第51話 ゴブリンの巣穴 2

 効果はあった……と思う。少なくとも殺意たっぷりの視線は無くなった。少し平和な気分になり道中のネガティブな気持ちも軽くなった。


 低ランク冒険者は全員荷車を押しているかというと、そうでもない。荷車より、冒険者の方が多いので荷車を押すのは各々交代している。だが後ろのほうでぼっちで押してた俺は最後まで誰とも交代する感じにならなかった。誰かに声をかけようにも、すでに交代するグループでのローテーションが決まって回してる感じなので入りづらい。うだうだ悩んでいるうちにヤギ村についてしまう。どっと疲れが押し寄せる。



 村では教会のホールと、村の集会所の様なところで別れて宿泊するらしい許容量の関係だろう。宿泊と言っても雑魚寝だが、宿代が掛からないから文句は言えない。むしろ冒険者っぽくて良いかもしれない。


 宿泊場所が分かれてるので、別れる前に村人が集会所で炊き出しをしてくれると言う。あまり期待はしないようにしていたのだが、漂ってくる匂いが堪らない。味噌の匂いだ。ボアを入れてるようだったのでまさか……炊き出しの定番の豚汁か!?


 期待を胸に並ぶ……。


 ……うん。なんと言うか。とん汁っぽいんだけどトマト? のような野菜などが入っていて洋風だ。ボアは角煮の様な塊で肉が入っている。リンクたちは旨い旨いと必死に食っていた。いや実際旨いんだが豚汁を期待しちゃった分、嬉しさも減ってしまう。


 さりげなくリンク達はピート達と別のところで寝る感じだったので俺もついていった。皆各々に自分の寝場所を確保していくとどんどん寝始める。疲れたんだろうな。まあ。俺もだ。寝首をかかれるリスクは大分減らしたつもりだから幾分気楽に寝れるが。少し警戒しちゃうな。


 ……。



 うん。熟睡出来ました。まあ1日歩き続ければ当然ではある。


 朝は警備団の兵士が配ったパンとミルクを腹につめ、現場まで向かった。


 ゴブリンの巣は村から1時間ほど森の中に入ったところにあった。以前に裕也と潰した巣のイメージをしていたが少し違う感じ。あの時と同じ様にちょっと山の斜面に天然の洞窟が空いているイメージを想像していたのだが、直径3m程もある大岩の下に穴が開いていてそこから中に入っていくような感じだった。周りに少しゴブリンの死骸が転がっていて腐り始めたりしているのか匂いがちょっとキビシイ。


 近くに居た警備団の兵士に話しかける。


「これは……けっこう間口が狭いですね」

「始めはもっと狭かったぞ。討伐隊が中に入るために大きくしたんだ」


 警備団の隊長が大声で指示を出していく。


「まず土魔法を持ってる冒険者は巣の入り口を大きくしたいから集まってくれ。他の冒険者はゴブリンの死体を燃やすために一箇所に死体を集めてくれ、あとはマキになりそうな木を集めてきて欲しい。よろしく頼む」


 おお、テキパキしてるな。優秀そうな兵士だ。


 どうせなら土魔法で全部埋めたり出来ないのかな? なんて事も思ったが、そこまで便利に使いまわせないのだろう。土魔法を使える魔法使いはオーヴィを含め三人ほど名乗り出てリーダーの説明を聞いていた。



「それにしても臭せえなあ……」


 いざゴブリンの近くまで行くと、その匂いに触るのを躊躇ってしまう。他の冒険者も顔をしかめながら指示された場所まで引きずっていた。巣の中に突入しての戦闘が多かったようで、思ったほど外のゴブリンは多くなく、すぐに枯れ木を集める作業に移った。


 しばらく作業を続けていると奥のほうで喧騒が聞こえる。何かと思い見ているとピートがフォレストウルフを引きずってやってきて、ゴブリンの死体が積んである所に投げ込んでいた。たしかにこれだけ匂いが有れば魔物も寄ってくるのかもしれないな。気をつけないと。


 ある程度ゴブリンを燃やす準備が出来たころ、入り口の近くで休憩をしていたオーヴィに話しかけた。


「お疲れさん、MP休憩か?」

「うん、でもだいぶ穴は広がったからそろそろ中に入れると思うよ」

「そうか、周りの土を消す感じでやるのか?」

「ん~とね。土そのものを無くすのは難しいんだよ、だから土を一度エレメントに変換して違うところでまた元に戻す感じ。あっちに山が出来てるでしょ?」


 エレメント……初めて聞くが存在そのものは消えないのかな? なるほど、確かに穴の脇に土の山が出来ている。掘るのとあまり変わらない感じだけど、魔法の場合は硬さは無視できるのかもしれない。石のほうも綺麗に削られているところもあるもんな。


「ストーンバレットとかみたいにボンボン土を作り出したりのイメージしか無かったからなあ。ここも土魔法でもこもこと穴を埋めれば終わりなのにって思ってた」

「攻撃魔法みたいな一時的な物は割りと簡単に作れるんだけどね、魔素が散ると消えちゃうから土や石を作り出すような魔法は巣穴埋めにはちょっと使えない感じかな。上位の魔法使いだと使える人も居るけどこの規模を埋めるとなるとやっぱり難しいかな」


 なるほど、<光源>も魔素を送り続けないと消えるもんな、何となくイメージは解った。


 改めて見てみると確かに入り口はずいぶん広がっていた。しかも荷車が通れるようにかなり地面を硬くしてあるようだ。ちょっと中に入って覗いてみる。


 穴の中は入り口さえ通れば立って歩けるくらいの高さはあった。しかし、閉鎖空間は異様なくらい臭い。特に入り口が狭かったから中に匂いがこもっていたのだろう。奥まで行くのはやめて、せっかく入ったので入り口近辺に倒れていたゴブリンの足を持ち外に引きずり出す。


 外に出ると警備団のリーダーがゴブリンを引きずる俺を見て、そろそろ中のゴブリンを出し始めるかと周りに指示を出し始めた。




 ゴブリンの山に警備兵が油をかけて、魔道具で火をつける。とたんにまた違った異臭が漂い始めてキツイ。他の冒険者たちが鼻と口にマスクのように手ぬぐいをつけていたので同じようにする。匂いを通さない訳じゃないが何となく我慢できそうな気になるから不思議だ。獣人とかだと嗅覚が強かったりで具合悪くなるんじゃないか? なんて事を考えるとふと疑問が生じリンクに聞いてみる。


「そう言えば、ゲネブって獣人あまりみないよな?」

「兄ちゃんってたまに妙にすっとぼけた事言うよな。獣人の国はもっと寒い方だぜ? 毛皮着ている様なもんだから。こんな南の先の方はあんまり居ないの当たり前じゃん」


 お? なんとなく獣人って定番的に南国なイメージだったが、そういう事か。確かに言われてみればナチュラルに毛皮着てるようなもんなんだろうな。



 その後どんどんとゴブリンが巣穴から引っ張り出され燃やされていく。穴の深さは以前殲滅した巣穴より浅かったがそれでも埋めるとなると結構かかりそうだ。そんな事を考えるとちょっと憂鬱になるが、実際は奥までは埋めないようだ。入り口からある程度の深さのところで隊長が線を引き、埋める深さを決めていた。


 ゴブリンの処理が落ち着きだし、手の開いてるものが周りから荷車でどんどん土を集めていく。ここは東側に向かって少し上り坂になっているため、少し奥の傾斜のキツメなところを削り取って来るようだ。平地に穴掘って土を集めたら結構な大きさの穴になりそうだもんな。


 そうして、日暮れとともに1日目の仕事は終了となった。

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