちゃいましたと笑って流しておいた。


 スクロールの売店でブラン司祭が話を通してくれ、在庫を見せてもらう。


「<ウォーター>切れてるんですか……」

「そうですね、1月から学園に入る貴族のご子息などがこの時期買っていかれる事が多くて」

「ちなみに水の魔法だと他に何が?」


 今は、<ウォーターボール>と<ウォータースラッシュ>が有るという、基礎魔法より値段もかなり高い。特に<ウォータースラッシュ>は更に中位の攻撃魔法らしく<ウォーターボール>の倍はする。恐らくみつ子の<ファイヤーランス>と同じレベル帯の魔法だろうな。悩む所だ。


「高いっすね……」

「そうですね、基礎魔法もそうですが、スクロール自体気軽に買える値段では無いので……」

「そう言えば5体の龍で、黒龍と言うのが居るって聞いたんですが、黒魔法なんていうのもあるんですか?」

「黒龍ですか? 黒魔法はないので恐らく闇魔法を使う龍だろうと言われていますね」

「おお、闇魔法ですか。それはあるんですか?」

「え? いや。有るわけないじゃないですかっ。何を言ってるんですかっ」


 おっふ、なんか怒られたぞ? 


 何も知らない赤子のような無垢な瞳で謝ると簡単に教えてくれた。闇魔法は魔族の使う魔法ということだった。そして当然闇魔法は邪教の法として教会的には禁忌となっているらしい。むう、もし最後の1つが黒龍だったらアウトじゃねえか? 魔族の国に行かなくちゃいけないって流れに??? いや。イメージ的に黒龍って強そうだからな。水龍で行ける予感はする。


 むう。どうするよ。このまま<ウォーター>を予約して待つか。いや、こういうのって欲しいって時にすぐに欲しくなっちまうんだよな。


 ……ぬぬぬぬぬぬぬ。


 ポチッ


「ウォーターボール下さい」

「了解しました」

「じゃあ俺は――」

「モーザ悪い、予算オーバーだから無しで」

「なっ!!!」


 ていうか、モーザ。今<マジックシールド>指さそうとしただろう。<ウォータスラッシュ>と同じ値段じゃねえか。怖いわ!



 いつものように奥の部屋に通され、いつもと同じような儀式が始まる。流石にもう吹き出すようなことは無いが……正直簡略化してほしい。


「神話の時代。醜く愚かな邪神により、世に魔物が放たれました。創造神が己の最後に希望として人間達に与えたのが魔法であります。このスクロールで得られる魔法で神の子たるショーゴが魔物たちの脅威から身を守れるよう、神に感謝し受け取りなさい」


 職員の人がスクロールを台に広げる。


「<ウォーターボール>により、魔物を打ち払い。人々の安寧の日々を守るために精進しなさい」


 促されるまま、スクロールに手を置き、魔力を流す。スクロールが仄かに光をおび、やがて消えていくと同時に俺の中に何かが入り込んでいく。


 ……あれ?


「ん? どうなさりました?」

「いや、<ウォーターボール>が入っていますね」

「スクロールを使用したのです、当然魔法が身につきますよ」

「そっ。そうですよね」


 ぬぬぬ。<ウォーターボール>覚えちまったぞ? え? 基礎魔法じゃ無いとだめだったのか??? それとも……闇魔法を探す旅に?


 まあ良いか。攻撃魔法欲しかったし。



 少しグレてるモーザと大聖堂を後にする。


「ちょっとさ。試してみたいんだけど。ついてくるか?」

「ん?……そうだな。しょうがねえ見てやるよ」


 と言ってもそんな森奥深く行けるわけでもないので、森の中で空打ちするくらいのイメージだが。レベリングに使ってる溜まり場所を減らしたくもないしな。場所をずらして探しながら森の中を進む。


 やがて魔物の気配を察知したモーザが教えてくれる。


「ちょっとやってみるわ。手を出すなよ」

「出さねーよ」


 そして顔を見せたフォレストウルフに向かって手を向ける。いや。手を向ける必要があるかわからないけどな。イメージって大事かなと。


<ウォーターボール>


 手に先に水の玉が出来上がる。見ると水球はグルグルと中で水が動いている感じがする。試しに魔力を流して水球内の水の動きを加速するイメージをすると更に中の動きが激しくなる感じだ。なるほど、こういう感じか。


 向かってくるフォレストウルフに水球を向ける。イメージで言えば拳銃のトリガーを引く感じか。心のなかでパーンと言う拳銃を打つような感覚を与えるとともに、水球がすごい勢いでフォレストウルフに向かって飛んでいく。


 ドーン!


 ……


 ……


「……なんかすげえな」

「……あ、ああ……」


 水球の中の水の流れを早くしたのが影響したのか。はたまた飛んでいく水球のスピードが速かったのか。フォレストウルフの顔面が破裂したようにひどい状態に成っている。一言で言えば、グロい。


 まあ、底辺の魔物だから魔法防御もかなり低いだろうしな。<上魔質>によって練られた魔法の威力が強くなるのも分かるしな。結構撃つまでに中の水をグルグル動かしたくてかなり魔力つぎ込んだってのもあるだろう。


 すげえの手に入れちゃったわ。


 その後いろいろ試してみる。エルフの集落へ行く時に遭ったホーンドサーペントがみつ子の大火球にぶつけたようなデカイ水球なども試すが、なかなかそこまでデカくはならない。ここら辺は要練習といったところか。あとは、早打ち的に瞬間的に<ウォーターボール>を連発する練習などするが、込める魔力量が足りないのか威力は微妙になる。


 撃ち出す感じはどうやら、<魔弾>とかと違う。オーヴィの言ってた<ストーンバレット>のイメージとも違う感じがする。みつ子の<ファイヤーボール>に近い感じなのだろう。


 3個目の龍珠は失敗したが、色々試していると十分に楽しくてショックなんて飛んでいってしまう。


 あ……モーザには、そのうちな。

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