第三章 ゲネブの省吾 ~独立編~

第74話 フェニードハント 0

 ゲネブの街に黒い旗が立ち並び、一様に風に吹かれ同じ方向にはためいている。

 街を歩く人々の中には腕に黒い喪章をつけている者も多い。特に店の店員などはほぼ全員が喪章をつけての営業となる。街全体から陰気な雰囲気が漂っていた。



 ――新暦3121年 6月7日 パテック王国国王 ゴンドール4世崩御――



 その知らせが街に伝わり。街全体が喪に服していた。


 6月となれば季節は冬。しかし大陸の南に位置するゲネブではそれほどの寒さは感じない。スラムの辺りでは喪に服すものは少ないが、中央通りをはじめ、商店街では赤を使った看板等も黒い幕で隠されている。



 そんな中、俺は行きつけとなったジロー屋「カネシ」でジローを啜っていた。


「それにしても、国王の崩御から3日で情報が伝わるなんてどうやるんだろ」

「そりゃ、宮廷にはテイマーもいるからな。飛ぶ魔物を使って知らせを伝えれば2日か3日という時間で連絡は届けられるんじゃねえか?」

「なるほど、テイマーか。てっきり魔道具か何かでメッセージを送れるのかと思ってた」

「200年ほど前くらいまでは、それもあったんだがな。それが壊れてからはもっぱらテイマーがその仕事をやっている」


 俺の質問に的確に答えてくるのは、腕に喪章をつけたジロー屋のオヤジだった。


「オヤジ……妙に詳しいな?」

「ん? 俺は店を始めるまでは、領主の館で料理長をしてたからな」

「ブッ……まじすか???」

「そうでもなくちゃ、これだけジローの資料なんて集められねえよ」


 オヤジ。なかなかに只者じゃなかったようだ。

 だいぶ行きつけて、ちょっとづつ敬語からタメ語に換えていたが。ミスったか。


「今日は仕事しねえのか?」

「う~ん、朝に掲示は見てきたんだけど、目ぼしいのがなくて」

「そうか」


 俺が連日の依頼などの時に指名依頼を頼みまくっているのが段々と冒険者や依頼者に広まり、最近は二日目以降指名を貰って依頼をこなすパターンが増えていた。依頼者のほうも指名することで高確率で働き手を得れるし、冒険者も収入が増える。まさにウィンウィンな関係であり、広まるのは当然ともいえる。


 そして、その指名依頼の増加によって。うまい仕事が掲示される率も下がる。特に国王の崩御によっての依頼の減少もある気がするんだ。



 それと、指名依頼の増加によりギルドの受け取る手数料も減るわけだから、ギルド自体の収入も減るのも確かで、ギルド長の俺に対するイメージもマイナスに作用するはずだ。俺は毎日のように依頼をこなしていたが、いまだにGランク。実際そろそろ見切りをつけないといけない気もしてきている。


 今は、ランクを上ることより依頼をこなしながら仕事の引き出しを増やすのと、もしもの時のために顔を売っていく事を意識している。


 幸い黒目黒髪は目立つ。大抵が一発で覚えていく。それに、「スパズが来たのか」というマイナスイメージからのスタートで最高の仕事をするところを見せればグーンと評価はうなぎのぼり。ヤンキーが善行をする事で、行動以上の評価をもらえるのと同じ現象が起きてるに違いないと。勝手に想定している。



 食後カウンターでウダウダしていると、店に入ってくる客の影が見えた。


「――とに旨いんだぜ。ここだ。ここ」


 声とともに入ってきたのはピート達だった。俺の顔を見て少し顔を強張らす。


「なんだ。ショーゴじゃねえか」

「おう、ピートじゃん。こんな所で会うなんて珍しいな」

「たく、依頼も受けないでこんな所でぐだぐだ昼飯食ってるからランクが上がらないんだよ」

「ランクが上がらないから、こんな所でぐだぐだしてるんだよ」


 親父がジロリとコチラを見る。


「こんな所で悪かったな」


 おっとやべえ。



 ゴブリンの巣穴の件以来、ピートとは問題なくやってる。と言ってもお互いまだスッキリした仲ではないが、とりあえず挨拶はするようにしていた。ピートの方も少しは返事を返すようになっては来ているんだ。


 店はカウンターのみの作りなので、少し離れた所に4人は並んで座り注文をしている。ふむ。まだまだコールが素人だな。

 ※コールは注文するときのトッピング等の仕方


 店の親父はぶっきらぼうな口調の癖に「ニンニク入れますか?」と聞く時にだけ丁寧語になる。一度突っ込んだのだが、これはそういう決まりなんだと頑なに貫いている。


 麺を茹でるのを眺めてくると、ピートの仲間の1人、ルベントが話しかけてきた。


「ショーゴ。お前一週間くらい空いてないか?」

「お、おい。ルベ!」


 ピートが焦ったように制止する。なんだ?


「フェニードの採取依頼が出ててな。受けようとしたんだが弓使いが欲しくてな」

「ん? フェニード?」

「ほらみろ! こいつフェニードすら知らないだろ!?」


 ピートがほれ見ろと言わんばかりに口を挟んでくる。

 話を聞いていたオヤジが、お? と言う顔で説明してくれる。


「フェニードは、伝説にあるフェニックスに似てる鳥と言われててな。フェニックスは永遠を意味すると言うことで、めでたい席に食材として使われることがある。今の時期だ。次期王の戴冠式のパーティーあたりに使いたいのだろう」


 ほうほう。そういうことか。


「いいよ。時間なら全然あいてる。しかしよく俺が弓を使うって知ってたな?」

「シシリーちゃんがお前を勧めたんだ。ホーンドサーペントもやったんだろ?」

「シシリー?」

「え? お前まじか??? ギルドの受付の美人だぞ? 青髪の……まさか……名前知らなかったのか?」


 ルベントが驚愕する。

 なに? 知らないのは俺だけか? 

 俺も驚愕だわ。


 そうか。シシリーちゃんか。ふうん……シシリー……いい名前じゃないか。


 しかし、シシリーは俺のことを褒めて勧めたというより「最近ショーゴが腐ってるようだから誘ってあげては?」みたいな感じだったらしい。


 ううむ。態度に出てたか?


 出てたかもなあ。


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