第226話 スタンピード 6

 それにしてもやはりゲネブの城壁は凄い。何度ものスタンピードを経て色々な状況を想定して作られているのだろう。魔物も攻めあぐねているのが分かる。城壁の上からは弓矢や弩、魔法などで盛んに魔物を攻撃している。結界の専門家も居るのだろう、城門もまだその形を守っている。


「どうするか、周りから減らしていくのが良いかな」

「ハーレーとモーザは正面から突っ込んでもらうか」


 なんとなくだが、モーザには竜騎士的にハーレーに乗って活躍するところをゲネブの人たちにアピールさせたいかもという狙いも有る。ハーレーは既にブレスをもう一発打てる状態らしいが、あれは人間をビビらすかもしれないからな。とりあえずギリギリまで使わないように言っておく。モーザを目立たせるためと、ハーレーはあまり派手な魔法も撃たず我慢してもらう。モーザの為と言っておけばだいたい従う。


「これだけ城門で手こずっていれば北門の方まで魔物が回ってるかもしれないな」

「そこまで広がるかな? それだとトゥルの嫁ぎ先の農園もかなり被害が出てそうだな」

「トゥル君の嫁ぎ先って……え? 北の方までって……」

「あ……騎獣舎?」

「どうしようっ! ねえ。ロシナンテの無事を確認しに行きたい!」

「仕事でどこかに行商人と出かけていれば良いんだけど……」



 城壁に近づいていくと、こっちに気がついた魔物が殺意をむき出しにして近づいてくる。みつ子の話を聞いて俺も確認したが、<勇者>がたしかにデカく成っている。あとはやはり<光矢>もある。こっちも試してみたい。


 近づく魔物に、遠距離攻撃で数を減らしていく。みつ子は火魔法、フォルは木魔法、ショアラは弓矢、ハーレーは土魔法で、そして俺は新しく覚えた<光矢>を中心に敵に打ち込んでいく。これだけ遠距離攻撃の充実したパーティーなんてなかなか無いだろう。


 <光矢>は正直なところ<ウォーターボール>などと違ってやや攻撃力は劣るの。だが、そのスピードはヤバい。光の速さとまでは行かないだろうが、レーザーガンでも撃ってるかの様にビュンビュン飛んでいくのが気持ちいい。城壁にへばり付いて登っていくような、キャタピラーなどランクの低そうな魔物になら十分使える。


 ある程度近づいたところで、モーザたちと2つに別れる。


「モーザ。無茶するなよ!」

「分かってるっ!」


 俺たちの外からの牽制で魔物たちが混乱しているのを見てか、城壁の上から門周りにいた魔物に向けて一斉射撃が始まる。中から攻撃隊が出てくるのか? モーザもハーレーに跨り魔物たちと絶妙な距離を取りながら槍を突き、城門の前を掃除し始める。


 俺たちは西側に周りながら騎獣舎などを確認する予定だ。うん、西面に行くとだいぶ魔物の数は減っていく。


 ん?


 南門の突撃とタイミングを合わせたのか? 西門から多数の冒険者が飛び出してきて魔物と戦い始めていた。城壁から少し距離を取っていたが、慌ててそちらに向かい冒険者達と戦う魔物たちを後ろから屠って行く。


 戦っていると冒険者たちの中にエドやホミュラの姿をみつけ、スティーブが声を掛ける。


「父さん!」

「おう。スティーブ。強くなったじゃないか」


 スティーブも戦列にまじりエド達と戦う。他の冒険者達と比べても劣るどころかそれ以上にやれてる。エド達も最初は不安げに見ていたが次第にスティーブに背中を任せるようになる。


「エドさん。ちなみに騎獣とかはどうなってます? うちも一匹預けてまして」

「それは多分問題ない。騎獣も家畜もみな城壁の中に押し込んでいる」

「なるほど、ありがとうございます」

「ふふ、むしろこっちが感謝するべきだ」


 みつ子もそれを聞いてようやく安心したようだ。魔物に集中して倒していく。やがて西門周りの魔物が一掃されると、1人の冒険者が話しかけてきた。


「よう。あんたらサクラ商事かい? 噂は聞いてるぜ」

「お、知ってます? ていうか噂ってなんですか、怖いですねえ」

「がはは。まあ、色々だ。ところで姉ちゃん。その魔法でさ、上のあれ落とせねえか?」


 言われて上空を眺めると、ペリュトンと言ったかタル村で見かけた魔物が数匹空を飛んでいるのが見えた。みつ子が「う~ん。厳しいですかねえ」と言いながら<ファイヤーランス>を飛ばすが、やはりペリュトンは造作もなく避ける。魔法は距離があると結構避けられるもんなんだよなあ。


 ……ん。<光矢>ならなんとかなりそうか? あれなら超速い。


 そう思い、手のひらを上空に向ける。いや。手のひらより拳銃みたいにした方がイメージがかっこいいかもしれない。人差し指と中指を揃え銃を打つイメージで……。


 バシュ。パン!


「おおお。コレなら当たるな……だけど威力が微妙か。落ちねえな」


  当たるには当たるが……光は空気を通過しながら威力が減算されるのか、あたった場所の羽毛のようなものが飛び散るがそこまでデカイダメージが有るようには思えない。だがペリュトンの方は下からの攻撃に警戒表し動きが細かくなる。痛いことは痛いんだろうな。


 そう思い、どんどんと撃ち込んで見る。


 パシュ。パシュ。パシュ。パシュ。パシュ。パシュ。パシュ。パシュ。


「お、おい……」


 話しかけてきた冒険者がなんか引いてる。まあ、遊んでる風に見えるんだろうな。「どうしました?」と返しながらも、パシュパシュと<光矢>を打ち込み続ける。しかし動いてる標的を狙うのは意外と難しいな……ん。これならどうだ?


 揃えた親指から<光束>を出す。そう。レーザーサイトの要領だ。ちょっと遠く過ぎて分かり難いが……なんかいい感じかも。レーザーサイトと<光矢>の射線を調節して……おおお! 割と命中率は高くなってくる。周りの冒険者も事の成り行きが気になるのか皆上を見ている。


 パシュ。パシュ。パシュ。パシュ。パシュ。パシュ。パシュ。パシュ。


「魔力は大丈夫なのか?」


 ああ、そう言えばそうか。大量に撃ちまくってるもんな。やがてペリュトンは錐揉みしながら墜落していった。見ていた冒険者たちからも歓声が上がる。よし。やれば出来る。残り3匹か。


「もうちょっと撃てますよ」

「そ、そうか」

「あ、皆さんは南門へ挟撃とか行かないんですか?」

「あ、ああ。俺たちはCランクまでだからな、こっちに流れて来た奴らを叩くように言われている」


 今度は3匹狙ってみるか。そう思い3匹を順番に撃ち始める。


 パシュ。パシュ。パシュ。パシュ。パシュ。パシュ。パシュ。パシュ。


 ペリュトンはいくら避けても当たるのにイラついたのか、それとも危機感を覚えたのか3匹揃って俺に向かって急降下し始める。


「うぉおお!」


 周りの冒険者達がどよめきながら逃げていく。まあそこまで強そうな冒険者達じゃなさそうだしな……。チラッと仲間を見ると皆降りてくるタイミングに合わせて攻撃を準備してる。エドは息子も居るしな、引きつった顔で剣を握り締めていた。うん。良いじゃねえか。


「みっちゃん、手を出さないで。フォルとスティーブとショアラで1匹づつよろしく、引きつけろよ」


 スティーブが遠距離を持っていないのを考慮してか、フォルとショアラが少し遅れてくる2匹に攻撃をしかける。先頭の1匹が俺に爪をかけようとした瞬間。


 バシュッ!!!


 タイミングを計ったように絶妙なタイミングでスティーブが両足を斬り落とす。そのまま地面で悶絶するペリュトンにトドメを指していた。


「良いぞスティーブ! って……フォル! もっと杭を尖らせるイメージで。飛ばす時にもっと杭をグルグル回転させて飛んでく感じでやってみろっ!」


 フォルはどうやら<ウッドパイル>が刺さらずにひたすら棍棒で殴りつける感じで当てている。それでもダメージは与えているので飛び立てないでいるが、このクラスになると魔力もあるから刺さらねえのか? 必死に俺の言うイメージを再現しよう鬼の形相で魔法を撃つ。


 やがて<ウッドパイル>がスクリューをし始め、魔物の皮膚に刺さりだす。うんうん。やれば出来るじゃねえか。


「兄貴……魔力尽きちまった……」


 まあ、それはしょうがねえ。

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