第93話 スラムの小さな家 0
いつものジロー屋で食事を取ったがまだまだ日は高い。
何となく、リンク達の後輩に会っておきたい。時間的に今は仕事をしてるだろうから今日も狩りに行こう。夕方に手土産に鳥でも持っていくのもありじゃないかな。
森の中を走っていくと、昨日座禅をした場所にたどり着く。森の木々の少し開けたところにちょっと良い感じの石があるんだ。ううむ。ここはもしかしたら他の人も同じようにここで座禅とかしていたんじゃないか? と言うくらい具合が良い。
よし。時間もありそうだしやってくか。
昨日と同じように座禅を組む。細くゆっくりと息を吐きながら魔力を全身に纏うイメージをする。やはり精神統一が出来るようで気持ちが良いよな。
光のエレメント変換はやっぱイメージすら掴めないので、今日はちょっと違うトライを。
纏った魔力を少しずつ広げていくイメージを。円を作るように広げて行き、気配などの察知が出来ないかという試み。それで居て自分の気配をなるべく自然に溶け込ますように消していく。そんなイメージも付けて行く。
この世界は、努力した物がスキルとして身に付く。色んなイメージを自分の中で再現して行き、その中で色んなスキルが身に付けばと思う。特に転生者の特典かスキルは身につきやすい様なので、何でもやってみようと。
一時間もそうしていただろうか。突然何か気になる物が引っかかる。
いや、これは<気配察知>的なものじゃないな。まだ<直感>か。まあいいや。あまり危険な感じがしないから行ってみよう。
ずいずいと森の中を進んでいくと、そいつは居た。こちらの気配は察知済みなのかすでに臨戦状態のフォレストボアがこちらを向いてブヒブヒいっている。
足に力をため、体当たりをかまそうとするフォレストボアに<ノイズ>と<ラウドボイス>練り合わせるようにかける。
ギュ―!
あっけなくフォレストボアはその場で崩れ落ちる。
「やっぱこの組み合わせは凶悪だなあ」
痙攣して気絶しているフォレストボアに止めをさし、適当な木に逆さにつるし血抜きをする。ちょっと鳥でもと思ったらなかなかの大物をゲットしちまったぜ。
裕也のようにマジックバッグがあれば楽なんだが。次元鞄には入れられそうも無い。そこらへんの木を切りフォレストボアをくくり付ける。そのまま……<剛力>で無理やり持ち上げ何とか街を目指す。が、これは厳しい。
しばらく考え、今度は2本の木に乗せるようにくくり付け、両手で片方を持って引きずるようにする。これならっ、なんとかっ、なりっ、そう、だっ! ふんぬ!
流石に走れないが、少し早足でがんばる。それでも3時間位かけてようやくゲネブまで戻ってきた。途中匂いに誘われたのか、1匹フォレストウルフが近づいてきたが、<ノイズ>と<ラウドボイス>で気絶だけさせて放置する。
ひい。ひい。やっぱ1人で大物は厳しいな。運送が。
ゲネブの門までたどり着くと、門番が「大物取れたじゃないか」と陽気に声を掛けてくる。が。バテバテでそれどころじゃい。適当に挨拶をして門を潜っていく。
ううむ。リンク宅にこんなデカイの持ってったら逆に迷惑か? どうするか。
ああ、ジロー屋に卸すか。
そう思い、いつものジロー屋まで行く。
「いらっしゃ……おいおいどうしたそれ?」
「いやあ、知り合いの所に行くときに手土産と思って狩に行ったら思わぬ大物捕まえちゃったんで、もし良かったらスープ採るところとか使いません? あげますよ」
「まじか、いや、嬉しいが……いいのか?」
「いいも何も、ちょっと捌いてもらって、手土産に出来るくらいの形にしてくれたらなお嬉しいです。あと俺の分少し分けてもらえれば残り差し上げますので」
「全然構わないし、むしろ助かる。最近フォレストボアもやや値上がり傾向でな」
店の裏から入ってくれと言われ、裏に回る。裏はスープの下処理ようなのか肉の解体や、製麺するスペースがあり思ったより広い。オヤジは、テキパキと肉を切り分けていく。さすがプロの手さばきだぜ。
ジローにはスープを取る骨と脂肪、トッピング用の肉に肩肉が使いたいらしい、その部分を除いたモモやバラを適当に切り分けてもらい、ズタ袋に入れてもらう。大所帯って聞いているので、めいっぱい入れてもらう。時間的に今からそのままリンクの所に行く予定なので自宅分は氷室に入れておいて貰った。明日にでも取りに行きますと。
リンク達の家は文字通りスラムの中にある。他の冒険者と一緒に住んでいると言うが、もともとは、とある冒険者パーティーがダンジョンで半壊になり、その時に生き残った冒険者が亡くなった仲間の子供たちを引き取り一緒に住み始めたと言う事だった。
全員がパーティーの仲間の子供というわけでもなく、リンクもたまたま拾われたと言っていたが、ピートたちの育てた老婆の話もあるし、スラムではそういうパターンが多いのだろうか。
スラムの辺りは区画整理が進んでおらず、少し解り難かったが以前リンクに貰った手書きの地図でなんとかたどり着く。手土産として肉は持ってきたが夕食の時間には少し遅かったかもしれないな。
変な家だからすぐわかると言われたが、敷地は妙に高い土壁で囲まれている。なんじゃこりゃ? 真ん中辺りにアーチ状に入り口のようなのがあったのでくぐって入ると、庭にも土で出来たカマクラのような倉庫っぽいのとかあったり、土の山が無造作に積まれたりしている。周りの住宅と比べ違和感がありまくる。
ん? それにしても家の部分はずいぶんこじんまりとした感じだな。ここにそんな沢山人が住めるのか?
みると煙突から煙は上ってるのでちょうど夕飯の準備でもしているのだろう事は解るが。
そして玄関には、なんか紐が下がってる。紐を辿っていくと家の中まで繋がっているので呼び鈴的なやつだろうか。とりあえず引いてみると案の定中で鐘の音がしていた。
しばらくしてドアが開き、中からは30代半ばくらいの赤髪の女性が顔を出した。
「あら? もしかしてショーゴ君?」
「あ、はい。え? 僕のこと聞いてますか?」
「うんうん、聞いていますよ。さ、入って。リンクたちも居ますよ」
そのまま中へ通される。お? 小屋の殆どの敷地を使っているような広いリビングの隅に台所があり、そこで何かを作っているようだ。1人男の子が料理を手伝っているようだが他に人影が見当たらない。
「あ、これ今日狩りに行ったらたまたま捕れたフォレストボアの肉です。つまらないものですが……」
そう言って、フォレストボアの肉を詰めるだけ詰めた袋を渡す。
女性はそれを見て目を丸くする。
「つまらないものって、あんたこれ。買ったら偉いことに成るよ? 良いんかい? こんなに沢山」
「どうぞどうぞ。自分、作らないわけじゃないんですが外食が多いんで。そんないっぱい有ってもしょうが無いから、知り合いに分けて回ってるんですよ」
「うちは食べざかりの子供が多いからね。肉はいくら有ってもすぐ食べちまうんだよ。助かるよ。うんうん、今日はもう一品増やせるね。ショーゴ君も食べていきな」
「良いんですか? じゃ、お言葉に甘えて」
そう言うとまじまじと俺の方を見る。
「うーん。あんたお上品だね。何気に良いところの出なのかい?」
「いやあ、そんなことはないですよ、初めての家で畏まってるだけです」
「はっはっはっ。そんな畏まるような家じゃないよここは。リンク達は下にいるから行っておいで、料理が出来たら呼ぶからさ」
下?
下に行く階段は……と部屋を見渡していると、お母さんにそこの扉から降りれるよと言われる。言われた場所は部屋の隅のトイレのドアっぽい所で、開けてみると中には確かに下に続く階段があった。
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