第28話 裕也の工作
次の日、裕也が「雲の形が気にいらねえ」みたいな事をいう映画監督さながらに、俺の頭囲を計って帽子を作り出した。あれ。手甲は?
「こういうときのお父ちゃんはそっとしておいた方が良いよ」
と、ハヤトが言うんだ。
帽子はひさしのない、頭にジャストサイズのニット帽みたいなデザインで、ふちが二重で厚くなってたりする。素材も例によってワイバーンの革だけに魔力を通せば普通にヘルメット代わりになる。黒髪も目立たなくすれば変なトラブルも減るという心遣い。
被ってみるとなんとなくハンターっぽい?
その次の日も、なぜか手甲を作らない。「鎧をよこせ。」と言われて渡すと、トライデントスコーピオンの甲殻を切り貼りして肩当の部分とかを補強している。
まあ、楽しそうでいいんだけど。
防御強くなりそうでいいんだけど。
茶の革の色ばっかだったからアクセント付いていいんだけど。
手甲は?
次の日……
今日も巨匠裕也は手甲を作ってない。
鍛冶場でカンカンと細い棒のようなものを作ってる。先を曲げて……ペグか?それを何本か作っていた。
その後、木を削りだす。樫の木のようにだいぶ硬めの木を細く長く削り出していく。手招きして呼ばれると、俺の次元鞄にどの深さまで入れられるか確かめている。剣が余裕で入るからもうちょっと長くてもいけそうか。鞄に出し入れしながら1.5mくらいの棒を1本しあげる。
まさか……
次は薄めのフェルトのような生地を切り貼りしている。縫い合わせたところとか要所要所をフォレストボアの革で補強して、ロープをコーナーなどに付けて行く。
そう。まさかのワンポールテント。そっか、街までの道中に野営するからなあ……エリシアさんと別のテントに寝ろって話だろうな。裕也だし。
だんだん、裕也が何を作るか楽しみになってきている。
次の日の朝、また裕也に次元鞄を見せてくれと言われる。今日は残念ながら俺のじゃないといわれる。ちょっと残念。だが気になって見てると、村の雑貨屋で俺が買うときにあったもう一つの次元鞄を取り出した。
「あれ? それ雑貨屋にあった次元鞄?」
「ああ、お前の次元鞄の肩掛け見てハヤトが同じようなのを欲しがったらしくて、あの後エリシアが買ったんだ。これをショルダータイプにしようと思ってな」
「おお、まあ俺はファッションリーダーとしてのセンス抜群だからな」
フンと裕也は鼻で笑う。相変わらず失礼な男さ。
嬉しそうなハヤトのサイズを測ると、ハヤトの次元鞄の肩掛け用への改造を始めた。
「お兄ちゃん。おそろいだねっ!」
完成した次元鞄のワンショルダーバッグバージョンを身に着けハヤトがはしゃいでいる。
段々ハヤトが本当の弟のように可愛くなってくる。甥っ子か?
「しっかし、この次元鞄ってのはすげえな。一杯になっても他の次元鞄に入れていけば永遠に収納できそうじゃね?」
「それだがな、次元鞄の中に別の次元鞄を入れることは出来るんだが、次元同士の空間が干渉しちまうのか、中に入れた次元鞄の空間が圧縮されて普通の容量サイズまで押しつぶされちまうんだ。分子レベルで圧縮されるのかもう元に戻せなくなる。気をつけろよ」
「そんな上手くいかないってわけか」
そうなるとやっぱ裕也のみたいなマジックバッグが価値を持つんだな。
うん……そうなると?
「じゃあ、金属とか入れると圧縮されてすげー密度の素材とか出来るかな?」
「……」
「ん? どした?」
「いやその発想は無かったな……省吾さ、たまにすげー突拍子も無いひらめきするな」
「ふふふ、天才かもしれんな。俺。トレインドールズを考え出したときも思ったがな」
「トレインドールズ??? なんだそりゃ?」
ちょっと自慢げに話してしまったんですがね。
ええ。そりゃあもう、超怒られました。正座させられました。
なんでもトレインに人を巻き込んだりすると場合によっては殺人罪まで問われることがあるという……人の居ないダンジョンだからよかったものの。という話だ。ダンジョンマナーとしては絶対やってはいけないらしい。
大事な話だ。
裕也の小屋での日々は、制作を眺めるだけでは無い。エリシアさんから弓の扱い方を習った。裕也は午後になると街に納品する用のわりと本気モードの剣を打つと言うので。邪魔しないようにと別行動ということで、弓の時間になる。
「やったー 僕の勝ちだねっ!」
当たり前だが。ハヤトとの的当て勝負には全然勝てない。昔ダーツを遊んだ記憶から、501というゲームを教えたらハヤトがかなりハマって何度も対戦をせがんでくる。501というのは順番に3射づつ撃ち合い、当たった的の点数を501から順に引いていって、最終的に0ぴったりに終わらせると言うゲームだ。
ボアの革に始め1から20の文字を書いてやったんだが、しばらく使っているとすぐボロボロになってしまう。
何度も書くのが面倒になり、もうちょっと簡単にしようかとハヤトと相談して、結果、大雑把に縦、横、斜めの4本線を書き、1から8点に2倍3倍のラインを書き。真ん中のブルズアイはインブルを無くし、単純に25点とした。501だと時間がかかるため、301で遊ぶ。ハンデとしてハヤトはマスターアウトのルールを適用させてもらった。マスターアウトは最後の上がりの1射はブルズアイか各数字のダブル、トリプルの所に当たらないと上がれないと言うやつだ。
リバーシでいつもボコボコにされている鬱憤を晴らすつもりなのかハヤトは超真剣モードだ。まあ、俺は大人だからそんなハヤトを優しく見つめてやる……つもりだったが。勝負事はついムキになってしまう。
「キー そっちの弓の方が良いやつなんじゃね??? ちょっと交換だっ!」
「弓の差じゃないよー、腕の差だよ?」
「ムキー!!! いいから交換してもう一回! もう一回だっ!」
プライドも何もかもかなぐり捨てても、全然勝てねえ。
ちなみにエリシアさんは普通にノーミスでやってくるので、お話にならない。
ワイワイと楽しそうにやってると、裕也が気になって様子を見に来るもんだから、一度やらしせてみたらエリシアさんほどじゃないがほとんど外さない。鍛冶チートと言うことで器用さが高いからと言うのもあるのかもしれないが、ちょっと勝負にならない感じで勝負は避けた。
それでも遊びながらの訓練は中々楽しく遊べて、それなりに使えそうなくらいにはなった……とは思うが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます