第260話 ビョークの街
それから10日、いや。実際みつ子がが少しレベルアップまで足掻いたため、2日ほどオーバーして王都まで帰ってきた。予定より遅れたため怒られるかとも思ったが、他の同行者達の準備も少し遅れたようで何も言われなかった。
と言っても、代表に選ばれたネライ子爵などは既に向かっているらしい。俺たちがハーレーに乗って走っていけば全然間に合うというのを見込んでの計算らしいが。急ぎハヤトと共に王都を出発した。
ハヤトはドラゴン騎乗をずっと楽しみにしていたのか始終ハーレーの背中で楽しそうにしている。ジンも学院時代の先輩と一緒ということでハヤトとの会話も盛り上がっていた。
「でも、ロス先輩もチソット先生がまさか王都に来るとは思ってなかったでしょうね」
「魔総研でいきなり上司が先生だもんな。子供の頃の延長みたいだってボヤいていたよ」
どうやらジンもチソット先生の塾にはお世話になっていたらしい。その先輩のロスが学院の主席で卒業し、魔総研勤務になったというのは驚きだが。今じゃチソット先生の下で龍脈電話の仕事ををやっているという。縁というのは面白い。
覚えてるだろうか。ロスはハヤトと同い年の少年で、以前ハヤトがチソットの塾に通っているときに、チソットの家に下宿して勉強していた少年だ。ちなみに姉のベルは、ゲネブのジロー屋のオヤジの弟子として、今ではテンイチの専門店を開業し、大繁盛させている。
今回は同行者のハヤトもそれなりにレベルも高い為、これまでよりハーレーのスピードも上げていく。時間短縮のために村や集落はタイミングが合えば食事に寄るくらいで、俺達は一気にビョークの街に向かった。
「うんうん、乗り心地は少し粗いけど、このスピードをこの人数乗せて走れるってやっぱすごいね。僕もドラゴンの言葉がわかれば良かったんだけど」
「ああ、でもまあ。こいつまだガキだぜ。喋れたって大した会話に成らねえよ」
「モーザぁ! ショーゴがまた俺の悪口言ってるど!」
「ああ、ゴメンなハーレー。ほら。ジョークってやつだよ。な? 解るだろ? 大人なら」
「あう? やっぱりジョークだったか。知ってたど。うん。大丈夫だ」
「さすがはハーレーだ!」
「でっへん!」
何やら偉そうにしているハーレーに小さくなるように言い、俺達はビョークの街に入っていく。
ビョークの街は海沿いと言うことだが、ゲネブも西門から外周を歩いていけば程なく海まで行く。ただ、龍脈溜りの位置としてはゲネブより更に海に近く港町といった雰囲気が強していた。
「で、どうすればいいんだ?」
ハヤトに聞くと、とりあえずハヤトは領主の館に顔を出すという。恐らく先についている他の乗組員が準備をさせていると思うということで、明日、明後日には出航になるだろう。それまでゆっくりしてくれと言われる。
俺たちは定番のラモーンホテルにチェックインし、皆で街に繰り出す。ホテルの受付で聞くとやはり魚介系の料理がおすすめらしい。
「龍脈溜りが海の方まで在るんだってな」
「だから港の整備も楽なんだろう? すげえな。オレたちの使う船ってどれだろう」
夕食をとるには少し時間が早かったため、散歩がてら港の方に行ってみる。港には確かに軍船と思われる王国国旗が掲げられた船はあるが、漁船もだいぶ多い。と言うか漁船がほとんどだろう。日本のヨットハーバーの様にレジャー用の船なんてこの世界じゃ無さそうな気がする。
まあ、軍船といってもこの世界で大砲を見たことが無いため、良くイメージされる船の横に大砲が並んでいるような物は見かけない。客船と言われればそう見えなくもないくらいだ。
港をブラブラしていると、一つの大きな船にどんどんと荷物を積み込んでいる船があった。船のことは詳しくないがガレオン船とか言うのだろうか、大きの柱が3本ほど立っており、そこに帆がたたまれて付いている。船に荷を積んでいるのは港を見る限りこれくらいだ。恐らくこの船なのだろうと近づいていく。
近づいていくと作業の監視をしているようなツバ広の帽子をかぶったおっさんが俺たちに気が付き、声を掛けてくる。すげえ濁声だ。
「ん? おめえら何だ? この船は国王管轄の軍船だぞ? 関係者以外接近禁止だ」
「あ~。ちょっと遠くの島に行くのに陛下から依頼を受けた者なんですが、準備をしているのがこの船だけだったので、これで行くのかなあって思って」
「お? そうか、おめえらが竜騎士とその仲間たちか。そうだ。俺がこの船の船長を任されているクックだ。よろしくな」
「クック……キャプテン・クック???」
「はっはっは。そうだ。知ってたか? 俺も有名になっちまったなあ」
「あ、はあ……」
やべえ。知らないけど地球で聞いたことのある名前だったから思わず反応しちまったぜ。ここは知っている体で行くしかねえな。
クック船長は自慢げに船の説明を始める。正直何がすごいかとかよくわからないのだが俺たちはフンフンとおとなしく説明を受ける。なんでも単なる帆船かと思ってたが魔総研の開発した最新式の推進魔道具が付いているらしく、風がなくてもぐんぐん進んでいけると嬉しそうに自慢している。
積んでいる荷物を見ていたら、なぜか大量のジャムが運び入れられている。なんか、マーマレードだけでペルーからイギリスまで旅をした伝説の熊を思い出すが、聞いてみると今回案内してくれるメイセスが準備をするように言ったらしい。
「省吾君、それってやっぱり壊血病対策なのかな?」
「あー。ジャムは加熱しているからビタミンは大分壊れているよな。当然過去の勇者も壊血病を知って子孫に伝えたけど、少し劣化した情報って事かな」
「だねえ。そんな長い航海とかちょっと憂鬱になるけどね。果実のジュースとかも凍らせて持ち込んだほうが少し安心かもね。まあでもいろいろ対策はしてそうね」
「うん……」
なんか、今回の依頼の話をしてからみつ子が少しテンション下げ気味で、レベル上げとかに必死になってたりしていたのが気になっていたんだが。ちょっと旅に対して前向きな発言をしてくれたのは嬉しいかもしれない。みつ子が嫌がるのを無理やりというのも嫌だしな。
食事にいくというと、船長におすすめの店があると強く勧めてくる。その店は、なんていうか炉端焼きの様な料理を出してくる店で、たしかに美味い。老人と言っても良い年代の店主がバーベキューの様に炭で魚介類を焼き、焼けた料理を長いしゃもじの様な物に乗せて俺たちの座る場所に配ってくれる。何処かで見たような風景だ。
俺たちはご当地グルメとご当地エールに舌鼓を打つ。流石にここまでビールは広まっていないが、エールを冷やす文化は徐々に届いているようだ。冷たいエールはちょっとうれしかった。
翌日、朝食時にハヤトが顔を出し、出発は明日だと言われる。どんどん話が進み落ち着かないがしょうがない。船に乗ってしまえば後はぼーっと暇な日を過ごすことになるのだろうしな。
この日も特に予定がなく街をぶらり散歩をして楽しむ。
この街では随分前から造船業も盛んであり、この街の2大造船所である「キー工房」と「ボール工房」を覗く。キー工房はかつて勇者が頼んだ勇者がこの国を逃げ出す時に使った巨大船を作り上げた実績もあるらしい。そのため国からはやや疎まれているのか、漁船を専門につくっている。軍船はボール工房の仕事らしい。
ただ、この世界じゃ殆ど海戦のようなものが無いらしく、精々海賊対策的な物が多いらしい。そのため軍船と言っても国の軍隊で所持している船と言うくらいの感じなのかも知れない。
そんな説明をハヤトに説明を受けながら、でかい造船工房のドックで多くの職人が船を作っているのを見ながら未知の文化を堪能した。
その後、ハヤトに壊血病とジャムの話をし、果実を絞ったジュースを急ぎ集め、船の氷室に一緒に保存するように頼んでおいた。
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