第304話 村への帰還

 翌日モーザが戻ってくる。案の定自分の居ない所でヨグ神の呪いとの戦いが起り、少しムクレている。でもまあ俺だって何も出来なかったんだ。みつ子の封印術でなんとかしただけだしな。モーザが居ても変わらないだろう。


 ただ、楽しそうに風呂でまったりしている俺達を見て、早速モーザも入浴して気持ちをさっぱりさせていた。


「じゃあ、みつ子は前より強くなったと?」

「うむ……もう俺じゃ勝てねえかもしれない」

「……そこまでか……」


 あ……そこは言っちゃ駄目だったのか? ちょっと悔しそうな顔になるモーザに内心焦る。


「でもさ、みつ子は魔法使いだろ?」

「ん?」

「接近戦で強くなくちゃな。男は」

「……そうだよな」

「強さの基準も変わってくるしな」

「……そうだな」



 急ぐ予定でもなく、今回はモーザが食料などを持ってきてくれたので、軽くバーベキュー的な、でも魚介類ばかりだから浜焼きとでも言う方が良いのか? 盛大に食べ散らかす。何日か分として持ってきたのだが、次の日には村に向かうため、そんな取っておいてもしょうがないからな。



 翌日は朝から出発する。今回はプレジウソさんも居るためスピードは抑え気味だ。来た時と同じルートを使うため、例の宝石海岸で一泊したりと観光気分も楽しみながら帰る。

 3日目ようやく村に着いたときには、もう日は暮れ始めていた。門を守っていた自警団の人に取り急ぎ村長に面会したい旨を伝える。とりあえず門近くで俺たちが借りて使っていた家で待っていてくれということで一度ゆっくりすることにする。


「ふう。正直言うと村長のところに行く前に風呂くらい浴びたかったなあ」

「流石にもう無理じゃない?」

「だよなあ……」


 しょうが無いので濡れた布で体を拭くのがせいぜいだ。鎧を脱ぎ、軽めの服に着替えた頃に自警団の人が呼びに来る。みつ子も行くか聞いてみるが、疲れたからと断られる。仕方無しに1人で向かう。



「待たせてすまなかった。モルニア商会の人たちと少し揉めていてな」

「ああ……スラバ教団の人たちですね」

「うむ……それで、呪いの遺蹟の方は……」

「大丈夫です。完全に封印しましたので。もう今後この島にアンデッドは……あ、まだ散らばった呪いは少し残ってるのでちょっとは出ますが、しばらくすれば出現しなくなると思います」

「ほっ本当か!!!」


 お……おう。予想以上の食いつきだ。だが、まあそうだろう。200年の間ずっとアンデッド達と戦ってきた人たちだ。アンデッドの元凶を封じたとすれば、生活圏も何もかもが変わってくる。そりゃ嬉しいに決まってる。

 いや、過去の勇者たるファーブルの父親でも成し遂げられなかった呪いの遺蹟の完全な封印が、ふらりとやってきた俺たちによって成されたんだ。信じ難いという反応なのかもしれないな。


 ただ実際すぐにアンデッドが居なくなるわけじゃない。ここまでの道中にもアンデッドは数体見かけている。ただ、呪いの力の提供が途絶えた今、無くなるのは時間の問題だと思う。だんだん受け入れていく話なのかもしれない。



 それから、俺はボストークたちとの戦いの話から、遺蹟封印までの流れを説明していく。みつ子の件は少しボヤかしたが、なるべく詳細に話しはした。もう日は沈み夜にはなっていたが、ファーブルとしてもこの話はきっちりと最後までするつもりのようだ。

 話が終わると、年代物の光の魔道具の朧げな灯りの下、ファーブルが心底困り果てたように眉間を指で摘んでしばらく唸っていた。


「実は……考えたくなかっただけなんだろうな。モーザ殿が教団員を連れてきた時、やはり事実だったのかと思い始めていた。それでも、もし私達がこれから大陸へ移住する事が本決まりし、島を後にするのなら……彼らにすべてを譲ってもいいと思っていたんだ」

「……それは……わかります。僕は宗教ってのが苦手でしてね。いろんな神がいて、それぞれが違って。大いなる神の御心は人間には分からないとか言いながら、片一方の神は邪神として忌み嫌う……分からない癖に、分別はしてるんですよ。僕にとってはホントにどっちだって良いんですよ。自分に被害が無ければ」

「ショーゴ君は、神を信じていないのか?」

「信じるも何も、あなたの父親と一緒で違う世界からやってきて神とは会っています……まあ僕は微妙ですが」

「そうか、そうだったな……」

「今回も特に全員殺さなくてもって思っていたんですけどね。ヨグ神の呪いを開放して彼らは勝手に自滅したんですけど。まあ、僕も守るつもりも無かったですが。モルニア商会の人たちは、僕らを許そうとは思わないんだろうなって」

「そうだな……明日もう一度彼らと話そうと思う。今回の話も全てしていいのか?」

「構いませんよ。……あでも、やっぱり俺も立ち会いますよ」

「そうか……」


 まあ、こういうのは当事者が話したほうが正確に伝わるだろう。力でどうこうされる心配も無いだろうしな。


 奥さんの入れてくれたドクペは、なんとなくシャーロットさんの淹れてくれたものより香料が強めに感じた。各家庭の味とかがあるのかもしれない。

 話が終わるとファーブルさんに玄関まで見送られる。


「そう言えば……上に有った、その……玉が、一つ減ったか?」

「はい。流石に神の力と戦うことになりましたからね。犠牲なしとは行きませんでした」

「そ、そうか……龍は……」

「龍は生まれかわりを繰り返すらしいので。再びまたどこかで現れるんじゃないでしょうか」

「なるほど……まあ、長旅から帰ってきたんだ。ゆっくり休んでくれ。遅くまですまなかったな」

「いえ、大丈夫です。それではおやすみなさい」




 翌日、捉えていた教団員2人を連れて、モルニア商会の借りている家に向かう。色めき立つ彼らを前に俺は魔力と殺気をだだ漏れにする。更に<ノイズ>に<咆哮>成分を少し混ぜ薄っすらと漂わせる。これは古いホラー映画で効果音にテルミンの不安定な音色を使う様な効果が出る。

 程なくしてモルニア商会の連中も教団員の捕虜の2人もおとなしくなる。


 その後教団の2人に俺がボストークの使役するギーガマウスを倒した話などをさせ、遺跡の力を封印した事を告げると完全に諦めたようだ。

 元々スラバ教団は実際にこの島を簒奪しようと試みたのは確かだ。今回島に上陸した際に、メイセスが大陸に勇者を連れに向かったという話を聞き、教団としても焦り予定より早く行動を起こしたようだ。

 実際、それにより多くの島民が亡くなったのは大問題だろう。彼らの命で償わせるか、それとも……。だがそこは俺が口を挟む事じゃない。



 とりあえず俺たちの用事は終わった。終われば帰れるかとも思っていたが、ネライ子爵の交渉がもう少し残っているようだ。俺たちが遺跡を封印している間に予想以上に距離は詰めていたようで、いずれは上手くいくだろう。

 遺跡の封印により、この島も暮らしやすくなる。そこら辺で居残りを決める島民も多いかもしれないけどな。飛行機なんかあればハワイみたいな観光地化をしても良いのだが、船で1ヶ月はちょっと厳しい。だけどまあ、そこらへんも俺たちがどうこう言う話じゃないだろう。



 俺たちは島の観光がてら今まで行けなかった場所などを訪れたりしながら、残ったアンデッドを減らしていく。そして、のんびりキャンプなどを楽しみながら過ごしていた。

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