第255話 結局仕事の話
いわゆる王様の椅子が置いてある広間での謁見かと思ったが、ああいう場所はもっと公的な催しだったりに使うらしく、普通に個室に通される。
いつだったかゲネブに国王が来たときに部屋の前に居た青年が同じ様に国王の待つ部屋の前に居た。
「おや、君は……」
なんとなく俺のことを覚えているのだろうか。少し立派な感じになって俺たちの確認をしようとするが、ハヤトに言われ再びナイフを見せるとそのまま部屋の中に通される。このナイフって王城内でも通じるのかよ……。
通された部屋は入って右手に向かって細長く伸びた感じの部屋だ。部屋に沿ってズラッと窓ガラスはあるが、部屋の中はシンプルで、3つほどのバーテーブルというのだろうか、立って使うテーブルが置いてあるだけだ。
その一番奥にあるテーブルの周りで、国王と伯爵ともう1人の……エルフの男が話をしていた。そして、俺達が入ってくると伯爵が軽く手を挙げる。
「ああ、良く来てくれた。ふむ。お二人は初めて会うね。オーティス・ピケだ」
「はじめまして。フルリエと申します。お噂はかねがね」
「ゾディアックじゃ」
うん? なんか2人とも堂々としてるなあ。爺さんなんて伯爵に対しても同等くらいの感じだぞ? むしろ俺のほうがビビるわ。
ていうかエルフの男の視線が、すげえ熱いんだが。どうしたらいい?
そんなエルフの事は余所に、ゾディアックとピケ伯爵は和やかに話を続けている。
「伝説のブルガリスの英雄とお会いできるとは、光栄ですよ」
「もう昔の話じゃよ。今は失せ物探しも満足にできない老いぼれじゃよ」
「お手伝いできることがあれば、いつでもおっしゃってください」
「ありがたいな」
国王も俺たちに歩み寄りゾディアックに握手を求めてくる。マジかよ。
「子供の頃に枕元で聞いた英雄と会えるとは、余も良い年をして興奮しているぞ」
「……あんた国王じゃろ? こんな老骨に手を差し伸べるとは、変わっておるのう」
「お、おい爺さん。もうちょっと言葉を――」
「良いんだ。ショーゴ。ゾディアック老が居たからこそ、今の戦力バランスが成り立っている。我が王国の安定もウブロット共和国を始めとする、帝国の隣国同士が手を結んでいるからこその話だ」
ううむ。話的には俺が日本に居た頃に覇権主義を振りかざす大国に対して周りの小さい国々が手を結んで抑えている様な感じなのだろうか。
あまり国家間の問題を気にしていなかったし、この世界には新聞などが在るわけじゃないから知らないというのが正直な所なのだが。
スルーしておこう。関わるときっと面倒くさい。エルフの男は相変わらず俺を見つめてくる。俺はたまらず笑顔で会釈をしておく。
ゾディアックらの盛り上がりを眺めながら、隣のバーテーブルでメイドが持ってきてくれた果実のジュースを飲む。夏の暑さに冷たいジュースはこの世界じゃかなり贅沢だ。生搾りじゃなく、一度保存用にジャムにした果実を水で溶いた感じなのだろうか。うん。おかわりしてしまおう。
美味そうにグビグビとジュースを飲んでいると、ピケ伯爵がいい笑顔で近づいてくる。
「それでだ。ショーゴ君。君にはまた色々と頼らせてもらうよ」
「え? ああ、まあ。そんな大したこと出来ませんけど……ねえ? ああ……はい。出来ることなら」
「そんな謙遜しなくても良いだろう。サクラ商事の評判は上々じゃないか」
「ありがとうございます。みんな頑張ってくれていますので……」
「今回も、ゲネブ公を通して、事務所には了承済みだよ。ブルーノ君だったかね。快く引き受けてくれてね。ああ。君たちの世界だと電話、というんだったか。あれは良いねえ。とても便利な魔道具だよ」
ん? 今回も? 電話で?
……ナンノハナシ?
「えっと?」
「ああ。そう。まだ話をちゃんと説明できていなかったかな? ハヤトからは聞いていないかね?」
「え? ハヤト?」
「あれ。伯爵? 陛下から説明が在るという話でしたので僕からはまだ」
「ああ、そうだったね。うん。ちゃんと説明してもらおうか」
な、なんだ。この2人の掛け合いは。ツーカーで俺を詐欺に掛けてるみたいじゃねえか。俺は訳がわからないまま2人に背中を押されて陛下の前に出る。陛下はゾディアックと話をしていたが、俺の顔を見ると話を中断しニッコリと微笑む。
「ああ、本題がまだだったな。何処から話せばいいか……うん。彼はメイセスと言ってね、とある島からやってきたんだ」
そう言うと陛下は、隣りにいたエルフの紹介を始める。島?
「島ですか? 森……じゃなくてですか?」
「うん。彼の祖父と私の先祖とでは色々問題があってね。ただ、もう二百年も前の話だし私としてはそろそろ歩み寄りをしても良いんじゃないかと思っているんだ」
「はい?」
さすが陛下だ。子供の頃からピケ伯爵の教育を受けているだけあるな。回りくどさは師匠譲りだ。何を言ってるか全くわからん。
「そこで彼の故郷の危機を救うのに私としても全力で力を貸そうと思っているのだよ」
「はあ。故郷の危機……ですか」
「彼の住んでいた島の魔物たちがここ数年でどんどん強くなってきていてね。島民の被害がかなり出ているらしいんだよ」
その話で、メイセスと呼ばれたエルフ……ハーフエルフだろうか。の青年が初めて言葉を発する。
「はい。私は島の長老から、大陸に行きこの危機を救ってくれる勇者を連れてくるように命じられてやって来たのです」
「へ? 勇者?」
「はい。道中、竜騎士の話を聞き。貴方なら間違いなく私の故郷を救って頂けるのだと確信したのです!」
「へ? 俺? 竜騎士?」
「ん?」
ちょっと困って陛下の方へ視線を送る。陛下はメイセスが勘違いしているのに気がついたのかすぐに間に入ってきてくれる。
「すまんメイセス。竜騎士モーザは彼では無いんだ。彼はモーザが所属する団体の代表で、ショーゴと言うんだ。まさにモーザの上司というわけだ」
「え? ああ、申し訳有りません。勘違いをしていました。そうですか。竜騎士の方とばかりに……」
「ええ、まあ僕も黒目黒髪ですし、初めてならしょうがないですよ」
「それにしても驚きました。黒目黒髪の扱いがこの国で正されたと言う話を聞いたときは信じられなかったのですが、本当だったのですね。あの女性の方も黒目黒髪ですし」
「そ、そうですね」
「それでは、よろしくお願いいたします。これで私の故郷も救われると思います」
「えっと。いやでもやってみないと結果はなんとも……」
「大丈夫です。私は確信しておりますので。祖父もそうだったと聞きます」
「は、はあ、しかしまあ他の仲間と話をしてみて、ですね」
なんていうか。故郷の危機と言うことで藁にもすがりたい気持ちは分かるんだが。そう過度に期待されちまうとなんとも……。
話を聞いていた国王は、嬉しそうにうなずく。
「うんうん。ショーゴなら引き受けてくれると思っていたよ」
「いや。まだ引き受けて無いじゃないですか」
くそう。国王と言えども簡単に首を縦に振ってたまるか……なんて気概で居るのだが。陛下は全く気にもせずに笑いながら話を続ける。
「ははは。実はな。ここだけの話、彼の故郷には闇魔法のスクロールが1つ秘匿されているという話だ」
「……え? 闇魔法の?」
「手伝う代わりに、それをショーゴに譲っても良いという約束をしてくれたぞ」
「ま、マジっすか。うわ。少し諦めていましたがそれは、……断ることなんて出来ないですよね」
「うむそうだろう。他には闇魔法の入手の目処が立っておらぬしな」
「はい。帝国にでも探しに行こうかと思っていたくらいで」
「なに? 帝国に?」
……あ。いけね。剣聖の話は内緒だぜ。
「いや。ああいう古い国なら何処かに残っていないかなと」
「……まあ無い話では無いだろうがな。しかし在ると分かった上で行くならそれに越したことはないだろう」
「はい。そうですね。前向きに考えたいと思います。それで、彼の島というのは遠いのですか?」
「今までその島との国交が有ったわけではないからな、正直な所、分からない。だが、メイセスなら島まで案内できるという」
「はい。お任せください。陛下から船もお借り出来るということで無事に島までご案内いたします」
え? なに? そんな遠いの?
嫌な予感が再び持ち上がる。部屋の中に視線を泳がせると、満面の笑みの伯爵と目が合う。
「メイセスの祖父の名前はな。ユタカ・オザワという」
「へ? まさか……」
「そう二百年前に我が国から去った、反逆の勇者だよ」
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