第20話 ハヤト出ます。
話が済むとようやくダンジョンに向かう。ハヤトが陽気に先頭を歩いている。
微笑ましい姿に癒やされながら3人がついていく。
今日はまず最初に3層を攻略をしてしまおうと言うことで、ダンジョンは俺とハヤトの二人で戦いながら進むことになった。やはりというか、2人で戦うと言うことの優位性をすごく感じてしまう。ある程度慣れた昨日の戻りの感覚で2時間程だったところを、1時間もかからずに2層の最深部までたどり着いてしまうのだ。
「あんまり変わらないねえ」
3層につくとハヤトは昨日の俺と同じような反応をしてた。やっぱり新しいところは誰だって期待するよな。ダンジョンで下層に行くと突然草原の広がる空間だったり、全然脈絡のない世界が広がるのが定番なだけに。
うん、ロマンが足りないんじゃないか?
まあ、ここまで来るまでにハヤトとの実力差をだいぶ思い知らされたので何気に凹んでるんだ。どんどんハヤトが魔物を始末していってしまうので、負けるかと少し慌て気味になってしまうのもあるんだが。瞬間的に剣に魔法を送ると言うのがなかなかうまく行かず、何度も弾かれる。それだけならまだしも、そのたびにハヤトが短剣でとどめを刺していく。
「う~ん、って感じじゃなくてフンッって感じに貯めると良いよっ!」
健気にアドバイスしてくれる優しさが更に心をえぐる。
でもまあ、フンッだなっ! フンッ! でやってみる。
「3層からは、ストーンドールとロックドールも出てくるんだ」
おっと。俺の時とは違ってハヤトに3層についてのアドバイスをしてる。今までの話聞いてた感じだとハヤトにもスパルタで行くタイプだと思ってたんだが……いや、当然だハヤトは11歳だぜ。うん……まあ、俺はこの世界数日歳だけどな……。
そんな俺の気持ちが顔に出ていたのか。裕也がそっと近づいてきて囁いた。
(エリシアがいるからな、あまり厳しくすると殺される。)
わお……すげー説得力だ。
「いたよっ! よし、おっさき~」
<索敵>は持っていないらしいが<気配察知>を持つハヤトは俺より敵に気がつくのが早い。3層での初戦闘はテンションアゲアゲのハヤトが仕掛けた。
ハヤトの戦い方は基本剣での攻撃になるが、生誕時より持っていたという風魔法で自分の動きをブーストさせたり、風圧で相手の動きを牽制したりとテクニカルだ。風魔法を体にまとうように使うことで空気のクッションを作り防御力も増せるらしい。
攻撃魔法の<ウインドカッター>は岩石系の魔物にダメージを与えるには貫通力が足りないらしいが、ロックリザードなら<ウインド>の風圧で簡単に体を浮かせられる、柔らかい腹が見えれば<ウインドカッター>で容易く仕留めている。
「ここしばらく狩りに連れて行かなかったからかしら……」
「ううむ、戦闘感が少し鈍ってるな」
「たまにはどこかに連れてった方が良いわね」
え……まじで何が減点対象かわからんのだけど。
何やら夫婦がハヤトの戦い方をみて気になってるようだ。
「そうか? ちゃんと戦えてるんじゃね?」
「MPは無限にあるわけじゃないんだ、この程度の相手に魔法を乱用しすぎだな」
「そうね、リザードに2つの魔法使うなんて」
「見てみろ、相手の攻撃を避けてから攻撃への転換がもたつくだろ?」
「避け方が大きすぎなのよね」
おいおい……。
エリシアさんも相当強そうだしな……天弓って言われてたんだっけ。
あ、そう言えば気になってたことがあるんだ。
「こういう岩の塊みたいなよくわからない魔物って弓使いはナイフとかで戦うんですか?」
エリシアさんは一瞬キョトンとするが、俺の疑問の意味に思い当たったらしく、あ~と笑う。
「弓の攻撃も色々有るのよ、点でしか攻撃できないわけじゃないのよ?」
「エリシア、ちょっと見せてやったらどうだ?」
ハヤトが魔物の殲滅をして帰ってくると、次のグループはエリシアさんがやって見せてくれるという事になった。エリシアさんは自分のマジックバッグから矢筒を2つ取り出して背中に背負い、弓を左手に歩き出す。
「矢の方にも種類があるんですね」
「そういう事」
しばらく進むと魔物の気配を感じたのか歩みがゆっくりになる。一方の矢筒から先が三つに分かれた様な矢を一本取り出し構える。そのまま3歩。すすっと前に出ると。
ドゴォォン!
そして流れるように横に動きながら更に2連。
ドゴォゴォォン!
……ロックドールらの胸にでっかい穴が空いている。やべえ……ん?
岩壁にロックリザードが射抜かれ貼り付けになっているのに気がつく。
おおう……トカゲまで居たのか、気が付かなかった。それで矢筒2つ出したのか。しかも射ったのまったく気が付かなかったし……。やべえぞ。
弓矢をしまいながらエリシアさんが声をかけてくる。
「ね? 行けるでしょ?」
「け、結構なお点前で……」
隣で見ていた裕也がボソッと呟く。
「矢速をあまり早くすると衝撃波が出てブレる気がするから少し遅く調節してるらしいぞ」
「まじか……それってソニックブームじゃねえの???」
て……天弓ってやつですね。まさに。
しばし呆然と佇む。
「省吾?」
「ん?」
「お前は行かないのか?」
「次から行かさせて頂きます」
さあ。頑張ってレベル上げますよ。今の俺に出来ることはそれだけだ。
今の課題の瞬間的な魔力注入の練習のために俺がストーンドールを、周りを押さえている間にハヤトがロックドールを狙う。初めは無理だろうと思った急速注入も続けていくとなんとかなるもので、段々成功率は上がっていく……のだが……問題が発生していた。
フンッ グォオン!
フンッ ガツィイン!
フンッ グォオン!
「……いや良くなっているんだがな。いちいち変顔でフンッって唸るの辞めない?」
鬼の形相で魔力注入をするふんばり顔と、俺の鼻息がどうやら華麗じゃないらしい。
だが、もはやこれをしないと、旨く注入できない。
フンッ グォオン!
フンッ グォオン!
ハヤトも気が付き、ケタケタ笑う。やっぱオカシイ顔してるのか?
な……治るのか?
そして2時間弱程の時間で3層の最深部までたどり着いた。
2層と同じで特にボス部屋がある感じでなく、広いドーム状の空間が広がっている。外からそっと覗くと、今まで見たことの無いデカイ石の人間型の魔物とその周りに三体のロックドールがウロウロしていた。俺もようやくストーンドールとロックドールの違いが解りだしてきたんだ。
「この層もストーンゴーレムだな。2層には取り巻きは居なかったが」
「2層のよりちょっと強くなってるかな? お父ちゃん行っていい?」
「ドロップは省吾が使えそうなら省吾優先だぞ?」
「うん、OKだよ。お兄ちゃん、ゴーレム僕が行っていい? ドールの方任せても?」
「え、ロックドール3体も俺いけるか?」
軽くハヤトと打ち合わせをする。裕也達はニヤニヤしながらそれを聞いている。
よし、覚悟は決まった。うなずくように合図を送るとハヤトは嬉しそうに中に入っていった。
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