第50話 ゴブリンの巣穴 1

 朝、南門に行くとそこそこ人が集まり始めていた。リンク達も居たので挨拶をして近づいていった。他にも数人スラムの子が数名居たが、派閥でも有るのだろうか。リンク達とは少し距離を置いている。


「おはよう」

「お、お兄ちゃん来たな。宜しくなっ!」


 三十分程経つと、警備団の兵士が大声で説明を始める。


「緊急の依頼に関わらず集まってもらって感謝する。何日かの間だがよろしく頼む。まず、FGランクの冒険者は右側に集まってくれ、それ以上のランクの冒険者は左側に頼む。」


 むう、どうやら今回はDやEランクの冒険者も参加しているらしい。道中は龍脈沿いに進むとはいえ盗賊や魔物が絶対出ないとは言い切れないらしく、いざという時の戦闘要員としても期待される様で、荷物の分担は免除されていた。そのため俺等の様な低ランクの冒険者が二輪の荷車を現場まで押していかなければならないようだ。


 荷車は、城壁外の石壁の時に使ったものと同じだった。そこに無造作にツルハシやスコップが乗せられていた。


「いやあ、なんかワクワクするなあ」


 そう言いながらリンク達を見るとどうもテンションが低そうだ。


「ん? どうした?」

「いや、マルズ団の連中が結構来ているんだ。Dランクのピートまで居る」

「マルズ団?」

「最近スラムで幅を利かせているゴロツキの集団みたいなもんだ。朝兄ちゃんが来た頃は1人2人居る位だったんだけど、だいぶ増えた気がして」


 なるほど。ウエストサイドストーリー的な若者の抗争とかありがちだ。リンク達は何団なんだろうか少し気になったりする。


「まあ、スラムが有ればそういう集まりも出来そうだもんな」

「え? 兄ちゃんなに他人事みたいに言ってるの?」

「へ?」


 言われて上のランクの冒険者達が集まっている方を見ると、アジルを殺ったあとに絡んできたあの若い冒険者がこっちをみて睨みつけていた。その周りにいる奴らも同じ様にこっちを睨んでいる。おいおい……『名前を言ってはいけないあの人』をやっつけた眼鏡の少年の気分になっちまうぜ。


 まさか……アジル達はそのマルズ団とやらの関係者だったって話しか? まったく……面倒臭いことにならないと良いのだが。


「挨拶しておいたほうが良いかな?」

「辞めてください」



 とは言っても、警備団の兵士が数名付いてきているからそう問題は起きないだろうと思うけど……。


「リンク、取り敢えず俺から離れておいた方が良いかな」

「……解った。そうするわ」


 わいわい楽しく歩きながら、リンク達にゲネブの情報を色々聞こうと思っていたのだが……1人で歩いていると少し寂しい。南門の外も畑が続いていると思っていたが牛のような動物が放牧されていて牧場の様な感じになっていた。肉目的なのか乳目的なのか解らないが、ゲネブの街で機能が完了するなら酪農的な場所もあってしかるべきなのか。



 一行は徒歩のペースで進んでいく。荷車を押す低ランクの冒険者の速度に合わせる訳だが、兵隊の引いている馬車のような牛車のようなのもあまり速度は出ない感じがする。このペースで1日で着くなら、走れば半日かからず到着しそうだな。


 何事も無いまま一行は進み太陽が真上に来るころに来るとお昼休憩となる。



 明日以降は朝と夜の二回だけのまかないとなるらしいが、今日は昼と夜にまかないを配るということだった。牛車の周りに冒険者があつまり食べ物を受け取ってる。


 ん? ミルクのような物は皆自分のマイコップに注いでもらってる……コップ無いぞ?……あ……有るには有るのか、アジルたちの食器かあ……仕方ない。鞄からアジルたちが使っていたコップを取り出し、一応水で洗ってそれにミルクを入れてもらった。後は丸いパンが1つ……ちょっとだけ期待していたが、こんなもんなのかもな。


 ふう……それにしても目が合うたびにキッと睨みつけてくる。何でも暴力で解決とか嫌だしなあ。ここは大人の俺が譲歩して話し合いに持ち込めないか……


 色々揉めて拗れてからより、早い方が良いか。もう拗れてるけどな。



 意を決して、仲間と飯を食っている若い冒険者達に近づいていった。リンクがピートって言ってたっけ。仲間の一人が俺に気がついて周りに合図する。振り向いたピートの顔が一気に不機嫌になる。


「あ!? 何だよ」

「いや、こないだは言い過ぎたと思って。謝っておこうかと」

「はっ! 何だよ俺たちを見てビビったのか? てめえはもう許さねえよ」


 ほら、敵意むき出しだよ。こう言うのはインパクト大きめのアピールを。アジルの次元鞄を取り出し差し出した。


「これ、思いでの品だったんだろ? 使ってやってくれ」

「なっ……何!?」

「いや、俺も初めて人に殺されるって恐怖にあって、あの時は気も高ぶっていたんだよ。今思うと、アジルと仲良かった奴等も当然いるだろ? そいつらの気持ちを考えず悪かったなと思って」

「てめえ、こんなんで俺たちの気が……」

「遺品としては剣とか渡してあげたいんだけど、埋葬して墓標代わりに墓に刺してきちまったんだ。集落の北側のマンドレイクが生えていた泉の近くに弔ってあるからもし遺品として持っていたかったら取りに行くと良いよ」

「墓を!?」


 よし、少し緩んだ感じだ。あとひと押しだ。


「ホントは他にも財布とか俺が使わない物もと思ってたんだけど。なんか次元鞄を俺の鞄にしまったら、中身が皆ぐちゃぐちゃに潰れちまって……」

「お前馬鹿か! 次元鞄を重ねたらそうなるのなんて常識じゃねえか!」


 ふむ、こうやって視点をずらして……


「いや、知らなかったんだよ。あんなふうに潰れちゃうなんて。親はスパズを産んだのを隠すために、俺は10年以上部屋から出してもらえなかったんだ、知らないことだらけなんだよ」

「んぐ……」

「実際アジルたちに、勝ったのも偶然なんだよ。必死に逃げようとして思わずマンドレイクを引っこ抜いちゃって……たまたま俺に精神攻撃の耐性スキルがあったから……親からの虐待の影響らしいが」

「…………たりまえだろ」

「え?」

「当たり前だろ! そんなのが無ければアジルさんたちが負けるわけねえんだよ!」



 その時、警備団の隊長から出発の合図が出た。


「そう言うことなんだ、許せとまでは言わないが、俺、列に戻るからっ」


 そう言って奴等から離れた。ピートはアジルの次元鞄を持って俯いたままだった。


 ……行けたかな?

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