第31話 冒険者登録
ガラーン ゴローン ガラーン ゴローン
ぬう。街の教会も時間を知らせる鐘がなるのか。やはり時計が無いこの世界じゃこう言うので街が動き出すんだろうな。ふと部屋の窓から街を見てみる。ランクの低いシングルの部屋なので階は高くないがそれでも、窓から見える街の様子は見入ってしまう。
東は窓の反対側になるので城壁から朝日が登ってきているのは見えないが十分に早朝の空気は感じられる。メイン通りではもうすでに店の前を掃き掃除している店員さんらが居て、もうすでに街は動き始めている。なんていうか、銀座のど真ん中で一泊したような気分だ。一度裕也の泊まる上の階からの景色も見せてもらいたいなと思ってしまう。
街の景色に夢中になって窓から覗いていると、朝食に行こうとハヤトが起こしにやってきた。すぐ着替えるからと部屋の中で待ってもらい、急ぎ着替える。
今日の裕也は公爵の所に行くという。流石に1人で行ってくるとの事でエリシアさんとハヤトはその間図書館にいくらしい。お前はどうする?と聞かれたので、当然冒険者登録して、時間が有れば仕事もしたいと言った。
すると、冒険者登録のやり方とか細かく教えようとしてくる。
「裕也、お前は家電を買うと説明書とか隅から隅までキッチリ読むタイプだろ?」
「ん? 説明書は普通読むだろ?」
「いや俺は説明書なんて困ったときしか読まないで使い始めるタイプだ。直感型なのさ」
「ははは。まあ、お前らしいか」
朝食が終ると、各々の予定に従って動き始めた。俺も部屋に戻りきっちりと革鎧と帽子をかぶって整える。手甲は取り敢えずいいか。剣は……両刃の鋼のやつを下げた。初心者が良さげな剣を下げてると何言われるかわからないからな。
「よし、ようやく俺も冒険者か」
期待と不安を胸にホテルを出た。
冒険者ギルドは、メイン通りから西の方に2つほど入った通りを少し北門側に歩くとある。堅牢な石造りの建物で、外から見ると4階建てか。流石に全国組織だけあって立派な建物だった。扉は開けっ放しになっていて外から覗くとガラの悪そうなのが何人も掲示板の前で掲示を見ていた。恐らくそこに依頼が張ってあるんだろう。
受付のカウンターのような所に職員が数名座っていて、その前には冒険者の列が出来ている。少し並んでいる人が多い列を見るとその列の先には青色の髪をした綺麗な職員さんがいた。
なるほど……転生者のギルドの職員とのロマンスは鉄板だからな。ちょっと混んでるがここに並ぶとしよう……ふふふ、今日が2人の初めての邂逅記念日さ。
ガヤガヤとした喧騒の中、確実に列は進んでいく。見てると依頼書を剥がして持ってきた冒険者の依頼受諾の登録をしているようで、別れ際に「がんばってくださいね。」と笑顔を見せるのがとても素晴らしい。
ようやく順番が回ってくる。ドキドキするなあ。可愛いなあ。
「おはようございます。今日は冒険者に登録したくて来ましたっ!」
よし。純朴な気合い充分な新人感は出せたと思う。
受付嬢はニッコリと笑いながら、対応してくれる。
「登録、ですか? ありがとうございます。何か身分を証明できるものなどございますでしょうか」
「え?いや、なにもないです……ってそういうの無いと駄目なんですか?」
おや? 何となくスマイルが少し陰ったか?
「無くても大丈夫なのですが、その場合ギルド登録料と別に保証金が発生しますが大丈夫でしょうか?」
「あ、それは大丈夫です」
「ギルドの登録料が3千モルズ。保証金が2万モルズになります」
「あ、はい……え? 2万???」
「はい、ギルドの会員証はそのまま身分証として使えますので、近年悪用されるケースも増えているのです。ですので悪用等を防ぐために去年から頂くようになりました。問題なくDランクまで上がれば保証金に関しては返金いたします」
2……2万って日本の感覚でたしか30万円だぞ? いや、言ってることは解るが。
列の後ろから「チッ、登録なんて時間かかるの空いてる列でやればいいのに……」なんて愚痴が聞こえる。くっそ、お前が空いてる所に行けばいいじゃねえか。
「いあ、でもそれって新しい冒険者とか登録来なくないですか?」
おや。何となくスマイルが営業スマイルにチェンジしてる感がある。
「ですので、そのために分割も出来るようにしております。分割手数料で月2千モルズかかりますが、依頼達成時の報酬から少しづつ返金する形でできますよ。手付金に3千モルズ支払っていただきますが」
むうう……それ何処の暴利貸しだよ……えーと、2千モルズで3万。月3万か……無しだな。こりゃ。
「わ、解りました。払います。それでいいです」
「ご理解ありがとうございます。それでは登録しますので、お名前をお願いします。あと髪と目の色も登録しますので帽子を取っていただいてよろしいですか?」
言われるがままに帽子を取ると、一瞬受付のお姉さんが固まった気がした。
「え? スパ……あ」
あれ。お姉さん一瞬スパズって言いそうになったな。
「え? スパズだと登録出来ませんか?」
「い、いえ、失礼しました。登録は出来ます。名前とレベル等の確認をいたしますので、こちらの――」
「ぎゃはははは。おいおい、こいつスパズだぜ!? 冒険者なんて出来るのか?」
「おー。久しぶりにスパズ見たなあ。まだ残ってたのか」
後ろで並びながら話を聞いていたスキンヘッドのごっつい冒険者が突然大笑いをしながら声を上げる。それを聞いた他の冒険者達も「珍しいな」と笑いながら、こっちを見ている。
……おいおい……なんだ……これ……。
怒りとか苛立ちとかより戸惑いが大きい。黒目黒髪の話は聞いていたが、裕也との生活や村での感覚があったため、ここまでとは思っていなかった。甘かったか。
帽子をかぶり直しながら、笑いと冷やかしの中なんとか自分を制御する。
「すいません、登録の続きお願いします」
「は、はい。この解析の魔道具で名前の称号とレベルの確認をしますので、この板に手を載せてください」
「はい。これでいいですか?」
「そのまま少々お待ち下さい」
すでに、受付のお姉さんの顔には笑顔は消えていた。レベルが思ってたより高かったみたいで、少し驚いてはいたが、そのまま登録は完了と言われる。冒険者の説明をしようとしていたが、からかいと笑いの中で聞く気に成れず、分かってるから良いと断って会員カードを受け取り列から離れた。
カードにはGランクと言う文字が刻印されていた。
とっとと登り上がってやる。
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