第234話 汚れちまったモーザ

 それでも、少し眠くなったりでウダウダ、ウツラウツラとしているうちに日が昇る。

 やがて、メイドさんが朝食を用意してくれ、希望があればお風呂もどうぞと言われる。これは断るなんてもったいない。クラシカルで味わい深い浴場でのんびりと入浴を楽しんだ。


 ゲネブ公などは既に仕事をしているらしく、俺達はひっそりと湯上がりの湯気が立つまま館を後にし、家をめざした。


 帰宅して着替えるとすぐさま旧事務所の方に向かう。みつ子が言うには、今日の午前中にはハーレーの試し乗りに来るらしい。モーザは多分今日は仕事に来ると思うのだが……。


 ……。


 事務所に行くと、ソファーにモーザが寝ていた。やはりというか……。


「はぁ~。やっぱり昨日も遅くまで遊んでたのね」

「うーん。まあ息抜きは大事だから。許してやろうよ」

「息抜きって、毎日よ? モーザ君、昔はこんなんじゃなかったのに」

「……なあ」


 そう、この5年の間にモーザはだいぶ変わっちまったんだ。


 女性が苦手なモーザに耐性をつけないとと思い、夜の女の子の居る店に連れ回した。この世界の夜の店は地球のようにスナック的な店も多くある。プロの女性で慣れればなんて思ったもんなのだが……。

 あ、もちろん俺はみつ子に了承をしてだ。


 だがそれが、失敗だった。


 はじめは女性恐怖症とまで言えそうだったモーザだが、ドラゴンライダーとして名が売れ、黒目黒髪の差別を撤廃する法が作られ、授爵をすれば、それなりにイケメンだ。給料もかなり上げてるので金もある。放って置いてもモテるんだ。スナック的な夜の店に連れていけばホステス的な女性にも大モテだ。


 キャーキャー言われ、プロの女性に囲まれて酒を飲むうちに、徐々に女性にも慣れてくる。俺はゲネブのそういった店を知らなかったので、はじめは興味半分に定期的に色々な店にモーザを連れて行って女性との遊び方を仕込んで行った。


 その結果。どうなった?


 毎晩のように、仕事が終わると、夜のスナック的な店に行きそこから出前をして食事を取り飯を食う。たまには同伴もしたりしているようだ。そしてゲネブの繁華街で十件近くの行きつけの店があるようで、1日3件とか店を梯子して、場合によっては今日のように深夜遅くまで飲み続け、そのまま旧事務所のソファーで朝まで寝る。


 そんなやさぐれた生活になってしまっているんだ。


 まあ、まだ女性とアフターしてホテルで一泊とかの確認はしていないが。どう考えても遊び方が40代50代のおっさんの夜遊び的で、頭を悩ませている。俺が誘った手前やめろとも言いにくいし、少し減らせばと言っても「顔を出さないと悪いから」と完全に常連の思考だ。



「おい、モーザ。起きろ」

「ん……ん? ああ……もうそんな時間か?」

「王都行きの話が色々変わってな、リル様を王都まで護衛する話になった」

「うん? ……なっ! なに!?」


 ゲネブ公の娘の護衛だ。モーザとしては2つ返事で了承する様な案件だ。


「それでな、今日の午前中にハーレーに試し乗りしたいっていうから付き合って欲しいんだが」

「お、おう。分かった。……ん? もういらっしゃるのか?」

「いや、まだ早いから大丈夫だけど、とりあえずシャワー浴びて着替えてこい」

「わ、わかった」


 そう言うとモーザは急いで飛び起き、事務所から出ていく。


 今はモーザもサクラ商事の寮に部屋を用意してある。寮は3年ほど前に廃業した宿屋を買取り、改築して寮のように使っている。黒目黒髪の従業員など色々な事情で独り身の従業員が多いため寮が必要だったわけだが、モーザは朝帰りで遅くなったときに起きれなそうな時は事務所のソファーで寝てしまうため、たまにしか使っていないようだ。


 寮は東のブロックの為、少し遠いがモーザの脚ならすぐに戻ってくるだろう。俺達はそのまま隣の建物の新しい事務所の方に顔を出した。



「あ、ショーゴさんおはようございます」

「おはよう、ん? ミュラは今日休みじゃなかったのか?」

「そうなんすけど、フルリエさん達がまだスス村のダンジョンから帰って無くて、人手が足りないみたいなんです」

「ああ、<剛力>のオーブがまだ出ないのか。悪いな、休日出勤してもらっちゃって」

「どうせ休んでもやることないですし、良いですよ」


 ミュラはシュワの街から海沿いに行くルッカ村の出身の黒目黒枠だ。15歳の成人を迎えると同時に、漁師をしている親から黒目黒髪は強いって言うからと、サクラ商事に入ったらどうか? と勧められてゲネブに来た子だ。


 まだ入って1年足らずだが年齢も若いことも有んだろう。事務をしているブルーノも頼みやすいのか、色々と便利に使われている。


 ちなみにフルリエは、少々不幸な生い立ちで、小さい頃に食い扶持を減らすために売られたという黒目黒髪の女性だ。ゲネブの繁華街で……いわゆる体を売るような仕事をしていたらしい。地元に居たため情報も早かったのか俺達が黒目黒髪の人員を募集してすぐに仕事をやめサクラ商事に飛び込んできた。今は31という年齢だが、前職の影響なのかなかなかエロいキャラだ。

 サクラ商事歴は初期メンバーの次に長く、今では現場責任者なども任されている。


 俺とミュラの話を聞いていたコルムが申し訳無さそうに言う。


「すいません。僕のために……」

「なに、気にすること無いさ。コルムが強くなればもっと美味しい仕事を受けれるようになる。そうすりゃすぐに元が取れるさ」

「は、はい! がんばります!」

「まあ、気楽にな」


 貴族の子供の割に、このコルムはだいぶ腰が低い。

 と言うか、人の顔色を気にしすぎている。子供の頃からの黒目黒髪として蔑まれて居たのだろうか。ストラと一緒に裕也メソッドをクリアしたのだからもっと自信を持てば良いのだが。


 ……まあ、時間が解決してくれると思うしか無いな。

 

 コルムがウチに入ってきたのは割と最近だ。フルリエの不在の理由は、ピゲ伯爵から頼まれて受け入れた王都の貴族出身のコルムに<剛力>を付けたいということで、スス村にあるダンジョンでオーブ探しに行ってもらっている。

 今回は、温泉旅行も兼ねて同じ女子枠のソニアとユンの2人を引き連れてきっと楽しくやっているんだと思う。


 ソニアとユンは黒目黒髪では無く普通の(日本人にとっては黒目黒髪が普通なのだが)適正の社員だ。

 コルムも黒目黒髪で、年齢は18歳だ。今回は王都行きという事で実家に顔を出したらどうだ? と同行を打診しているが、まだ悩んでいるようだ。


 そうこうしていると、他の社員達も集まり始め、事務所の中に活気が出始める。


 やがてモーザもリル様もやってきたため、俺たちはハーレーの元に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る