第二章 ゲネブの省吾 ~冒険者編~
第30話 ゲネブの街
ゲネブの正門を潜ると、その栄えっぷりに驚く。
正門から奥のほうの城のようなものまでぶっとい通りがまっすぐに続いていた。感覚的に6車線くらいの幅はある。裕也はパレードなどにも使う道だからなと言う。こんな広いのはこの道だけで後は普通だと。街は真ん中の城から円形に道が伸び同心円状に環状道路があり、真ん中に近づくほど上流の人間が住む区画になっていて、中心部の貴族の住む様な区画にはぐるっと石壁で囲まれているらしい。
建物も皆石造りの立派なものが多く、低いものでも三階建てくらいはありそうだ。中央通りは商店などが多いらしく、日も傾き始めていたがまだ多くの人が歩いている。
ゲネブの街についた4人はひとまず宿を取ることになった。この街にもウーノ村にあったラモーンズホテルがあるとの事で、取り敢えず部屋が空いているかを確認しようということにした。
「おおおおお、これはホテルと言って良いな」
やはり街の規模が違えば宿の規模も変わる。完全にホテルと言って差し支えない。と言うか高級ホテル感満載だった。ラモーンズホテルはその中央通り沿いにありゲネブのホテルの中でもそこそこのクラスだという。
メンバーズカード持ってるぞと裕也に言うと、当然のように裕也も持っていた。裕也達一家は取り敢えず3泊すると言い、俺のシングルの部屋はとりあえず10泊分支払ってくれた。10日の間にある程度ギルドの仕事をこなしてお金を貯めないとな。俺は元々ニート系の出じゃないのでちゃんと働く気はあるんだ。
裕也はチェックインをしたあと直ぐに教会にフォレストウルフを持っていくと言う。それはそうだ、凍った肉が溶けてマジックバッグが肉汁で汚れるのは嫌だろうしな。俺はどうしようかと考えていると、教会に行ってその足で夕飯食べに行こうぜと言われ結局ついていくことにした。
「今日、北門から入ってきただろ、どちらかと言うと東側はお上品な区画になる。西の海側は旧市街も広がっていてちょっと治安も悪い、スラムも西の端の方だ」
「なるほど、俺様は東側で居を構えろと言う事か」
「いや、全然そんなこと言ってないぞ」
何となく街の作りを教えてもらいながら教会に向かう。教会は街の中に何個かあるらしく行くのはスラムに近い所。冒険者ギルドも血の気の多い連中が多いため西の区画にあるという。場所が知りたかったので、ちょっと遠回りになったがギルドの場所を教えてもらいながら教会まで行った。
教会は旧市街にあるというだけに、ゲネブの街の設立当初に作られた建物らしく、かなり古めかしい。俺とハヤトは用事が済むまで少し周辺をウロウロしながら待つことにした。
確かに街の中心部と比べると格段に建物の質が劣る感じがする。教会の裏の方に回ってみると孤児院のようなものが併設してあるらしく子どもたちの遊ぶ声が聞こえる。孤児院は木の塀に囲まれており中が見えない。何となく中を見てみたくて背伸びをして覗こうとしていると後ろから声をかけられた。
「何をしてるのですか? ここは教会の敷地ですが」
振り返ると、まだ十代半ばの……というか現俺と同年代のいかにもシスター然とした服に身を包んだ女性が警戒心を露わにしてこちらを向いていた。
「あ……いやちょっと。楽しそうな声が聞こえたもんで」
「何か子供に興味があったりするんですか?」
シスターは冷え切った目で追求してくる。えーと……超トゲトゲしいんですが。
と、そこにハヤトのフォローが入る。
「ごめんなさい! お父さんたちが教会に用事があるって来て、その間暇だったからお兄ちゃんとブラブラしてただけなのっ!」
シスターはハヤトを見ると、すっと険しい顔が緩む。
「そう。でも覗きは駄目よ。気をつけてね」
「はい、ごめんなさい」
そう言うと警戒を解いたのかそのまま木の塀の奥の方にある入口から中に入っていった。
「ふむ。気をつけなくちゃな。ハヤト」
「お兄ちゃんが。だよね」
程なくして裕也たちが出てきたので、夕飯を食べに行った。
高級店に連れて行かれると思ったが、行った店は庶民の味方的なごく一般的な定食屋だった。店の看板には「あすなろ食堂」とある。
「安くて旨い店を自分で探しても良いんだがな、始めは解らんだろうから。ここは昔から俺の行きつけの店でな。駆け出しの冒険者でも入りやすいと思う」
なるほど、裕也は細かいところまで気を使ってくれてありがたいね。
確かに旨い。一人暮らしをするようになったら通っちゃいそうだな。
食事の後はホテルに戻り、ハヤトと裕也と約束してホテルの風呂に入りに向かう。このホテルでは最上級のスィートルームなどには部屋に風呂まで付いているらしい、少し下のグレードだとシャワー室になるようだ。俺の部屋は一番安い部屋なので洗面所とトイレが付いている程度だったが、それでも各部屋にトイレのあるホテルは相当グレードが高くないと無いらしい。
「まさかの赤富士……」
いやしかし、こう高級そうな浴場だとこれはマイナスじゃないのか?
実は裕也がこのホテルチェーンの社長だったりするオチも想像してしまう。
「なわけない。以前ここのグループの社長の命を助けたことがあってな、たまたま俺の剣のファンだった事もあり、それ以来仲良くさせてもらってるんだ。それにかこつけて俺のわがままでウーノ村の宿の建て替えのときに浴場を日本の銭湯風にデザインさせてもらったら、社長が気に入ってゲネブのホテルにも富士山を描いてくれと頼まれたんだ」
「うーん……しかしこのモダンな浴場には微妙だな」
「そう言ったんだがな。とりあえず赤色ならシックな雰囲気に何とか合うかと思ったんだが……」
なんでも上手くいくってわけでもない。
「ちなみに、女風呂は?」
「鏡富士にした。」
まあ……毎日入っていれば慣れるかもな。
風呂も入って自分の部屋で寝る前のノイズのエリア拡大に勤しんでいるとドアがノックされる。
誰かと思えば裕也だった。
「めずらしいな、どうした?」
「いやな、ちょっと教えてとこうと思ったことがあってな」
裕也が教えに来たのは自分のスキルの確認法だった。
「勝手に覚えるもんだと思ってたが、良く考えるとお前のスキルはパッシブのばっかりだろ?」
「パッシブ? ……ああ、そういえばアクティブスキルが無いな」
スキルには使い方でパッシブスキルとアクティブスキルという物がある。簡単に言うとパッシブスキルは使用者の意思に関係なく常に発動しているスキルで、<頑丈>のようにそのスキルを持っているだけで身体が丈夫になるといった物。そしてアクティブスキルは、使用者の意思でそのスキルを使ったり使わなかったり出来るものだ。<鑑定>などの様なスキルがそれにあたる。
「アクティブスキルの使い方は基本的に魔法と同じなんだよ。魔法はどうやって使ってる?」
「ん? そりゃあ特に考えず、頭の中に……そうか。スキルも同じように俺の知覚と繋がってるのか」
「そういうことだ。ちょっとベッドに座って目を閉じてみろ」
言うとおりに目を閉じる。そのまままず魔法の存在を感じてみろと言われる。まあ、あるよな。普通に。もう手足のように使えてるし。
「その感じで周りを探るように何か無いか感じられないか?」
「ん…………お? これか。ああ、なんか解るわ」
「スキルの判別もちゃんと出来るか?」
「おう、<頑丈>だろ? <直感>もある、お、これなんかでかいな<極限集中>か」
「そう、キャパがデカイのは存在もでかいぞ」
なるほど、こうやれば今後裕也がそばにいなくても自分のスキルを確認できるのか。
……ん? これもスキルか? ……いや、でもよくわからんぞ?
「裕也。なんか<極限集中>よりだいぶデカイのがあるんだが何も見れなくてよくわからんのだが。これもスキルかな?」
「<極限集中>よりデカイってそんなスキル持ってなかっただろ?」
「いや、良くわからんけど、何ていうかまだ開いてない感じだ」
裕也が少し考え込む。
「もしかしたらお前の祝福関係のスキルかも知れないな……レベルだったりステータスだったり何か開く条件があるのかもしれない」
「まじか……俺の中に眠る真の力……目覚めよ!」
「お~、なんかこじらせてるな」
「ひっひ。期待しちゃうぜ」
とりあえず意味不明な頭の中のスキル? に関しては、様子を見ようという話になった。だけどキャパは少し多めに残しておいた方が良いんじゃないかという話にもなる。<回復魔法>は予約してあるし、後取るとしたら<ウォーター>は水場が無いところでも役に立つからあっても良いと言うが。実際は水の出る魔道具もあるからそこまで必須でもないらしい。
他はこれからの冒険者活動をしてみてどうしても欲しいのあったら入れていくくらいの感覚で行こうという結論に。
そして軌道に乗るまでの当面の生活資金だと金貨を3枚渡してきた。これは貰いすぎだろうと断ろうとしたが、冒険者登録をするのにも金はかかるし、人気のスキルやオーブは直ぐに売れてしまうので何かあったときにすぐ出せる金はあったほうが良いと言う。
もう、裕也君は過保護なんだから……。
こうしてゲネブでの生活は始まった。
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