第262話 航海日誌 1

 航海日誌


 2/16 天気は上々。ビョークの街で買ったこのノートに航海日誌を付けることにした。ちょっとオシャレな趣味じゃないだろうか。

 朝の穏やかな水面をノーチラス号は進んでいく。港を出た当たりで、ナバロに変わり俺とジンで推進魔道具に魔力をつぎ込んでいく。トップスピードを出してやろうとちょっと多めに魔力を込めたら、伝声管から船長の怒鳴り声が響いた。ちょっと浮いたらしい。いきなり転覆するところだった。



 2/17 天気は上々。大海原で帆を張ると推進魔道具は使わなくなるようだ。操舵室でメイセスが海図を眺めながら船長や副船長と話をしていた。行き来の無い島に海図が? と思ったが、メイセスが王城で書いたものらしい。よくわからないがやるな。

 それにしてもメイセスは、モーザに対して信仰に近いもてはやし方をしてる。小さくなって寝てるハーレーにも同じ様な感じだ。ちょっとウケる。



 2/18 少し曇ってる。貿易風にでも乗ってるのだろうか、帆はパンパンに風を受けぐんぐんと進んでいる。はじめはちょっと気が乗らない感じだったが、みつ子も船旅を楽しんでいるようだ。夜の女子部屋は割りと盛り上がるらしい。男子部屋も負けていられない。何か考えよう。トランプとかも持ってきたしな。



 2/19 今日も少し曇り。そう言えば天気予報で言う晴れは、雲の量が八割りくらいでも晴れになるんだっけ。そう考えると曇りじゃなく、晴れなのかもしれない。

 夜に食堂で皆でトランプをした。途中で興味を持って参加したこの船のコックさんだが、なかなかいい飯を作る。ジローは作れるか聞いたが、それは無理らしい。今度パスタを作ってくれると約束してくれた。



 2/20 今日は晴れ。と、しておこう。なんかハヤトの部屋が盛り上がりにかけるようで、俺達の部屋の一つ開いてるベッドにやってきた。どうせベッドが余ってるから良いのだけど。ジンと遅くまで盛り上がって話している。だんだん船上の生活にも飽きてきたぜ。楽器とか持ってくればよかったかな。弾けないけど。



 2/21 曇っている。雨がふらないか少し不安。段々と暇を弄ぶように成ってきたので、こないだまとめた剣聖から得た秘訣を皆に教えていく事にする。甲板で竹刀を使い練習を始めると騎士団のマーフが興味深そうに見ていた。聞いてくるなら教えてあげるんだが、見てるだけだな。シャイなやつめ。



 2/22 雨。降ってきてしまった。波が少し高い。嵐というほどでもないがかなり揺れる。「バランス」や「体幹」を付けるには良いかもしれない。と言ってもこのメンバーで無いのはジンだけか、魔術師枠と行ってもうちは遠近両用が理想だからな。まあスキル枠がそこまで多くないから結局魔法メインになりそうなんだが。

 でも運動する許可をもらった場所は屋根がないからな。今日は魔力を練ったり。


 

 2/23 曇り。マーフは気になるのだろう。ハヤトも一緒に練習に参加し始めると、ようやく声を掛けてきた。うん。来るものは拒まずだ。一応マーフは騎士団じゃエリートらしい。モーザに完膚無きまでやられて泣きそうに成っていた。カミラも途中参加してくる。船の仕事は良いのかと思ったが、今はそんな仕事が無いらしい。



 2/24 曇り。中々スッキリ晴れてくれない。だが、このくらいの方が日に焼けなくて良いのかも知れない。いつも釣りをしているゾディアックが練習に口を出してくる。釣れない釣りに飽きたのだろうか。それが中々要点を付いた指摘をしてくる。さすがベテランのジジイだ。





 ◇◇◇



「今日も書いているのね」

「ああ、みっちゃん。んとね。なんとなくさ。航海と言えば航海日誌じゃないかなって?」

「へえ、船に乗ってから1日もサボってないの? どれどれ」


 夜の食堂で、こっそり日誌を付けているとみつ子がやって来て覗こうとする。日記って見られるのってちょっと抵抗あるんだよなあ。思わずパタンとページを閉じる。


「え~。なんか怪しいこととか書いてるの?」

「いやいやいや。でもまあ。こういうのは恥ずかしいから駄目です」

「つまんないの」

「みっちゃんも書いてみたら?」


 そう言えば船の中だとなかなか2人きりになれないよな。もう皆も寝てるし今起きているのは夜番の船員くらいなものだ。隣りに座ったみつ子がそのまま寄りかかってくる。


「お。おおう。どうした?」

「うーん……」

「……なんかあったの?」

「うーん……」


 やっぱり。今回の依頼の話を聞いてから、なんかみつ子のテンション低いよな。やっぱなんかあるのだろうか。


「勇者の島。なんかあるの?」

「うん……あのさ……」

「うん?」

「転生する時に、私さ。女神様に会ったのよね。省吾君は覚えてないって言ってたけど」

「ああ。みっちゃんは覚えてるって言ってたね。それで聖者スキル、だよね。まあ確かにアンデッドがいる島だって言ってたか。そっか。島じゃみっちゃん色々頼られそうだよね」

「うん。そうなんだけどね。そうじゃなくて。えっと。でもそうなのかな?」


 ん? なんか、何を言ってるか良くわからない。でもアンデッドが居るのが関係はありそうだけど。なんか言いにくそうだ。何かあるのだろうか。


「アンデッドと関係有るのかな?」 

「うん……なんか、アンデッドって一種の呪いらしくてさ。アンデッドの魔物を生みだした悪い神は他の神様たちに殺されているんだけど、その殺された神が残した遺跡? っていうのかな。それが未だに呪いの力を持っているらしいの。だから島は汚染されたままみたいなのよ」

「ああ、はいはい。メイセスさんの話だと、なんか過去の勇者がそれを封印したのがまた封印が解けてきたみたいな話をしてたかも。」

「そこなのよ。その呪われた遺跡ってさ、神の呪いだから普通の人間が使う聖魔法じゃ浄化なんて出来ないんだって」


 なるほど。話の流れ的に勇者も聖魔法持っていたかも知れないけど、基本は光魔法の人なんだよな。光魔法に転生時にチート能力を貰ったとしても遺跡を浄化する事は出来なかったのだろう。封印って言っても何をしたのかは解らないが。陰陽師チートみたいなのを持ち込んだとかじゃなきゃちゃんとした封印だって難しいだろうな。


「じゃあずっと汚れた状態って事か。チェルノブイリみたいなもんだ」

「うん……で、女神様がそれを浄化する魔法を私に仕込んだんだって」

「え? まじで? まさに聖女じゃん」


 おおお。まじか。じゃあなおさらみつ子が勇者の島に行く意味は有るじゃん。俺やモーザなんかよりずっと役に立つよな?


 ……でもなんでそれが困ることになるんだ?


 みつ子の方を見るとちょっと困ったように話を続ける。


「ううう……実はね。その時に女神様は、もしその島に行くことがあったらで良いからって。行かなかったら別に使わないでもいいから無理して行かなくていいよって言ってたのよ」

「うんうん、まあこんな話でも無ければ行くこともないもんね」

「そう。私も使うこと無いだろうなって油断してたんだけどね……ただ、その魔法が、結構な魔力を使うらしくてさ、レベル80以上は欲しいかなって言ってたんだよ……100有れば安心って……」


 マジか……


 なるほど。それでか。急遽レベル上げをしたいって言い出したり。まだみっちゃんは60超えた位だもんな。まったく足りねえじゃねえか。この感じだと、せっかく島に行くというのにその魔法を使わないで帰ってくる感じになりそうだ。


 魔力量が足りないなら、マナポーションを飲みながらとかすればなんとか成らないか? あとレベルで言われていたけど、みつ子には「聖者」と言うスキルがある。それで魔力量もかなり底上げされている筈だ、案外なんとか成らないかな?


 そんな事を言うとみつ子もそれを考えていたみたいで、最近ではなんとかなるのかな? なんて考えてみてるようだ。


「それにしても、魔力量が足りなかったらどうなるのかな」

「そこは聞いていないから分からないんだよ」

「そっか……」


『神聖魔法か。魔力が足りないなら、生命力を消費するんだろうな』




※遅筆モードになってまして申し訳ないっす。頼まれて行ってる専門学校の後期試験作ったりとプライベートも忙しいと言い訳しておくぜ。島に着くまでは書けたのでアップしていくぜい。裏で島の設定煮詰めておきます。

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