第254話 王城

 朝、ホテルのレストランで俺とみつ子、フルリエとゾディアックの4人で食事をしていると、早朝だと言うのにとびきり爽やかな笑顔のイケメンが近づいてきた。


 ハヤトだ。


「おはよう。へえ、美味しそうだね。僕も食べようかな……」


 ハヤトは朝、何も食べないでここまで駆けつけたようだ。裕也の所に泊まったのかと思ったのだが、王都で一人暮らしをしているのでそこに帰ったようだ。男の一人暮らしは中々朝食を取らないパターンが多くなるのかもしれないな。


「あら。省吾さんのお知り合い?」


 突然のイケメンの登場に……いや。あまりフルリエは変化無しか。でも興味深そうに聞いてくる。


「おう。ハヤトっていうんだ。裕也の息子だ」

「へえ、裕也さんの。随分整ったお顔をしているのね」

「はは。ありがとうございます」

「まあ、顔のことは言われすぎてお腹いっぱいかも知れねえけどな。そればっかりはずっと言われるから諦めな」

「うーん。そうなのかなあ?」


 そしてそのまま普通に食事を頼み、食べ始める。

 俺たちは朝礼って訳でもないが、フルリエとゾディアックの予定など聞いておく。


「お爺ちゃん、ここでもあまり情報無かったのよね。どうする? もう少し歩いてみる?」

「そうじゃなあ……ショーゴ達は今日もユーヤの所か?」

「ん? 俺はハヤトに付き合う感じだな。みつ子は昔お世話になった冒険者ユニオンに顔を出すから、別行動だ」

「お爺さん、もし良かったらショーゴさんと一緒に来ます? えっと。フルリエさんもどうぞ?」

「俺以外も良いのか? 伯爵だろ?」

「うん。サクラ商事のメンバーなら問題ないよ。本当はモーザさんが居ればよかったんだけど……ワイバーン狩りに行ってるんだもんね」

「モーザも……か?」


 モーザの名前が出てくると、いっそうなんで呼ばれるかが分からなくなる。というか竜騎士を国で認めたことを考えると、伯爵が会いたいというのは分からなくも無いんだが……。サクラ商事のメンバーならオッケイということはやっぱり仕事なのだろうか。


 難しい顔で考え込んでると「嫌だなあ、そんな大した用事じゃないよ」とハヤトは笑って言ってくる。なんとなく、ハヤトが社会に出て汚れてしまっていないか気になるぜ。




 食事を終えると、ハヤトについて街を歩いていく。みつ子はアルストロメリアの方に行ったので、俺とフルリエとゾディアックだ。


「えっと。で、ハヤトの職場は何処に在るんだ?」

「んと。公的な場所だからね。貴族街の方なんだよ」

「ほう……」


 フルリエとゾディアックにもハヤトが、国の諜報機関的な所に所属しているのは話してある。ゾディアックはそんな組織に俺が普通に呼ばれているのに驚いていたが、当のピケ伯爵が、ゲネブから王都に送迎したエドワールの父なんだと説明すると、それなりに納得していた。そのうえで、そういう機関で自分の妻の行き先が分かるかもしれないと、少し期待をしているようにも感じる。



 士爵あたりまで貴族街に詰め込まれているゲネブと違い、王都の貴族街は子爵くらいから上級の貴族が住んでいるという。王都には王国内の領地持ちの貴族なども別荘のごとく王都に居を構えている為に、場所がそこまで余っていないというのが在る。当然、ピケ伯爵やゲネブ公の住まいもある。

 それと、役所的な建物も、ゲネブの場合は貴族街の外に並べられていたが、王国運営の……日本で言えば省庁的な建物は王城周りにあり、ハヤトが務めるメカヌス本部もそこに在るのだという。


「あれ? 王立学院も貴族街の中にあるの?」

「そうだよ。貴族の子息が多いからね、警備上その方が楽みたい。学院生は学生証で貴族街の門を通れるようになっているんだよ」


 そう言いながら、身分証を貴族街の門番に見せる。一応俺たち3人は付き添いということで名前をノートに記録させられる。流石にこういう時に龍珠を隠してむしろそれがバレたら大問題になるかもしれないと、おおっぴらにしていたのだが……案の定引っかかる。


「以前、国王に龍珠で止められたりしたらこれを見せれば良いって、貰ったんですよ」


 そう言いながら、門番に国王から貰ったナイフを見せるとハヤトが驚いたように覗き込む。


「ヒュー! 兄ちゃん、それって超レアだよ。なかなか国王からそのナイフが下賜されること無いんだからね」

「え? そうなんだ。なんか。普通だと思ってた」

「ほんと。やめてよね。無くしたりしたら大変だよ」

「大丈夫だって。……多分」


 むう。刃も入ってないし普段次元鞄に入れっぱなしだけど。ちょっと気をつけたほうが良いのか?

 それにしても、事務所は王城の近くなのな。どんどんと奥に進んでいく。


 貴族街は下から見ても坂道だったが、坂の街ってなんか良いよな。振り向くと中世的な味のある街並みが広がり思わず見とれてしまう。レベルを上げていない人達だとこの登りはキツイかもしれないけど、貴族街で家を持つことのステータスを感じる。


 ……って。何処まで行くんだ?


「ハヤト。まだか? こんな上なの?」

「うん、もう少しで着くよ」


 そんなハヤトは、ズンズンと進んでいき、とうとう王城の門までたどり着く。もう嫌な予感メーターはマックスまで振り切れている。



「……もうあの頃のピュアなハヤトは居ないんだな」

「何言っているんだよお兄ちゃん。ちゃんと伯爵が待ってる所に来ただけだよ」

「それでもだよ。王城は無いんじゃないかな。お兄さん、心臓が爆発しそうだよ」

「だって、陛下だってお兄ちゃんと顔見知りだって言うじゃん。あんなナイフまで貰えるくらいさ」

「……え? 陛下?」

「うん。ちゃんと昨日伝えてたから、時間も作って待ってるよ」

「ななななんだって?」

「ふふふ。さあ、入って入って。あまり待たせるのも良くないからさ」


 マジかあ。振り向くと、フルリエもゾディアックも余裕な顔をしている。なんか俺だけあたふたしている気になり、必死で平静を装う。


 そしてそのまま王城の小部屋に連れて行かれ、ここで陛下の体が開くまで待つように言われる。ハヤトは部屋から出ていったと思ったら、ポット等を乗せたカートを持ってきて俺たちにお茶を入れてくれる。勝手知ったる王城みたいにしているよ、おい。


 しかし窓へ近づき外を見れば、王都がよく見える。嫌なプレッシャーもあるがまあ、今のこの状況はきっとレアな体験だ。王城からの景色を楽しむしか無いだろう。


 ハヤトは自分で入れたお茶を飲みながらフルリエやゾディアックと話をしていた。特にゾディアックの身元については既に把握しているようで、ウブロット共和国の話などに花が咲く。


 そしてなんだかんだ言って、一時間ほど待たせられ、ようやく王からの呼び出しが掛かった。




※はい。一応明日は水曜日ということでお休みさせていただきます。今週は休まずに更新できて良かった。おかげで1日のPVが5桁キープ出来てウフフですな。

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