第261話 出航

 出発の日、初めて今回の代表の貴族と顔を合わせる。


「初めまして、ルミノールと申します。」

「いやいや。ご丁寧に。初めまして、省吾と申します。今回はよろしくお願いいたします」


 貴族というから結構警戒していたのだが、会ってみると気さくな感じの女性の貴族だった。貴族というより司書でもやってそうな感じの女性だ。ハヤトに聞くとハヤトの二つ上の王立学園の先輩らしい。学院時代から優秀で有名だったようで、学院卒業後もそのまま国の役所で働いていたという。


 勇者とは色々あった過去から女性の外交官の方が具合が良さそうだとか、そんな計算もあるのだろうか。そして教会からは大体30歳くらいだろうか、スラっとしたイケメンの司祭がやってきた。教会の人たちにしては、なんと言うか血の匂いのする武闘派といった雰囲気の男だ。


 ……まさか。エクソシスト? うーん。アンデッドが居るという情報があればそれに対応した人が来てもおかしくない。なんとなくちょっと頼りがいがありそうだ。


 それから、外交官の護衛なのだろう。2人の騎士が付いてきていた。2人とも20歳前後といった感じでだいぶ若い。マーフとカミラと名乗る。おそらくカミラはルミノールに合わせて女性の騎士を選んだのだろう。そして、魔術師として中年の髭面のおっさんが1人、ナバロと名乗った。


 大きい船と言っても今回の船旅では、そこまで贅沢に部屋割りが出来る感じではない。船の乗務員も居るわけだし当然か。個室を持てるのは船長だけだ。王国の代表のルミノールですら個室は与えられず、女子部屋ということで、ルミノール、カミラ、みつ子、フルリエの4人で一部屋を使うことになる。

 まあ、そういう部屋割りでも文句を言わないタイプを選んだのかもしれないな。


 ハヤトは、司祭のプレジウソ、騎士団のナバロとマーフ、そしてメイセスの5人で一部屋。俺たちはモーザ、ミドー、ジン、ゾディアックの5人で一部屋を使うことになった。



「お、意外と嫌いじゃないな、この感じ」


 部屋に入ると縦に三段のベッドがあった。それが人が一人通れるくらいの狭い通路を挟んで向かい合いに同じ様に三段のベッドがあり、合計6人まで一部屋に寝れる感じだ。部屋としては狭いがカプセルホテルだと思えば十分なのだろう。

 ベッドに置いてある寝具などは薄っぺらい布団だが贅沢は言わない。みな次元鞄に野営用の寝具は持ってるので適当に調節できるだろうし。


 ……うん。


 やっぱ一番上が良いな。俺は。ここは交渉だな。

 

「さて、寝場所を決めようか」

「お前は……一番上が良いとか言いそうだな」

「え? それ普通じゃね?」

「俺は下で良いや、トイレやなんかしら外に行きたい時にいちいち面倒くさそうだしな」

「むっ……ううむ」


 たしかにモーザの言うように、横のはしごで降りる時に起こさないかとか気にしてトイレを我慢したりしちゃうかもしれないな。日本人的には。……ふむ。


「じゃあ、俺も下にしようかな」

「あ? お前は俺達の大将だろ? 上でデーンと構えていれば良いんだ。なあ、ミドー」

「そうっすよ。旦那は上でデーンと」

「お。そう? そうか。じゃあ……こっちの一番上使わせてもらうわ」

「そうするがええ。老人はトイレが近いからな、ここの下を使わせてもらってええかのう」

「じゃあ、俺はこっちだな」

「それじゃあここを……」

「じゃあ、僕はこっちの真ん中を……」


 何故か、向かいの一番上には誰も来ない。下の4つのベッドにそれぞれが荷物を置き始める。……えっと。ちょっとだけ恥ずかしい気持ちになる。なんとなく。


 ベッドに荷物などを置くと、再び部屋から出て甲板に集まった。そこで、副船長が旅の間の様々な説明をしてくれる。どうやら船員はその他10人程乗り込んでいるという。船員も何気に王国騎士団の所属と言うこともあり、騎士団員の2人も船旅の業務をある程度は仕込まれているらしい。



 イザというときのため、俺たちもある程度は教わっておいた方が良いのだろうか。船員たちに軽く説明を受けている騎士団の2人を尻目に、隅の木箱にナバロが座ってみていた。


「ナバロさんも、王国の所属ですよね?」

「ん? そうだなパテック王国の第2魔術師団の所属だ」

「操船の手伝いとかもされるんですか? なんか人手が結構ギリギリみたいですけど。船の仕事の人達ってみんなガチムチですもんね」

「ああ。俺は推進魔道具への魔力提供要員だな。あれは魔力をかなり食うらしいからずっとは動かせないと思うが……。そう言えば、何でもお前たちも魔法使えるの居るって言うじゃねえか」

「あ~。そうですね。いつでも声かけてください。みんなある程度魔力量ありますんで」

「ほほう……期待してるぜ」


 何でも推進魔道具を動かすには、魔石でも人間の魔力でも対応できるようになっているらしい。ただ、魔石はあっという間に尽きるらしく、イザというときの為に用意してあるという事でほぼほぼ俺たちの魔力をアテにしているらしい。



 まだ出航しないのかと船の外を見ると、桟橋でルミノールとハヤトとメイセスが、なんかお偉い感じの貴族がと話をしていた。最終的な打ち合わせだろうか。


 なんだかんだ言って、ちょっとづつワクワクしてくる。


 昨日、思いつくものは街の雑貨屋などで購入したりして、準備は問題ないつもりだが、なんとなく色々と忘れ物がないか不安になってくる。挙句の果ては、家の鍵を締めたかまで。


 やがて、船の横に垂らされた縄梯子から、ハヤト達が戻ってきた。今回のメンバー全員が甲板に上がってくると船員がスルスルと縄梯子を回収する。いよいよな感じだな。




 プゥアアアアアア!


 副船長がラッパのようなものを吹くと、船員たちは忙しく動き出す。ガラガラと錨を巻き上げている様な音もし始める。ふと後ろを見ると、甲板の後ろの少し高い所にガラスで囲まれている部屋がある。そこが操舵室なのだろうか。


 ナバロが「じゃあ、行ってくるか」と、操舵室の下のドアを開け下に降りていく。恐らく魔道具室に向かうのだろう。俺もジンに声を掛けて一緒に下に降りていった。みつ子も付いてこようとしたが、とりあえず2人居れば大丈夫だろうと上で、他のメンバーと一緒に居てもらう。



 船の中に入ると薄暗い中に仄かに魔道具の光が灯っている。


 推進魔道具が置いてある部屋はかなり船尾に近い場所の様で、ナバロはズンズンと歩いていく。やがて重厚なドアを開け、2畳ほどの狭い部屋の中に入っていく。部屋の中はいろんな魔導回路のようなものが刻まれているようだ。そして真ん中に魔力を流すための魔導石が鎮座している。


「おお~。この部屋全体が魔道具になってるのか」

「そうだ。なんでも前の方から取り込んだ海水を後ろから吐き出すだけでは在るみたいだけどな、その効率等を上げるために魔総研の連中はだいぶ苦労してるみたいだぜ」


 そう言いながらナバロは天井から吊る下げられていた伝声管の蓋を開ける。おお。このギミック、ゲネブ公の館でも見たけどやっぱ好きだな。


「船長、ナバロだ。いつでも行けるぜ」

『よし、それじゃ少しづつ頼む』 


 なるほど、港を出るまではこの推進魔道具で進んでいくんだな。


「ショーゴやってみるか?」

「いやいやいや。始めはナバロさんやってくださいよ。どのくらい魔力通すのかとかもわからないし」

「疲れるんだよなあ。正直……」


 面倒くさそうにナバロが魔力を込め始める。流石にウォシュレットの扱いとは違う。少しづつと言いながらそれなりの魔力がナバロの手から流れていく。



 ゴゴゴ……


「おおお! 動いたぜ。ジン」

「はい。いよいよですね。なんか緊張してきました」

「まあな、どうなるか分からねえけど。まあ。なんとか無事に行って帰って来たいよな」


 ちょっと甲板で出港するのを見ても良かったかなとも思ったが。裏方的に機関室働いてる体も良いかもしれない。波動エンジンみたいなギミックは無いけどな。





※更新遅れて申し訳ないっす。コロナの陽性者がうちの客で来たりとかで、保健所から電話があってバタバタしまして。PCRもクリアして、なんとか正常運転に。

島に上陸前に1週間ほどどこかでストーリー練る休み頂きます。ご了承を。

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