第227話 スタンピード 7
ペリュトンを落とし終わると、俺とみつ子で再び南門の方に向かうことにする。フォルは魔力切れだし、スティーブを父親の前で激戦地に連れていけるほど鬼には成れない。ショアラが付いてこようとするが、3人で居てくれたほうが俺が安心だからな。西門の守りを頼んだ。
といってもみつ子とは別行動で突っ込んでいく。戦力を分散してサポートしていく。
魔物集団は思った以上に統率の取れた動きをしているようだ。もしかしたら層の深めのフロアボスなどが統率をしているのかもしれない。その頭を潰せば、恐らく魔物の足並みも乱れるだろう。
そう言えば、ゲネブの戦力は第三警備団の団長のクルトがトップなのだろうか。BランクAランクのパーティーも参加しているようだが……正直ゲネブのAランク冒険者はあの女ったらししか知らない。なんとなく沢山の強者を見れるのはちょっと楽しみだ。
南門前では戦いが佳境に入っているのだろうか、警備団も第2、第3だけでなく第1の色の腕章まで見える。総力戦か。集団で隊列を組んで戦う警備団やパーティー単位で動いていると思われる冒険者達が入り乱れていて、その中にひときわ目立つ姿があった。
モーザとハーレーだ。
牛顔の……ミノタウロスか? モーザ達は体長も一際デカイ魔物と戦っていた。大型のミノタウロスとハーレーが戦っているせいか、周りには誰も近寄れない感じになっている。モーザは最近のスタイルである槍と<マジックシールド>を組み合わせたような戦いをしていたが……なかなか決定打を出せないでいた。
走りながらモーザの方を伺っていると、正面に現れたオーガが攻撃してきた。
……ん? やっぱイリジウムでかなり底上げされたな。タル村でやった時より余裕で戦える。<勇者>がレベルアップしたことで、中の<筋力増加>もレベルが上ったということだろうか。今日はみつ子のバフ無しでも力負けしない。よし、手数も増やしていくぞ。
戦いながら足にも魔力を集めていく。オーガの剣と俺の剣がかち合った瞬間に思いっきり膝の皿めがけて蹴りを入れる。ドゴォンと完璧にヒットした蹴りでガクッとオーガの体勢が崩れる。そのまま横薙ぎにオーガの剣を弾き、返す刀で肩口から袈裟斬りにした。
乱戦の中、すぐ次が来る。もしかしたらみつ子と2人で殲滅速度を上げたほうが良かったかもしれないなんて考える。だがそれでも上がった力を1人で試したい自分もいる。
力押しで行けるのか?
再び<剛力>を発動させ。目の前のオークに向け剣をフルスイングする。防ごうとした剣もろとも切断し、そのままオークの顔を真っ二つに吹き飛ばす。やべえな。オークなら全く問題にならなくなってきた。そのまま同じ感じで固まっていたオークを数体仕留めていく。
ふう。
オークの集団を始末してほっと一息つき、モーザとハーレーを確認する。おお? なんかさっきより動きが良い気がする。強敵を相手に細かな指示を出すのに慣れてきたのか? やがてミノタウロスの一瞬のスキを突きハーレーが腕に噛み付いた。ハーレーはそのまま首を振って宙に浮いたミノタウロスを地面に叩きつける。間をおかずモーザが槍で一突き。ミノタウロスを仕留める。
すげえ……。やるじゃねえか!
城壁にいる弓兵らもモーザの戦いに注目していたらしい、大歓声が湧く。
少しづつ流れが良くなっている感じはするが、まだ局所的に劣勢の人達もいる。遠くの方でみつ子が<ファイヤーランス>で間引きをしているのが見えた。なるほど。俺も同じのやるか。
矢筒を1つショアラに渡してたのを思い出すが、俺は構わず弓に持ち替える。まあ、有るだけの矢を撃ち尽くそう。走りながら周りを見渡し数的不利に成っているところに矢を打ち込みフォローしていく。
矢が切れると再び剣に持ち替える。うん。だいぶ大勢が決まってきたな。フロアボスはもう残っていなそうだ。戦場の様子を伺っていると、モーザ達の奥の方でクルト団長がものすごい勢いで魔物を蹴散らしているのが見えた。おおお。おっさんの戦いを初めて見たが……やっぱやべえな。
「ショーゴ! やるじゃねえか!」
声を掛けられて振り向くと、クロアのパーティー1団がこっちに向かってきていた。おお、クロア達も無事に生き延びたのか。うんうん。
「お疲れさまです。もうじき終わりそうですね」
「ああ、さっき弓で俺たちの相手してたのやってくれただろ?」
「え? ああ。クロアさんたちでしたか、全く気が付かなかったですよ。必死で魔物の数が多いところを減らそうとしてたんで」
「ははは。そうか。でもまあ助かったわ。ありがとよ」
しかしあれだけの混戦で大した傷も受けたようには見えない。 Bランクパーティーは伊達じゃねえんだろうな。
「それにしても……あの竜に乗ってるのってお前のところのだろ? モーザって言ったっけ」
「ああ、はい。ウチのです」
「あれはヤベえな。ボスも2匹しとめてたぜ」
「マジっすか? ミノタウロスを殺ってるのは見れましたが。そっかあ。活躍してくれたかあ」
まだモーザは必死に魔物を探して戦っている。警備団員達も生き残った魔物を探して働いているが、冒険者っぽいのは手を休めてのんびりしているのが多い。そろそろ大丈夫かとみつ子も手を休めて俺の方にやってきた。
「モーザ君凄かったねっ!」
「おう、みっちゃんもお疲れさん」
みつ子が俺に話しかけているのをみてクロアが何故か後ずさりをしながら俺に聞いてくる。
「ショーゴ……その子は?」
「あれ? クロアさん初めてでしたっけ? みつ子って言います」
「はじめまして。省吾君の婚約者のみつ子です」
「なっななななっ!」
「クロアさん?」
「ショーゴ……貴様……裏切ったなっ!」
「いやいやいやいや」
「許さんぞ!」
パコーン!
クロアのパーティーの紅一点の剣士、フィアって言ったか。彼女が思いっきり激昂するクロアの頭を殴りつける。
「たくっ。アンタはちょっと落ち着きなさいよ。ごめんなさいね。コイツさ、こないだ彼女に振られたばかりでさ」
「あ、ああ。なるほど……」
「違う! 違うんだ! 俺が振られたんじゃない。ミーヤは……ミーヤは……」
「はいはい。熱々カップルは目の毒よ。行きましょ」
「ミーヤは……ミーヤは……」
……
パーティーメンバーに引きずられて去っていくクロアを呆然と見送る。まあ、クロアもまだ若いしな。良いことあるよ。
たぶん。
あれだけいた魔物も、やがて全て殲滅された。まあ、色々有ったが無事にスタンピードを乗り越えられたようだ。モーザもあれだけ活躍しているのを披露したんだ。夢の警備団とかに入団を許されれば嬉しいよな。
俺たちに気がついて、満足げに拳を突き出したモーザに。俺も拳を突き出して応えた。
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