第256話 結局仕事の話 2
俺たちがこの世界に転生してくる、およそ二百年前、同じ様に日本から転生してきた1人の男が居た。
彼は、転生者のテンプレそのもののように、チートな強さを身につけ、魔王を退け、世界から勇者として讃えられた。それ以外にも日本から持ち込んだ知識で巨万の富を築き、最高の転生ライフを送っていた。
それが壊れた原因が1つの「理想」だった。「思想」とも言うべきか。
元々生まれ育った日本では、すべての人が平等で、平和で、民主的な世界が形だけでも出来上がっていた。それをこの異世界に持ち込もうとしたのだ。
この世界では、国の中に階級が存在する。国王がいて貴族が居て、市民が居る。さらにその下にはスラムだったり日々の生活にすら苦労する人々がいる。もしかしたら勇者も黒目黒髪と言うことで転生当時は苦労したのかもしれない。
やがて、パテック王国中に彼の思想に対するシンパは増え、そのうねりが革命にまで発展することになる。
彼が勇者として輝いていたのはそこまでだった。彼の思想を支持した力のない人々を王国は許すことなく殺していった。勇者として無敵の強さを誇る男も、戦争の恐ろしさには勝てなかった。ついには方舟のような巨大な船を作り、彼についていく仲間たちとともに最後は国を離れ、大海原に旅立った。
そこまでがこの世界の残っている過去の勇者の記録だ。その後の彼の行き先は殆どわかっていない。いや。以前聞いた話だと、異国の商連合の様な所が、交流を持っているという噂を聞いたことはあったが……。
「はい。数十年前からたまに交流品等を持ってくる商船が来るようになり、島の生活がだいぶ良くなっては来ていたんです」
「はあ、それって何処の国なんですか?」
「いや、国の名前は秘密にされていました。祖父の事もあり、我々と交流していることを何処かで漏れたら困るということで……」
「なるほど……」
まあ、それはそれで理屈は通るのか……。騙されていないか心配にはなるけど。
「その島というのは、やっぱり龍脈などは繋がっていないんですよね?」
「はい。ですから集落の周りに囲いを作り、外敵から身を守りながら生活をしています」
「それが、最近はどんどん魔物が強く、と言うことで? ……どんな魔物なんですか?」
「はぁ……それが……」
「ん?」
「アンデッドなんです。島にいる魔物は、アンデッドのみなんです」
「アンデッド……って居たんだ……」
アンデッド。ファンタジー物なら割と普通に出てくる魔物の種類だ。たしか呪われていて神聖魔法とかに弱いとか? ゾンビとか骸骨とかミイラとか、そういうイメージだけど今までこの世界で見たことが無かったんだよな。うーん。俺になんとかなるのか?
その後もメイセスから簡単に説明を受ける。
メイセスは島から船で大陸に向けて出港したという。当然島では、パテック王国の事は伝わっていたため、できればそれ以外の国と言うことでこちらに向かってきた。それが嵐に会い船は沈没。流れ着いたのがパテック王国の田舎の漁村だったというわけだ。同じ船に乗っていた仲間は未だに確認が取れていないという。
流れ着いた漁村の村長から竜騎士の話を聞いたメイセスはそのままゲネブを目指そうとするが、道中でメイセスの情報を手に入れたピケ伯爵がピックアップしたということだ。
過去の勇者には沢山の嫁が居たという。いわゆるハーレムチートというやつだ。クソッタレなやつだな。
人間との間に出来た子供たちは二百年という時代の中で血は薄れていってるのだが、長寿であるエルフの嫁との間に産まれたハーフエルフの息子がそのまま今でも島の代表を勤めているという。それがメイセスの父親になるらしい。だからメイセスはハーフじゃなくクォーターという訳だ。
ちなみに長老というのはその勇者の嫁さんエルフということで。今でも健在らしい。エルフの長寿と言うのは色々とバランスを崩すものだ。
勇者たちの船は島に流れ着き、そのままそこに生活の基盤を作っていった。だが、島にはアンデッドが溢れ、戦いは熾烈を極めた。それでも最高戦力である勇者はアンデッドに対しても健在であり、やがて人が安心して暮らせる集落などが出来上がってくる。
「アンデッドの島って……神話にもそんなのあったよね?」
聞くと、勇者たちも恐らくその島だろうと考えられているらしい。創造神を殺したと言われる3人の邪神。魔素をばら撒いて魔物を生み出したと言われるナイアー、巨人を作り世界を破壊しようとするシャイターン。アンデッドを生み出したというヨグ。
その3つの邪神のうち、ヨグは神々との戦いの中で命を落とした、しかしヨグにより汚染された場所からは変わらずアンデッドが生み出され続けたため、神々はその土地を大陸から分離し、大陸と分け隔てられた島として大海のどこかに隔離されていたという。まさに勇者のたどり着いた島は、そんな島だったのだろうと。
「勇者が亡くなった後が、苦労したのかな」
「そうですね、祖父もそれに合わせ色々と準備はしていたので、我々が普通に暮らしていくにはそこまで問題は無かったのですが……ここ何年かで少しづつ魔物の強さが上がってきて……」
「魔物って、湧くものですよね? 一時的に俺たちが間引くだけじゃ根本的な解決には成らないんじゃ?」
「祖父は、島の奥深くに邪神ヨグの残した元凶のようなものが在ると言っていたらしいのです。しかし祖父にはそれを壊すことが出来ず封印をしたというのですが、もしかしたらその封印が解けてしまったのかもしれません」
「えっと……封印って言ってもなあ、そこまで護衛とかして連れていけばそれを出来る人が居るんですか?」
「いえ……どの様に封印をしてきたかなどは全く分からないのですが……勇者様なら……」
「う~ん……俺じゃあ何処まで対処できるか、全く自信ないですよ?」
「あ、いや。ショーゴさんじゃなく、竜騎士の……モーザ様なら……」
「あ……そうね。うん。まあ。俺じゃなくてね。はははは」
て、モーザとハーレー連れてってその元凶をブレスで焼いちまえば済んじゃう話だったりするのかね。
その後も島の話などを聞いて、俺達は一度この話を持ち帰らせてもらい、他のメンバーと話をしてから返事をすると言うことでその場を逃げ……辞してきた。
……やっかい極まりないぜ。
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