第49話 ゴブリンの巣穴 0
「ショーゴ様」
むにゃむにゃ
「ショーゴ様?」
はっ!!!
「いや!? 寝てないっす!!!」
「ふふふ、お疲れですね。見積もりのほう出来ましたので、こちらにどうぞ」
ちょっと恥ずかしい。完全に寝てたのについ否定しちまった。他の職員もクスクス笑ってる……いそいそと受付に向かう。
「1本が少し痛んでいましたので、少々安くなってしまいますが、3本で16000モルズになりますが、宜しいでしょうか」
「へ?……いや……そんな高いんですか?」
「例年ですと1本3000モルズ程なのですが、今年はだいぶ値上がっていますので、3本の内訳は……」
「あ、いいです、それで大丈夫です」
おおおおお、なんかこの2日で資産がだいぶ増えたな。ちょっと手を付けるか悩む金もあるが……そういえば……この税金は何をしても一割なんですか? と聞くと、買取金額が1つあたり1万モルズを越える物は二割になるという。ただ、1万モルズの二割と9999モルズの一割だと手取りにかなり差が出てしまうので、1万モルズを越えても1万モルズの一割、つまり9000モルズの手取り分は保障されるという。その上は10万モルズで三割、100万モルズで四割と、ざっくりした累進課税が存在するらしい。100万って何だよって感じだが。
「あのう、色々聞いちゃってすいません。お勧めの宿とかありますか? 出来ればあまり高くなくて、お風呂があったら嬉しいんですが。」
質問ばかりしてちょっと申し訳なかったが、受付のお姉さんは嫌な顔一つしないで教えてくれる。冒険者向きではないが行商人などが滞在時に泊まったりする宿を紹介してもらった。やはり風呂のある宿はそこそこ値が上るらしく、一番安くて800モルズ程するらしいが、今日は風呂に入りたくてたまらない。懐も温かいし、そこの宿を紹介してもらって向かった。
「ああ……癒される」
紹介してもらった宿屋は東の地区のはずれの方にあった、東の地区と言っても城壁近くのはずれの方になると、少しランクは下がるようで、周りは東側の農家とかも住んでいる感じらしい。『花の家』という名の宿で、二階建てでこじんまりとしているが、若い夫婦が頑張ってるいい感じの宿だった。風呂は後から作ったものらしく、建物の裏庭だった場所に増築する形で設置してあった。
ちょっと風呂でゆっくりと癒されたい時は利用するとしよう。
この世界に自分の家が無い以上、持ち物は全て持ち歩かなければならない。だからこそ次元鞄の有用性が増すのだが。むき出しで鞄を四つも持ち歩くのはちょっと厳しい。今日、若い冒険者にアジルの鞄を持っていることを指摘されたように、アジルの鞄は毛足の長い皮でちょっとチャライというか目立つデザインになっている。これはしまって置いた方がいいかもしれないな。
そんな事を考えながら持ち物の整理をする。自分の鞄に全て入れるのは量的に限界のような気もするし、取り出しも煩わしくなりそう。少しいらないものは売るか誰かにあげるのもアリかもしれない。他の鞄は割りとスタンダードな物だったので、食品を詰め込んだズタ袋だけ自分の鞄に入れ、他はその一つに全て詰め込んだ。
まあ、ウエストポーチとして着けて置くしか無いだろうな。皆このつけ方をしてるから俺も見慣れてきたし。
次の日
太陽の下でのんびりと草むしりをしていると、どうしても例のジローの事を考えてしまう。いやいやいや、あまり口を出すもんじゃないってのは解るが、俺もジロリアンの端くれ。過去の勇者のレシピが完全に再現できるなら食べてみたいのは本心なんだ。ただ。あの食べ物は化学調味料が無いと完成しない。きっと過去の勇者のレシピも完璧じゃないのだろう。
もう1日くらい必要かと思っていたが、段々慣れたのか草むしりは終了した。といっても三時くらいに今日はこの位で良いよと言われたが、中途半端に余りそうだったので二時間ほどかけて終わらせたのだが。
ギルドで報酬を受け取りにもどると、リンク達に声を掛けられた。
「兄ちゃんもゴブリンの巣穴埋めにいくか?」
「ゴブリンの巣穴埋め?」
「今朝貼り出されてたの見なかったのか? 昨日ゴブリンの討伐から冒険者達が帰ってきたからそれの後始末で、巣穴を埋める人員が募集されてるんだ」
「ああ、草むしりの仕事が2日あったから今日は掲示板見なかったんだよ」
言われるように掲示板を見ると少し大きめな依頼票が貼ってあり、そこにゴブリンの巣穴埋めの作業員の急募とあった。ゴブリンは洞窟のような穴に居つくため討伐後にその巣穴を埋めないとまた再び他のゴブリンのグループが棲みつく事がある。そのため速やかに埋めることが必要とされている。
依頼は街の外だが討伐後という事もありランクフリーのようだ。依頼票を見ると土魔法を持っているとかなり美味しいようだ。確かに土魔法で埋めれるなら早い。道中1日2食のまかないつきで1800モルズ、土魔法があれば500モルズプラスされる。出発は明日か。仕事期間は埋まるまでと言うのがちょっと怖いが。まかないがあるならそれなりに良いのかもしれないな。
「オーヴィが土魔法使えるからな、結構美味しいんだ」
おお、て言うことは生まれつき魔法を持ってる子なのか。すげえなあとまじまじとオーヴィを見る。オーヴィは恥ずかしそうにしている。
(お兄ちゃん、アジルたちやっつけたんでしょ?)
ヒソヒソ声で、モナが聞いてきた。リンクの妹分の様な女の子だ。お? 珍しいな、いつもリンクとばかり話しているから、初めて話しかけられた気がする。
(まあ、そうだけど。それがどうした?)
(もしゴブリンが生き残っていたり、他の魔物に襲われてもお兄ちゃんいれば助けてくれそうかなって)
……なるほど。この世界に住んでいる人間のほうがもしかしたら街の外に対する警戒心は強いのかもしれないな。こんな大げさな城壁で覆うくらいだし。
「んじゃ、俺もその仕事受けるかな、一緒に行こう」
そう言うと掲示板から依頼票を剥がそうとする。すると、剥がさないで申告だけで大丈夫だよと言われた。あぶないあぶない。
受付で申請すると、明日の朝、鐘がなった位に南門に集まるように言われる。
その後、以前にトゥルに教えてもらった宿屋に向かう。素泊まりで400モルズ、朝食付きで450モルズ、夕食も付けるなら500モルズと言われる。安宿と言えどもG、Fランクの冒険者には結構ギリギリな気がする。完全にワーキングプアだな。なんだかんだ言ってスラムの子供たちは宿代が掛からないだろうから、実はあっちのほうが貯金は出来るんじゃねえか? なんて思う。
今から外に出るのも億劫なので、500モルズ払って飯を食った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます