第257話 チャペック大聖堂

 今日はみつ子はそのままアルストロメリアのユニオンハウスに泊まってくる。とりあえず途中で昼飯を食ってからホテルに帰り、俺は一度今いる3人で相談することにする。



「で、船旅とかしてたら2~3ヶ月あっという間に経っちまうよな。どう思う?」


 相談と言ってもちゃんとしたサクラ商事の社員はフルリエだけだ。ゾディアックは名義だけの形だしな。


「船に揺られるのも楽しいですわ。きっと」

「まあ、旅行だったらね。行き先もちゃんとしてて。でも今回は怪しげな島だろ? 依頼もちゃんとできるか分からないし」

「ショーゴさんとモーザさんなら問題ないと思うけど」

「ふうむ……で、爺さんは無理して付き合わないでいいからね」

「何を行っておるんじゃ。儂は行くぞ。お主らが行かなくとも行こうと思っとる」

「へ?」


 なんだか、ゾディアックはノリノリだ。


「ふう……そうじゃな。ちゃんと話しておくか」


 ジジイにしては珍しく真面目そうな顔で語りだす。なんだろう。今までちゃんと話してなかった感じだな。言えないようなヘビーな話ならリアクションも取りにくいし、あまり聞きたくないんだけど。


「ワシの妻。つまり、あー。アリステじゃがな。実はもう亡くなってるんじゃ……」

「……え? じゃあ……探しているのって?」

「探しているのはアリステじゃよ」

「えーと。やっぱりボケが……」

「ふん。ボケとらんよ。頭はしっかりしてる方じゃ」

「ほんとに?」

「殴ろうか?」


 つまり。話としてはこうだ。ゾディアックの妻のアリステさんが亡くなり、日本で言うお通夜のように棺桶に入れておいた。そして、いざ火葬をしようとした日に遺体はどこかに消えていたと。簡単に言えばそういう話らしい。特にアリステさんもウブロット共和国にとっては英雄の一人だ、たくさんの参列者も居たらしい。


「本当に死んでたんです?」

「それは間違いない。医者も確認済みじゃ」


 そして、その近辺に、冒険者が狩りで仕留めたという魔物の死骸も消失する事件が続いていたらしい。


「そういえば、最近はみんな気をつけるようになったせいか聞かなくなったけど、4.5年前にパテック王国でも同じ様な事件が続いたなあ……それと同じなのか?」

「そうじゃと思う。ワシも調べたが同時にいろいろな場所で起こってるわけでは無かったんじゃ。そういった事件が各地を転々と回ってるようでな」

「じゃあ、なぜパテック王国に? パテック王国で起こったのはもうだいぶ前の話じゃ」

「大陸のいろんなところで発生して、また流れとしてこっちの国で発生する……そうみたのじゃが。今の所ギルドで聞いても同じ様な事件が起こってはおらなんだな」

「むう……で、それと勇者の島の話は……そうか。アンデッド???」

「そうじゃ。何か関係ある気がしての」

「……なるほど」


 ゾディアックの気持ちは理解が出来た。だけど、大陸と島はかなり離れていると聞く。島に大陸から商船が来るようになったのだってここ数十年……ん? うーん。関係あるのだろうか。突飛すぎてイメージすらわかねえよ。



 それにしても、時間が余るな。どうせだから戦力補強も兼ねて教会にでも行ってみるか。聞いてみるとフルリエは喜んでついてくるという。ゾディアックも自分は要らないが暇だからと付いてくる。たしか、王都の教会は、パテック王国の中だと一番の大きさだと聞く。こんな用事が無くても、一度見学しには行きたかったんだ。


 ……


 ……



「おおおお~」


 チャペック大聖堂に着いた俺達は、異様な佇まいを見上げて声を上げていた。これでは完全に田舎のお上りさんだが。いやはや。ゲネブ大聖堂とそんなに変わらないだろうと思っていたのだが、これはすごい。じっくり見ていくと恐らく始めはゲネブ大聖堂位の規模だったのだろうと分かる、そこにどんどんと増築を重ね、なんだかよくわからない位に新しい塔が植立されまくってる感じだ。


 まあ、侘び寂び的な味わいは無いが、こういうカオスな感じはまた好きだ。塔ごとに碑のようなものが付いており、それを見る限りチャペック大聖堂の大司教が新しく就任するたびに塔が1つ建てられる感じなのだろうか。土地は無限じゃないことを考えるとそのうち無理が来る気がするのだが……。 


「ウブロット共和国にもこういうのあるの?」

「……いやあ。共和国は歴史もそこまで古いわけじゃないからのう。それに侵略と独立を繰り返してきたような国じゃからな。もっとささやかもんじゃよ」

「だよなあ」



 作りというか、システム的なものはゲネブの大聖堂とあまり変わらない。聖堂の中に入り、脇の方にお守りや首飾りのようなものが売られている場所がある。そして、その脇に独立してスクロールが売られている場所がある。売り場で尋ねると現在の在庫のリストのようなものを見せてもらえる。ついでに効果があるかなと国王から貰ったナイフを見せると、貴族枠っぽいのを見せてもらえた。


「フリーズか……ちょっと良いかもな」


 フリーズは、氷魔法の基礎魔法だ。基礎魔法の中では雷魔法と同じくらいレアらしく、なかなか見当たらない。さすがだな。狩った獲物を凍らせて傷まないように出来るって考えれば即買いじゃないか?

 ……そう言えばフルリエは以前、炎使いのみつ子に対抗して氷を使いたいと言っていたことが有ったかもしれない……良い機会かもしれない。


「フルリエ、氷やってみる?」

「あら? 良いのですか? ショーゴさんも氷魔法使いたそうじゃないですか?」

「いやあ、フルリエが取らないなら俺でも良いんだけど。フルリエの魔法ってノイズとかラウドボイスとかミュートだっけ? 攻撃系が弱いだろ? まあ基礎魔法だからすぐに攻撃に転用出来るものでもないだろうけど……」


 そう、これから行く勇者の島での戦いに使えるかは時間的に微妙なところだ。


「ワシが教えてやるよ。妻が氷魔法の使い手じゃったからの、アドバイスくらいは出来ると思うんじゃ」


 お。魔法はアドバイスが有るのと無しでだいぶ違うって言うからな。



 それから、アンデッドに効きそうな魔法など無いかと思ったが、聖魔法は殆ど店頭に並ぶことはないし。難しいところだ。光も効くのかも知れないが、光魔法を持つ過去の勇者でも封印がやっとだという話を効くと、効力的な部分で疑問が出てしまう。


 ううむ……。


 横の売店で、聖職者から祝福をされたお守りのようなものが売っている。キリスト教徒が十字架を首から下げていたりするように、この世界の教会の信者がよく首から下げているの物があるのだが、それは丸の中に何本かの線が入ってる、そんな感じのデザインだ。縦に4本の線が、人間、エルフ、ドワーフ、獣人の神で、横の3本の線が死と再生の神、海の神、大地の神、そんな話だった気がする。流派によって線の入り方や本数が変わるらしいが、細かいことは知らない。


 売店を見ていると、その首飾りより横の木札の積まれている中にいくつか魔力のモヤのようなものが出ている物がある。


「これは……?」

「これは魔除けのお守りですね。家の玄関などに貼ることで厄災から守られるようになると言われております」

「ふうん……」


 木札を手にとって見ると、札にはこの世界の聖書の言葉のようなものが刻まれているようだ。しかし魔力が滲んでいる物と、そうでない物が混じっているが……これは刻んだ人の力量の差なのだろうか。とりあえず、魔力を強めに感じる木札を束の中から5枚選び買ってみることにする。アンデッドに効果が有れば良し、無ければまあ、そこまで高いものじゃないしな。


 てか完全に行く前提になってて悲しいや。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る