第19話 チソット先生
3層のボスのドロップ品を狙うために降りたのだが……奇しくも現場は裕也’Sブートキャンプが始まっている。
「魔力不足で弾かれる時に痺れるのは、右手が強すぎるからだぞ。叩き斬るんじゃない。引き斬るんだ。」
「左手なっ! 左手だろっ! フンッ!!」
荒くなった俺の戦い方が華麗じゃないとおっしゃる。やる気マックスの裕也が戦闘が終るごとに修正を求めて指摘してくる。
「裕也、腹減ったよお」
「ん? 確かにもうそんな時間か。階段なら魔物が湧かないからちょっと戻るか」
「かなりお昼オーバーしてると思うな、俺は。あんま遅くなるとエリシアさんも怒るんじゃないか?」
「ぬっ……そ、そうだな。ここで喰って狩りながら戻れば良い感じか」
確かにこのまま狩りをしながら今のペースで階段まで戻るとまた2時間くらいかかってしまうかもしれない。仕方なくここで弁当を食べることにした。飯はゆっくり食いたいものだが、元来早食いで鳴らした俺には関係ない。
食事中、一度だけ魔物に襲われた。
索敵で察知してるのだろう、やってくる前に裕也がよっこいしょと立ち上がり、まるで箒でゴミを掃いてくるかの要領で始末して戻ってくる。1分もかからない気がする……。
……
「俺もそこまで行けるのか?」
「行けるさ。言ったろ? この世界はびっくりするくらいゲーム的だと。ゲームを知らないこの世界の人間と比べ俺たちは要領よくレベリングすることも知ってる」
「でも何となくだけどさ、ステータスの数字が有るわけじゃないんだろうけどレベルアップ時の強化も人それぞれなんだろ?」
「感覚的に訓練してるヤツの方がレベルアップで強くなってくスピードは早い気がする。訓練してるほうがスキルが生える確率も上がるってのもあるが、スキル持ちってだけで普通の連中よりだいぶ差がでるんだ」
「レベルよりスキルの方が強化の恩恵は強いのか?」
「ああスキルはやっぱ影響がデカイな。ただ地の強さを倍化するようなスキルの場合、レベルが低ければそれだけ効果も薄いからな。ただ加護や祝福を持つ者は、そうでない者と比べスキルの発生が早いと思ってる、お前も祝福があるんだと思うぞ。既に2つも持ってる。転生して数日だぞ?」
「どっちも死ぬ間際のスキルだけどな……」
……うん、発生したスキルを見ると裕也がいかに俺を死地に追い込んでるかよく分かる。
そこからまた、ヒイヒイ言いながらダンジョンの出口に向かっていく。それでも3層に少し慣れたせいか、2層は割と楽に通過できた気がする。
1層で蹂躙をしていたドワーフ達は既に帰ったようで姿が見えず、ダンジョンの外に出る頃には少し暗くなっていた。焦ったように走り出す裕也に必死についていく。
そして今日も宿に戻るとすぐに風呂に入り。今日は宿の食堂で夕食をすませた。
「ほんとに??? 3層が出来てたの???」
「ああ、まだそんな話は聞いていなかったから多分誰も攻略していないんじゃないかな」
「お父さん、お願いっ明日僕も連れてってよぉ」
「うーん、お母さんが良いって言ったらな」
「何よ、そんな風に言われたら良いって言うしか無いじゃない。でも先生に明日も午前から行くって言っちゃったわよ?」
「ああ、じゃあ朝俺も行ってチソットに話しするわ」
「本当!? やったぁー」
……お。おおお! もしかしたら明日は楽かもしれない。ちっこいハヤトが一緒だもんな。
「省吾もそれでいいか?」
「もちろんだ、ハヤトがずっと行きたがってて可哀想だったしな!」
食後自分の部屋に戻った俺は、また魔法の探求をしようと思う。いや今日は気を失うこと無く眠りにつくぞ。しかし……<光源>と<ノイズ>だけしか無いからなあ……ん? 2つ有れば定番の複合魔法とか出来るのか???
……この2つの複合魔法とかイメージがつかねえ。
取り敢えず<光源>を出し、フラフラと頭上を回しながら悩む。
そう言えば魔法に魔法ってかかるんか?……よし
<ノイズ>
すると、光っていた光がピカピカと不安定に点滅している。
お? おおお~。かかってるぽくね?
……あれ? そう言えばノイズって広義で考えると雑音以外の事も言ってたかも。やべえ、なんか上手くやれば色々使えそうな気がしてきた。ジャミング的な使い方とかか。ちょっと裕也に相談してみるか……。
……いや……やつには黙っていよう。完成したあかつきには俺の才能に恐れ慄くが良い。
ふふふふふ
カラン♪ カラン♪ カラン♪
今日も教会の鐘の音で目を覚ます。
流石にちゃんと寝たせいか前日のようなけだるさは無い。起きて革鎧を装着しているとハヤトがやってきた。
ハヤトは起きて準備をしていたことにちょっと驚いていたが、一緒に食堂に降りていく。日本のホテルでもだいたい同じ様なものだろうが、ここの朝食はいつも同じだ。しかし料理人が毎朝焼くパンがなかなか旨くて飽きることはない。バターが無いのが寂しいが、オリーブオイルの様な物をトーストにかけて食べる。
食事をしながら、チソット先生について聞いた。チソットは元々上位の聖職者の家に生まれたため若い頃から回復魔法など仕込まれていずれは聖職者として活躍することを期待されていたようだ。しかし、当の本人は学者肌で聖職者としてより学者としての道を希望。親はそれを許さなかったのだが、最終的に魔法スクロールの再現を研究をしていたことが教会内で問題となり家から出たという話だった。
やっぱり教会的にはスクロールの再現は禁忌に近いんだろうな。
その後、若き頃の裕也達に誘われパーティーを組んでいたようだが、冒険中のメンバーの死でパーティーは解散。そのままこの村に居ついて今に至るという。
「じゃあ、エリシアさんも一緒に冒険していたんだ」
「そうね、先生は当時から冒険者向きの人じゃなかったわ、回復と支援魔法が優秀でねユーヤとジラールが強引に連れ出したのよ。当時から皆から先生ってよばれていたわ」
「ジラールって確か……」
「そう、ドワーフの。ユーヤの兄貴分でね、無茶するのが2人も居るから他のメンバーは大変だったわよ」
裕也がちょっと気まずそうに口を挟む。
「無茶するのはジラールくらいじゃなかったか? ナルダンもどちらかというと臆病だし」
「貴方以外に誰が居るのよ」
「お、おれか?」
まあわかる。よくわかる。大変だったんだろうなぁ
先日酒場で飲んだときの話だと、裕也が好き勝手するPTのまとめ役みたいな話だったが、話半分に聞いておいた方が良さそうだ。
どうせ狭い村だからまたすぐだろう思っていたが、チソットの塾は村の外れにあった為少し歩くことになる。やはり民家のような家なのだが、普通の家の3倍ほどの大きさがある立派な家だった。何でも街から住み込みで教わりに来るお弟子さんも居るとかで、下宿のスペースを作ったら大きくなってしまったらしい。
今も二人のお弟子さんが魔法言語の勉強に来ているとの事だった。
「おや、ユーヤさんお久しぶりですね。村に来てるならもっと早く顔を出してくれれば良いものを」
出迎えたチソットは。50歳前くらいの穏やかな雰囲気のする男だった。なるほど確かに学者肌の印象を裏切らない。魔術師然とした身なりで物腰も柔らかい。
通された部屋は12畳ほどの広めで壁に大きな黒板のある部屋だった。部屋には木のベンチやソファー等の不揃いの腰掛けるための家具が無造作に配置してあり、教室的な使い方をしてるのが解る。見るとソファーに一人の少年が寝ていた。
「ロスくん起きてください」
「ん……ああ、先生おはようさん。おっハヤト来たなっ!」
「ロスくんおはよう、でもね今日はお休みするの、お父さんたちとダンジョン行くんだっ!」
「まじかっ! 良いなあ。俺も行きてえなあ!」
どうやらハヤトにも友達は居るみたいで安心するな。
祐也が鉱山ダンジョンに3層が出来ていた話をすると、チソットは興味深そうに聞いていた。そのうちダンジョンの成長についての調査をしたいですねと言っている。根っからの研究者のようだ。ロスも行きたいと訴えていたが、親御さんからお預かりしているあなたを危険なところにいくのは許可できないとバッサリやられてた。
ハヤトをよろしくなと、のど飴をあげるとロスはうめえ! うめえ! と言いながらバリバリと噛み砕いていた……。
まあ……味わい方は人それぞれだ。
ハヤトとロスが楽しそうに話をしてるのを聞きながら、裕也達の話が終わるのをまつ。
ダンジョンに行く話で済むかと思っていたが、裕也夫婦とチソットさんがコソコソと話を続けていた。なんとなく王立学院の試験の勉強について聞いているようだった。やはり親は息子の将来のことは常に気にかけるものなんだろうな。
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