第305話 後始末。

 ファーブルとネライ子爵との移住話はだいぶ進んでいるようだ。

 ただ、島の人達の中には残りたいという者も多い。今回の移住の話は元々アンデッドの危険性というより遺伝子的な問題が有ったのだが、ヨグ神の遺跡を封印したことにより、危険が減った事が残りたいというものの気持ちに拍車をかけているようだ。


 大陸へ渡りたいと言う意志を表すのは比較的若者が多いようだが、その若者たちの中にも島への愛着は多かれ少なかれある。親が残ると言うものも居れば、大陸へ渡った後の生活にも不安がありそうだ。


「30より若い者は強制とする」


 これが最終的な村長の判断だった。年配の者など今更大陸に渡っても……そう考える人が多いのは当然だが、かと言ってその気持に若者が引きずられるのも良くない。なるべく早く大陸へ渡り、向こうでの生活の基盤を作っていくべきだろう。


 ネライ子爵が言うには、パテック王国でも都会に憧れて村を出ていく若者も多く、過疎に困っている村も少なからず有るのが現状だそうだ。そういった村々で、移住先の調整をしていくことも可能だという。

 ゲネブ公も、ゲネブに人が集まりがちで、タル村の様に空きの多い土地に産業都市の様に工場の様な物を集めることで、過疎化を減らそうとしていたのを思い出す。ビール工場も醤油工場も少なからず関わりが有ったため、村の成り行きを見たりした。

 公の思惑はかなり上手く行っているようで、今では工場以外の店舗も集まり、ちょっとした街のようになっている。



 モルニア商会の者たちは、やはりというか……島の人々は許すことが出来なかったようだ。アンデッドのせいで多くの仲間が亡くなったというのもあるし、今まで信じていただけに裏切られた時に反動は強かったということだ。

 刑が施行される時は、流石に俺たちは村にいるのは止め、数日外でキャンプなどをしてすごした。



「まあ、しょうが無いけどさ……」

「うん。まあ分かるよ。しょうが無いんだけどね……」


 人の死には慣れてきてはいたが、なんとなく私刑的なのはちょっと怖く感じてしまうのは地球からの転生者あるあるに違いない。気分を変えるために少し遠く。宝石海岸でキャンプをしながら色々考えてしまう。


「どうしたんじゃ?」


 俺とみつ子で皆と離れてなんとなくボヤいているとゾディアックがやってくる。手には村から持ってきた果実酒があった。


「ほら。モルニア商会の。なんとなくああいうの慣れなくてな」

「慣れない? 何がじゃ?」

「私刑的な?」

「ふうむ? お主はいくらでも殺し合いはしてるじゃろ?」

「まあ、そうなんだけどね。そう言うんじゃなくて。人のドロドロした感情を食らっちまうというか……まあ。とにかく。戦いでの生き死にとは別なんだよ」

「そうか……確かに無抵抗の者を殺すのと、戦ってる相手を殺すのは違うのう。まあ、ワシはだいぶ帝国の兵を殺したからな。なんとも思わんが」

「そうなんだよなあ。ただ。島民の権利を奪うつもりもないからさ。こうして知らないふりをしてるんだよ」

「ふぉっふぉっふぉ。まあ……飲め。あまり考え過ぎるな。みつ子もどうじゃ?」

「あ、じゃあ。少しだけ頂こうかな」

「うんうん」


 それでも。この宝石海岸の絶景は半端ない。過去の勇者達も度々ここに来ていたのかもしれないな。気を紛らわせるには最高の場所かもしれない。


 バシャバシャバシャ!


「お。来た? 来たのか???」

「何? おおお。すげえっ!」


 ジンが船から借りてきた釣り竿が盛大にしなっている。ミドーが網を手に慌てているが、何をしていいか分からずにオロオロしていた。そんな無邪気にはしゃぐ仲間たちを眺めるのも、気持ちの整理には具合いい。少なくとも俺の周りは平和だ。




 数日後、全て終わった村に帰る。


 その間にも話はある程度進んでいた。俺たちも、もうじき大陸に向けて出発する。その時に先遣隊的に、何人かの若者を大陸へ送るらしい。流石に今の船で全員を運ぶとかは不可能なので、大陸で移住用に大きめの船を用意して迎えに来る予定らしいが、恐らく数往復はしないとだめだろう。

 今回は、モルニア商会の使っていた船に村人を乗せて行く。何日か俺たちの船の船員が、操船技術を教えてから向かうことになる。基本的に俺たちの船とモルニア商会の船の操船技術は同じらしい。大きさは俺達の船のほうが大きいが、それでももう1隻ある島の保有の船は更に半分以下の大きさでこれで大陸を目指すのは厳しい感じがする。

 話によるとメイセスが載ってきたのはこれとほぼ同じ船らしく。過去の勇者が渡った船のうち完全に壊れた船を解体して小さめの船を2つ仕上げたとかいう話で年季も入っている。メイセスは難破したとはいえ、良く大陸までたどり着いたものだ。


 今回はモルニア商会の船の方はメイセスが船長として乗り込む。そして若手を中心に15名程度のメンバーが選ばれた。中には死ぬ前に大陸を見てみたいという高齢の夫婦も居た。彼らはパテック王国に着いたら、おそらくどこかの村に拠点を作り他の仲間達を受け入れる礎としてやっていくのだろう。


 村長のファーブルなどは最後まで島に残るか様子を見るようだ。大陸へ渡るのを拒絶するお年寄りなどが多い場合、面倒を見ないとな。などと言っている。移住はこれから一年以上の年月をかけて何度かの船便を往復させてやるのだろうが、俺達がこの島に来ることはもう無いだろう。



 出発の日、俺……というよりみつ子か、知らないうちに随分ユピーに懐かれたようで、泣きじゃくるユピーとゼックに「大陸で仕事がなければうちに来い」と誘っておく。流石に島民全員は無理だが、この兄弟くらいなら受け入れられるしな。


 そして長かった勇者の島の滞在もようやく終わり、俺達はパテック王国へ向けて出港した。

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