第259話 旅の準備

 勇者の落ち延びた島への依頼に関しては、裕也は少し興味深そうな感じだった。俺達と同じ日本人転生者の話だし、当然といえば当然だ。

 ただ自分の子の仕事だからな、悪くは言わないし、俺だってあまり突っ込めない繊細な部分だ。「裕也も来るか?」と軽く誘ってみたが娘が産まれたばかりでエリシアさん1人残して旅に出るなんて当然無い。


 夕食を食べていると、普通にハヤトがやって来て「俺のもある?」なんて料理を催促する。エリシアさんは「来るなら先に言ってよね。余り物よ?」なんてブツブツ言いながらもハヤトの分を用意する。


「それで、お兄ちゃん来るでしょ?」

「ん? 前向きには考えてるよ。あとみつ子にまだ話して無いからさ」

「そっか。でもちょっと楽しみだよね。未知の島へ行くとか」

「おいおい。ハヤト。他人事だと思って。ビビってるんですよ? おじさんは」

「え~? 他人事じゃないでしょ。僕も行くんだもん」

「……は?」


 全く他人事じゃなかった。どうやら国からも案内役というか勇者の島との繋がり作りの為に人間を派遣するらしい。外交官的に王都の領地を持たない貴族が使節団の代表として参加し。教会から司祭が1人、護衛の騎士団員が数人、それとピケ伯爵の部下としてハヤトが一緒に行くようだ。その他、軍船を出すため、その乗組員など、そこそこの人数での船旅になりそうだ。


 息子が今回の依頼に出かけると聞いても、裕也は特に動揺もしていない。わかってたのか?


「裕也も知ってたのか? ハヤトも来るって」

「ん? いや。知らなかったが、おそらくそんな話になるとは思ってたぞ?」

「……そうか」

「まあ、お前が居れば安心だ。なんかあったらハヤトをよろしく頼むぞ」

「ああ」


 あまり安請け合いはしたくないが、ハヤトも行くのか。いっそう行かなくちゃいけないような気分になるな。保護者的にだ。



 食事も終わりホテルに戻るがまだみつ子は帰ってきていない。俺は大浴場でまったりと風呂に浸かり、ぼーっと今後の事を悩んでいた。するとモーザも湯船に浸かりにやってくる。俺の指導の元ちゃんと体を流してから湯船に入ってくる。


「……反逆の勇者って、お前と同じ国から来たんだろ?」

「ん? そうだなあ。同じ国だな」

「じゃあ、余計お前が行く意味有るんじゃないのか? なんか相手は俺をご指名らしいが」

「ああ、メイセス……その勇者の孫だな。そいつが勇者が異世界から転生して来たのを知っているかは知らないけどな。少なくとも黒目黒髪で竜にまたがる英雄ってのに、自分の祖父のイメージを重ねているのはホントだろうな」

「たく……いっつも目立つ所に俺を使いやがって。いい加減表に出たらどうだ?」

「いやあ。無理っすよ。モーザさんにはホントお世話になっております」

「良いじゃねえか、俺は勇者だって名乗り出ちゃえば」

「無いな~。ある程度お金貯めたらみつ子とまったりと隠居して暮らすのが夢なんだから」

「そんな未来、来る気がしねえな」

「やめてよー」


 ほんと、やめてほしい。スローライフって素敵なんだぜ。チート無双も憧れていた時代もあったけどな。



 風呂からあがり部屋に戻ると、人の気配がする。ようやくみつ子が帰ってきたようだ。


「おかえり、どうだった」

「うん。楽しかったよ〜。なんかママね、省吾君と手合わせしたそうだったよ~」

「おっふ。やっぱ俺行かなくて良かったわ」

「ふふふ、でそっちはどうだったの? 伯爵なんだって?」

「え? ああ。それがねえ――」


 みつ子に今回の依頼の話をする。だが、みつ子は話を聞いているうちにだんだん顔を曇らせる。いや、解るよ。この世界の造船技術とか操船技術とかわからないけどホントにたどり着けるかわからない様な所への船旅とか、不安しか無いからなあ。


「ああ……そうね。船も怖いよね」

「船も? みっちゃん他にもなんか気になるの?」

「うん……まあ……アンデッド……だよね?」

「ん? あっ。まさかみっちゃん……お化け、怖い系?」

「え? あ。うーん……そうね……」


 なんだろうアンデッドが怖いとかじゃ無いのか。いつもよりみつ子のテンションが低い。何か在るのだろうか。そこまで依頼を受けることに反対はしてこないのだけど。なんていうか。ノリが悪い感じだ。


 よくよく考えてみればみつ子は「聖者」のスキルを持つ。いわゆる聖魔法のエキスパートだ。当然アンデッドに有効な攻撃魔法も持っている。対アンデッドじゃ一番メインに成りそうだ。もう一つの火魔法だって国内屈指の火魔法の使い手だとも思うし。相性は良い気がするんだけどなあ。



 次の日。ホテルのレストランで皆で朝食を食べながら、依頼を受けると返事をすると決めた。と言っても、どうやって報告するんだ? なんて思っていたらハヤトがレストランの中に入ってくる。


「ああ、皆さんお揃いで。で、お兄ちゃん。依頼は受けてくれる?」

「ん? ああ。受けるよ。で、受けるけどこれから俺たちはどうすれば良いんだ?」


 ハヤトは、俺達が受けることを前提にやって来たのだろう。自分の分の朝食を注文すると、説明を始める。


 王都から西側の龍脈を下り、海沿いに在るビョークの街の港から王国の持つ船で出航する。今回の旅は、俺たちというか、モーザ待ちだった事もあり、他の準備がまだ完了していない部分があるらしい。使節団の代表として派遣する貴族もまだ完全に決定しておらず、国王からの打診をしてる段階というのと、教会から派遣するという司祭もまだ決定していないという。


「じゃあ、もう少しかかるの? なるべく急いでくれよ」

「僕みたいなぺーぺーにそんな事言えるわけないじゃないか」

「そうなんだけどなあ……」


 話しているとみつ子がハヤトに質問をする。


「ねえ、ハヤト君。ここらへんでダンジョンとかレベル上げに向いている所って何処だと思う? 前に王都に住んでいた時は、結構遠くに依頼で行くことが多かったけど……」

「うーん。ダンジョンかあ。少し離れた所にあるんだけど、レベル上げに向いているかは、どうだろう。みつ子さん今レベルどのくらいだっけ?」

「60超えた位」

「それだと厳しいか……時間が在るって言っても一週間とかそのくらいには出発できると思うんだよね」

「そう……」


 やっぱりみつ子も実力的なところで不安があるのだろうか。確かに勇者の子孫たちが手をこまねいている様な魔物が居るんだ。当然といえば当然だけど。一週間で何処までレベル上げられるか……ちょっと厳しいよな。


 でも。不安はなるべく解消させてあげたいな。王都周りは、ゲネブと比べても魔物が強めだと言うし、少し奥に行けばワイバーンだって居るんだよな。ジンももう少しレベル上げしたい部分もあるし。


「じゃあ、とりあえずハヤト。10日くれ」

「え? 10日も?」

「俺たちだって依頼を受けるなら出来る限り準備もしたいんだ。ノーは言わせないぜ」

「ううん。分かったよ。じゃあ10日後ね。帰ってきたらお父さん所に言って。電話で僕に連絡はすぐに取れるから」

「おう。よろしくな。みっちゃん。ダンジョンじゃなくてもフィールドで行けるだけ奥に行こう。俺たちで走っていけばかなり深部まで行けるだろ?」

「うん! 出来る限りレベル上げたいね」

「まあ期間が期間だからね、かなり頑張るしかないね」


 そうして、俺達は王都から急遽山脈に向かい猛ダッシュで向かいレベル上げをすることにした。



※もうじきカクヨムコンの応募が締め切りになりますね。ゴーコンも出しているんだけど読者選考のポイント的に、一週間前に応募したこっちの作品より、2ヶ月前に応募したゴーコンの方がポイント獲得量が少なくて、ちょっと通らないかも。

通らなかったら、カクヨムオンリーを外して余所にもアップしようかなと。

あと短編も少し出してるので、興味あればよろしくチェケラ

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