第75話 フェニードハント 1
ピートたちの食事が済むのを待ってギルドに行く。
店を出る時にオヤジがフェニードの処理について講釈を垂れてきた。まあ血抜きとかの話だが、これをやるのとやらないのじゃ味が全然変わるらしいのでしっかりやれと。
礼を言って店を出た。
ギルドに行くと、当然のようにピート達は青髪の……シシリーさんの列にならぶ。特にルベントがご執心らしい。負けねえよ? て何がだ。
「ショーゴさんも参加するんですね。臨時パーティーはこれで受付完了です。ただ、もう既に何パーティーかが向かっていますので頑張ってくださいね。捕れすぎた場合は全部を受付できる訳ではないので」
なるほど。競争になるのか。弓師を追加したい気分はわかるぜ。
大猟の場合は受付できない場合もあるというが、フェニード自体はそこそこ高く売れるので捕れれば赤字にはならないという。しかし、そこまで多く捕れることは恐らく無いだろうということだった。
携帯の氷室はあるか? と聞かれ。無いと言うと少し離れた所に貸し出し倉庫があるのでそちらで借りてこいと言われる。賃料を支払い、引換証を受け取って倉庫に向かう。
倉庫は、ギルドから少し城壁側に近い部分にあり、入り口で引換証を見せると中に通される。中には大きい荷車や、捕獲用と思われる網、武具まで並んでいた。
「たまに壊す奴がいるが、なるべく壊さんでくれよ。まあ冒険は荒事だからなもし壊れたらここの魔法陣が刻んであるコアだけは持ち帰ってくれば追加料金は発生しねえ。良く覚えときな」
渡された携帯用の氷室は、携帯とは名ばかりのデカイ箱だった。背負子の様に背負えるのだがなかなかの大きさだ。高さで言えば1m以上あるんじゃねえか? 木の枠に何かの魔物の皮が全体に貼ってあり、隅は和箪笥の角に付いている金具みたいなのが打ち付けてある。
ピート達に聞くと一応順番で背負っていくと言われた。じゃんけんで負けたやつが……とかやったら盛り上がりそうだな。
氷室の受け取りを終わらせると、明日の集合場所と時間を打ち合わせ解散した。
家に戻ると、旅の準備を始める。
弓はたまに鳥を捕りに出かける時に使っていたのだが、回収損なったりで若干矢が減っている。補充しに行くか。後は行動食的なものを……。
例の弓矢店に行くと、早速おすすめの矢を聞いてみる。前回と違って少しお金に余裕があるのでちょっと良い矢があればそういうのでもいいかもしれない。以前エリシアさんが使っていた様な三叉のやつとかカッコいいよな。
「ん? 何を狩りに行くんだ?」
「確かフェニードって言ってましたね。どんなのか良くわからないんですが」
「良く分からないで行くやつがあるのか?」
「あはは。実はいまさっき弓師が欲しいって誘われた所でして……」
「ふん。なるほどな。まあ天弓の弟子なら問題ないだろう」
あちゃあ。まだ天弓の弟子になってるわ。
フェニードを狩るのは、目的として貴族などのお祝いの席なので、なるべく傷が小さくなる方が良いらしい。フェニードは住んでる場所が山間部の行きにくい場所で、かつ数が少ない魔物のためレアな魔物だという。しかし強さ自体はそこまででなくDランクの冒険者であれば十分狩れるということだった。
それを総合すると、俺の持ってる普通の矢で十分らしい。それでも、もう少し傷が小さくなった方が喜ばれるのかもしれないと、もうちょっと鏃の小さいのにしておけと言われる。予備の矢筒はあるか? と聞かれ、一つしか無いと答えると矢筒に満タンに詰め込んで渡された。以前の矢筒より若干小ぶりで10本ほど入っているか。
一応今までの矢筒にも今までと同じような矢を補充しておいた。一応ちょっと良いものがあれば、と言うと少し硬い木で作った重めの矢を渡される。重さは威力に直結するとの事でちょっと嬉しいかも。ただ、重さの違う矢が交じると精度が不安定になるかもしれないと、それも新しい矢筒と一緒に購入。これは最初の矢筒と同じ20本くらい入る筒だった。なんだか矢筒ばかり増えていく。古いのは狩り用に置いていくか。
まあでも、これで矢は大丈夫か。
その後、食材とドライフルーツやナッツ類を買い。とりあえず準備は完了する。
久々の旅に少し気分が盛り上がってきてるんだ。
目覚しでバッチリ起きた俺は、すぐに着替えをして東門に向かう。
年中温かいゲネブでは、冬でも農家は収穫がある。西門程多くはないものの、日の出の時間にはそこそこ農家の依頼を受ける冒険者やスラムの子供たちが集まって雑踏を形成していた。キョロキョロしていると声をかけられる。
「おーい。こっちだ。こっち」
ピート達は既に4人集まっていた。いや。スラムで一緒に暮らしているのかもしれない。リンク達みたいに。メンバーはピート、ルベントがDランク。パンクとデーブがピートより年下でEランクだ。ピートの腰にはいつぞやのアジルの派手な次元鞄がついていた。
そしてパンクとデーブは弓を持っていた。「あれ? 弓使えるんじゃん」と聞くと。スラムの子供たちは自分たちの食料を得るために皆、狩りはするんだと言われた。それでも専門じゃないので弓も自分たちで作ったような物らしく、あまり遠くの獲物だと精度も威力も微妙なんだと言われる。
旅程としては、ゲネブからカポの集落まで半日。俺の行ったことのあるのはここまでだ。そこから半日でルル村に着く。そこから更に3日程で山の麓にあるスス村に、そのスス村を拠点に山を探索するという。
ただ、それは荷馬車などの徒歩での行程だ。元々はルル村も素通りして一泊野宿の2日でスス村まで行く予定だったらしい。
予定だった。というのは氷室だ。そこそこの重量のある物を背負うのでもしかしたら予定通りには行かないかもしれない。とりあえず一時間交代で氷室を回しながら一日目で行けるところまで行ってみようという話になった。
「ついてこれるのか? Gランク」
お、ピートが挑戦的な目で煽ってきやがる。
「問題ないさ。もしお前らの体力じゃ氷室が大変だったら俺が道中ずっと持っててやろうかって思ってたくらいだ」
「ほう、言うじゃねえか。じゃあ一番目はショーゴに持ってもらうか。辛くなったら言うんだぞ」
「はん。こんな箱。軽すぎて何の負担もならねえよ」
「ほう。30分は保ってほしいものだな」
「おいおい。誰に言ってるんだ? ピートこそ疲れたら言えよ。箱の中に入れて運んでやるから」
「はいはい。そこまで」
ルベントがため息を付きながら割って入ってくる。
うん。いや。俺は大人だからな。そういうノリだっただけだ。
ほんとだぞ。
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