第228話 終章

 南側の中央通りは、北側と比べそこまで広い道では無かったが、戦っている冒険者や警備団員の為に炊き出しが行われていたようだった。それが今はスタンピードの殲滅完了ということで、さながら野外パーティーの様に盛り上がっていた。少し後ろ髪が引かれるが、流石にハーレーを街の中に入れられない。特にモーザは周りから誘われまくっていたが、後で落ち着いたら合流すると断っていた。


 西門で一度スティーブ等と落ち合い、とりあえず今日は解散の方向で話をした。スティーブはエドら家族と一緒にいるのが良いだろうし、フォルとショアラには母親が心配しているだろうから帰宅するように告げた。明日にはトゥルを迎えに行くが、そこまで人数は必要ないので休んでもらう。ただ、一度事務所の掃除はしてもらおう。ホコリが溜まってるかもしれないしな。



 俺達はみつ子のロシナンテの様子を見ようと預けてある騎獣舎に向かった。ハーレーも預けられるなら預かってもらいたいと言うのもある。怪しい親父だが大型の騎獣も受け入れられる設備はあると言っていたからな。


 騎獣舎の集まる辺りに行くと、もう既に街の中から騎獣達が外に運ばれ始めていた。なんとなくまだポツポツと魔物が来ることがあるんじゃないか? と思ったが、数日は外周内で警備団が警戒を続けると言うので襲われる問題は無さそうということだった。


 ただ、騎獣たちがハーレーにビビるので少し離れた所で待ってもらい、俺とみつ子で騎獣舎の中に入っていく、どうやら被害は出ていないようだ。


「ロシナンテ!」


 ロシナンテの無事を確認し、みつ子がいつものように顔を舐め回されている。


「ひっひっひ。ご無事でお帰りになったようで」

「ああ、ロシナンテの事ありがとうございます」

「任せてくだせえ。預かった騎獣はきっちりとお守りしますぜ」

「あ、ああ。所でここは……大きめの騎獣は預かってもらえるんですか?」


 そう聞くと、オヤジは目をキラリとさせて嬉しそうな顔をする。


「ひっひっひ。ちょうど大型の騎獣舎が開いていましてね。ちょっとお高くはなりますが……」

「おお、ちょっと見せてもらってもいいですか?」


 どうぞどうぞと奥の騎獣舎に案内される。確かに開いているが、ていうか他の騎獣が全然居ねえじゃねえか。

 連れて行かれた大型の騎獣舎は微妙にハーレーには小さく感じる。ううむ。いや、となりのも開いているから2つの仕切りを取ればなんとかなるんじゃねえか?


「そう言えばおやっさんは、テイムとか持ってるんですか? 妙にロシナンテもなついているようだけど」

「いえいえ、そんな大層なのねえっすよ。ただこの仕事長いもんで、ビーストマインドって騎獣と心を通わせるようなスキルはあるんでさあ。ひっひっひ」

「おお、それは凄いなあ。あでもビーストなのかなあ?……あいつ」

「へ? 騎獣はなんですか?」

「ああ、まあ、アース…………だ」

「へ? もう一度お願いしやす」

「まあ、リザード系だ」

「あ、リザード系も大丈夫でさあ。ひっひっひ」


 ドラゴンとか言うと契約してもらえないかもしれないからなあ。ちょっと広い所に入れてあげたいから仕切りを取れるか聞くと、料金は上がりますが良いですよと軽く返事を貰える。よし。とりあえずOKだけ貰うと、ロシナンテと戯れているみつ子にハーレーを呼んでもらう。


『おお、ここかあ。おでの家は。まあ汚えけどしょうがねえな』


「ひっひっ……ひ???」


 ハーレーの姿を見て仕切りを外していたオヤジが固まる。


「ちょっと大きいけど、ちゃんとお金は払うんで。よろしくです」

「どっどっどっどらっどらっどらっ……」

「ハーレーって名前なんですよ。じゃ、そういう事で」


 モーザも大丈夫か? って顔をしているがまあプロだ。問題ないだろう。それにドラゴンは普段は寝てばっかりだと聞いている。ちゃんと寝床をキレイにしていれば問題ないだろう、数日に一度モーザが一緒に狩りに出て食事をさせる感じかな。


 呆然としてるオヤジをなだめながら契約書を仕上げ、俺達はゲネブの街に入っていった。



 それにしても久しぶりだなあ。明日になればモーザの件で色々問い合わせが来たり、めんどくさいかもしれない。出れなくなると困るので、明日の早朝には騎獣舎で待ち合わせてトゥルを迎えに行く約束をして、俺とみつ子は久しぶりの我が家に戻った。



 翌日、半分寝ているみつ子を引っ張って騎獣舎に行く。なんか朝まで飲んでいたっぽい冒険者達が至る所でまだ騒いでいた。まあ、乗り遅れた感はあるが、一大イベントだったんだもんな。


 途中北門で警備団員達に囲まれてドラゴンの事を聞かれたりするモーザを発見しピックアップする。しばらくモーザは大変かもなあ。それでもハーレーに乗ってタル村に行くほうがずっと楽だから、ちょっと付き合ってもらおう。


 騎獣者の親父は少しはハーレーに慣れたのか、それともすぐに出かけるハーレーにホッとしてるのか分からないがいつものように「ひっひっひ。行ってらっしゃい」なんて言ってる。




 5日ほどでタル村を往復して、無事にトゥルをゲネブに運び、ようやく全て終了した。新しい果実の植樹にはサービスでフォルを寄越した。今回のスタンピードで荒らされた農地の一部を利用するらしい。木を長持ちさせるにはあまり魔法での成長をさせるのは良くないらしく、根付かせる位らしいが、木が弱ったりしたときにはいつでも声を掛けてとフォルがトゥルに言っている。一緒に旅をしているうちに芽生える友情というのもあるのだろう。


 ああ、トゥルはめでたくボストンさんの農場を継げるようだ。入婿ってやつだ。



 ゲネブの街も破壊された箇所の修繕も始まり、いつものゲネブに戻りつつある。大大的に宣伝をしているわけじゃないが、サクラ商事にも仕事の問い合わせなども来ていた。ギルドのように社員がそこまで多いわけじゃないので、何でも引き受けられるわけじゃないが。


 それには理由がある。まずはモーザだ。『ドラゴンライダー』なる仰々しい二つ名が付き、今回のスタンピードで英雄的な扱いをされている。……それとみつ子だ。城門前で<ファイヤーランス>を撃ちまくり、アルストロメリア出身のBランク冒険者、そんなのが広まり『紅蓮の花』などという二つ名を賜っていた。


 当のみつ子は真っ赤になって悶絶していた。解るぜ。痛々しいよな。


 それにしてもインターネットの無い世界で情報がここまで回るとは思わなかった。ネットが無い代わりに、個人情報の保護なども存在しない世界で、英雄譚のような物が貴重な娯楽になっているのだろうか。


 厨二的な二つ名は勘弁してほしいが、ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ自分の活躍が表に出ないのに寂しい気持ちを抱いたというのは内緒だぜ。


 だって、人間だもの。




 騒動が収束後しばらくして、夜にジロー屋のオヤジに顔を出せと言われる。俺とみつ子、それとモーザが呼ばれた。夜のジロー屋。行ってみると案の定ゲネブ公が店にやってきていた。俺は前にもここで会ったことがあるから気にしていなかったが、モーザは何故こんなところにゲネブ公が??? と半分パニックに成っていた。


「スタンピードでは助かったぞ。ゲネブ公として感謝する」

「いえ、自分の住む街を守るのは当然ですから」

「ふむ……今日は俺のおごりだ、好きなだけジローを食え」


 いや……ジローかよっ! なんて思っても流石に言えねえ。コレはゲネビアンジョークなのか? よく分からねえよ。


「モーザ。そのうち黒目黒髪に関する法が変わる。お前も希望すれば爵位を与えられる。今やお前はゲネブの英雄だからな、誰も文句は言わんだろう」

「!!!」

「おお、マジっすか。モーザやったじゃん!」

「あ、ああ……」


 まあ、急に言われても実感は沸かないんだろうな。爵位が貰えるなら警備団に入れる。夢だった父親と同じ道を歩める。願ってもないことだ。


 それから取り留めのない話しが続く、ゲネブ公は純粋にジローを楽しみに来ているようだった。


「そういえば、80層のフロアボスの話を聞いていいか?」

「え? ……知ってたんですか?」

「そりゃ知ってるだろう。だが安心しろ。お前のことは伏せてある。騒がれるのが嫌いなタイプだろ?」

「そうっすね。そうして貰えると」


 イリジウムの情報を分かる範囲で伝える。話を黙ったまま聞いていたゲネブ公はフゥとため息をつく。


「精神操作か……いや、現場に居た団員からは聞いていたが……厄介だな。やはりあそこで倒してもらったのは感謝してもしきらんな」

「たまたまですよ、精神操作に耐性さえあれば、強さ自体はなんとかなるんだと思うんで」

「その精神操作の耐性がなかなか無いんだ。……そう言えば<勇者>スキルに含まれてるとか聞いたな」


 ブッッ!!!


 思わず啜っていた麺を吹き出す。やべえ。


「ん?」

「いや……なんでも無いです。すいません」

「……ふふふ。まあ良い。お前は楽しく生きたいんだろ?」

「何のことかさっぱり……」

「はっはっはっは」


 くそお、このオヤジなんか感づいてそうで怖いわ。



 食事も終わり、ゲネブ公が帰ろうとした時、モーザがゲネブ公に向かう。


「閣下……」

「ん? どうした?」

「爵位のお話、まだどうなるか分からないのですが、今は俺……まだサクラ商事に居ようと思っているんです」

「……そうか」

「ショーゴに投資だからと、スキルやら魔法やら買ってもらって、全然その分も返せて無いので……」

「ふむ……まあ、他所の領地とかに行かないなら俺はそれでかまわんぞ」

「はっ! それは大丈夫です」


「良いのか? モーザ」

「ああ……」

「投資には利子をつけるからな」

「……は?」


 ゲネブ公は何故か嬉しそうに笑いながら店から出ていった。

 まあ、モーザがうちでしばらく働くつもりならそれはそれで良いか。貴重な戦力だしな。



 その後、口座に領主から莫大な金額が振り込まれていた。それこそトゥルの支払いが小遣いに感じるくらいだ。これでちょっと旅行とかも行きたいな。なんにしろ金の心配のいらない会社経営ほど助かるものはない。苦労している黒目黒髪が居たら雇っても良いかもな。


 ちなみに、あまり大っぴらには成っていなかったが、俺達のパワーレベリングのおかげで教会の司祭たちの魔力量も増え、スタンピード時の回復も十分に足りた事も教会からはお礼をされた。


 そうして、またサクラ商事の面々も日常に戻っていった。


 ……


 ……

 

 そうだ。


 俺とみつ子もちゃんと籍を入れた。ブラン司祭の仕切りで大聖堂で割と盛大にやってもらったんだ。一般の礼拝者にも見られて、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。みつ子は幸せそうにはしゃいでいたからまぁ……これはこれで。












※ ありがとうございます。

 以前の宣言の通り、これで2ヶ月ほど充電期間を起きたいと考えております。その間にもう1つ別の小説を書きたい欲求が出てきていまして。ゲネブ編がこれで終わるから良い区切りかと。

 ツイッターで某有名書籍作家さんが呟いていた小説案がありまして、思いついたけど自分は書かないから書きたい人いたらどうぞと呟いていたので、ちょっと飛びついちゃったんです。先生にも直接DMで許可も頂いたので。書かないわけには行かない!

 また始まりましたら近況ノートでつぶやきますので。作者フォローをなさっている方は、どうぞそちらの方でよろしくお願いいたします。


 去年の9月から書き始めてほぼ一年。毎日この過去転(適当に略してみた)のことばかりを考えて生活しておりましたが。果たしてスイッチを切り替えることが出来るのだろうかw カクヨムの皆さんの生暖かいご支援には大変感謝しております。

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