第171話 みつ子のカレンダー 1
<ウォーターボール>を試して満足した後は、ゲネブに戻ってきてみつ子が帰ってくるまで事務所でまったりしている。モーザはやること無いなら寝るわと帰宅してしまった。
一応みつ子とは、大抵毎晩一緒に食事に行っている。なんかちゃんとしているわけじゃないが、彼氏気分でおめでたいとか自分にツッコミを入れたくなるが。まあ、一緒にいると楽しいしな。みつ子の気持ちを聞いている以上ちゃんと向き合いたいし。
「うー。私の居ないところで楽しいことしてたな」
「ふふふ。魔法凄いよ。ドゴーンって」
「うんうん、分かるよ。私もファイヤーボール覚えるまでは普通に剣で頑張ってたからね。覚えちゃったらもうそっちばっかりになっちゃった」
「あ、みっちゃん剣も使えるんだ」
「それはそうよ。あんな高いの王都に行くまでなかなか手が出ないよ」
まあ、そうだなあ。一年頑張ってようやく攻撃魔法買える感じになったけど、財政的にはちょっと無理してるしなあ。
「みっちゃんは、何か統合スキル的なのあるの?」
ふと気になって聞いてみる。なんとなく他人のスキルって聞いて良いのかわからない部分があるからな。裕也だって断ってから<解析>使っていたし。聞かれたみつ子は少し微妙な顔になる。やっぱプライベートな事なのか? これって。
「……ある。かな?」
「あるんだ」
一応答えてくれた……なんか言いにくそうだな。実は俺の<勇者>に張り合っちゃったり? まあ可愛そうだから追求しないでおこう。なんて事を考えていると。
「笑わない?」
「ん? なんで? 笑うわけないじゃん」
「うー……<聖者>ってのがある」
「ぶっ! あいや、これは笑ってるのではなく驚いてだね……」
「はいはい。どうせ私っぽく無いですよ」
「いやいや、そんな事無いよ。で、どんなのなの?」
「省吾君の<勇者>と似た感じなんだけどね」
<聖者>は<精神異常耐性><危険察知><聖魔法適性><闇耐性><魔力増加>の5つの効果が含まれているという。話によると裕也から回復魔法を貰って使っている内に生えたと言うことだが、転生時に女神から希望的な物を聞かれて、魔法の世界なら魔法を使いたいなんて話をしたらしい。特に魔法の指定はしてなかったが、それがこのスキルじゃないかと言う話だった。
それと、みつ子の話のニュアンス的な感じだが、何か女神に頼まれごとのような物もされたようだが、機会があれば位の話で、あまり気にしていないのと言って、少しはぐらかされてしまった。
それはさておき、教会のいわゆる聖人や聖女と呼ばれる伝説の聖職者たちがもれなくこのスキルを持っているらしく、もしこのスキルを持っていることが広まると、教会に引っ張られたりと面倒くさいことに成ったら困ると、誰にも言わないでいたらしい。そのためアルストロメリアでもみつ子は魔法使いとして戦い続けていたという。
まあ、魔力増加とかあるし元々魔法で戦っていたならそれに付随したスキルが生えるわけで、回復職としてじゃなくとも十分に優秀だったんだろうな。
Bランクの冒険者のみつ子が、くるみ割りみたいな仕事をして不満がないかちょっと心配だったが、みつ子は割と楽しくやっていたようだ。他のおばちゃん達といっしょにゲネブの事などを教えてもらいながらワイワイとやるのが気に入っているらしい。
正直な所、冒険者ギルドでBランクの仕事を受けて、俺たちがサポートする感じでこなしたほうが収入は大きい気もするんだけど。王都時代はほぼ魔物狩りみたいなのばかりやっていて、たまにはこういう地味な仕事って良いんだと言う。それに今日で仕事を終えたようだ。2日くらいならというのも有ったのだろう。
「そう言えば、その火の龍珠にも名前つけたの? ガルちゃんだっけ? 雷の方」
「ああ、まだ付けてないなあ。なんかいい名前ある?」
「メラちゃんとかどう? ずっと考えていたんだ」
「メラ? なんかそのままじゃね? 大人の事情に引っかからねえかな?」
「大丈夫だよ、メラメラがフルネームで、愛称がメラちゃん。可愛いでしょ?」
「可愛いかな?」
「可愛いよ」
ふむ……まいっか。よろしくな。メラ。
次の日から新しい司祭に代わりレベリングが始まる。昨日仕事をしていたみつ子とスティーブは休ませようと思ったのだが、1日目の道中また回復魔法とか無いと厳しいかなと思い、明日は休んでいいからと初日だけみつ子にお願いした。
それからレベリングの日々が続き、5組目。10人のレベリングが終了した次の日の休みの日。俺は事務所で来月分のカレンダーに予定を書いていた。モーザとスティーブは休みだ。みつ子は俺に付き合って事務所に来ている。
この世界のカレンダーは7年に一度「龍の日」と呼ばれる閏年的な日が足される以外は、全て1月4週の28日で統一されているため、何月と言う表記のない1ヶ月分の日付の振ってある表が1枚単位で売っているのみだ。そこに◯月という感じで個々に月を書き込み、壁に貼るなどして使っている。
政府の印刷所で一種類のみ発行されているため、日本のように気に入ったものなどを選ぶ事は出来ない。そのため数字が並んでいるだけで、予定の書き込みなどをするスペースまでは無く、使い勝手はかなり悪いと言える。
「王都で売ってるカレンダーと同じなんだねえ」
「やっぱり王国共通なんだ」
「そうそう、1枚のやつ。ん? 来月は13月だよ。1月じゃないよ」
「え? あ。いけね。そうか1年13ヶ月だったか。つい忘れるよな」
「うんうん。私達しかわからない悩みよねえ」
まあ予定と言っても、この先もひたすらレベリングがあるんだが。新年とか3賀日みたいな休日とかあるのだろうか。キリスト教が無いから日曜日の様な安息日も無い。各々の商店が休みの曜日など設定したりしている場合もあるようだが。割と気まぐれで休んでいる気がする。
「ねえ、日本のスケジュール書き込めるみたいなカレンダー作ったら売れないかな?」
「ん? 有れば売れるかも知れないけど、印刷は領主とか政府的な所しか出来ないからなあ」
「でも、一種類だけで良いんでしょ? 版画で作っちゃえるんじゃない?」
「なるほど、版画かあ……」
「明日からスティーブ君貸してよ、ちょっとやってみたい」
「明日から? そうだなあ……解った。じゃあ版画に必要な彫刻刀みたいなのは経費使って買って」
「うん!」
次の日から、みつ子とスティーブはカレンダー作りを始めた。まあみつ子もレベリングに飽きてきているというのも有るんだろうな。俺とモーザは相変わらずレベリングだ。
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