第94話 スラムの小さな家 1

 階段のドアを開けると下から声が聞こえる。

 なるほど、地下があるからこのサイズの家でみんなで住めるのね。しかし、これどうなってるんだ? 石というより土壁っぽいが。


 階段を降りるとその広さに驚く。壁は土壁のような感じなのだが床には板が張ってある。土のままだと流石に冷えるのだろう。降りた部分はちょっとした広間になっていて、リンクがブンブンと木剣を素振りしており、少し年上の青年が振り方などを教えていた。


 練習を周りで見ているモナが気がついて声をかけてくる。


「あれ? お兄ちゃんどうしたの?」


 その声で、リンクたちも俺に気が付く。


「おう、色々と話したくてさ。いつでも来いって言ってたろ? おじゃまするよ」


 そういうと、リンクより少し年上の青年が話しかけてきた。


「やあ、ショーゴ君。いつも弟達が世話になってるようで。俺はカールっていうんだ。Eランクの冒険者だけど、知らないだろ?」

「あ、ヨロシクです。いや。うん。顔は、見たことありますよ」

「今朝はギルドでだいぶ目立ってたね。見入ってしまったよ」


 冒険者は自意識が強いの多そうだからな、知らないとかなかなか言い難い。それにしてもギルド長とのやり取りを見られたと思うと何気に恥ずかしいな。


 カールは、この家だとリンクたちのすぐ上の兄貴の立場という事だ。もう1人上にDランクのホミュラが居るらしいが、今は家主のエドと共に護衛依頼で留守だと言う。ちなみにホミュラはオーヴィの実の兄で……こんがらがるので聞いた話をまとめよう。



 エド:この家の主。Cランク冒険者 かつて所属していたパーティーが壊滅したときの唯1人の生き残り、仲間の子供達を引き受ける。現在護衛任務で王都に行っている。

 カーラ:エドの妻 1階で料理をしていた人。

 ホミュラ:19歳 パーティーリーダーの息子 オーヴィの実の兄 Dランク

 カール:17歳 エドとカーラの実子 Eランク

 リンク:14歳 オーヴィと遊び友達だったため教会から身請け Gランク

 オーヴィ:14歳 パーティーのリーダーの息子 土魔法の素養 Gランク

 モナ:14歳 オーヴィとの遊び友達だったため教会から身請け Gランク

 スティーブ:13歳 パーティーメンバーの子 

 ルイズ:10歳 エドとカーラの実子 女の子

 フリッツ:8歳 パーティーメンバーだったエドの弟の子供 


 

 と言うのがこの家の図式になる。なかなかに大所帯。

 先ほども、リンクにカールが剣の使い方を教えていたり、兄弟の仲も良さげで微笑ましい。今日は13歳のスティーブと一度逢っておきたいというのが主旨にはなるのだが、1階でカーラの料理の手伝いをしていたのがスティーブだった。リンクたちのように冒険者登録をして外貨を稼いでくると言うのが出来ないのが悩みらしく、普段から家事を良く手伝っているという。なかなか良い子っぽいじゃないか。


 「それにしても、この地下すごいな」


 階段を下りた部分が20坪程もありそうな円形の広間になっており、その周りにぐるっとドアが付いている。恐らく子供達の個室になっているのだろう。


「オーヴィの土魔法で作ったんだよ。扉とか床は違うけどね」

「おおお。土魔法でここまで出来るのか。あ、もしかして外の塀とかは地下を掘って出てきた土で作ったのか?」

「正解。ある程度圧縮して壁の強度を上げるのにも土を使ってるんだけどね、それでも余るんだよ。何年もかけてチョコチョコと広げていったんだ」

「なるほどな。土魔法の練習にもなりそうで良いな。で、そのオーヴィは?」

「ご飯までチビたちに勉強教えてる」

「おう。教育熱心で良いな」


 せっかく剣の練習していたのを邪魔しちゃった感じなので、どうぞどうぞと練習を促す。部屋の隅でモナと一緒に練習風景を眺めていた。リンクはあと数ヶ月で15に成るという事で、それまでにある程度剣を使えるようにと最近特に練習に励んでいるらしい。


 剣の使い方も流派とまでは行かなくても微妙に違う感じがあって見てて楽しい。リンクも若いながらなかなか様になってる。魔力斬も指導されているのか、まだまだ魔力の通しは弱いながらも剣に向けて魔力を必死に流しながらやっている。ピートたちの方がむしろ我流といった感じで荒さを感じるくらいだ。冒険者ファミリーの英才教育的なものなのだろうか。




 そうこうしていると1階から声がかかり、皆でぞろぞろとリビングに上っていく。オーヴィも「やっぱり居たんだ。声が聞こえてたからもしかしてって思ってたんだ」と子供達と一緒に部屋から出てきた。


 テーブルには大皿に山盛りになった料理がドカドカと置かれている。今日は居ないホミュラの席に俺の場所も用意してくれてあった。


「おお! 肉だ! マジか。沢山ある!」

「ショーゴさんがフォレストボア捕まえたんだって、いっぱい貰ったからちゃんとお礼するんだよ」


 いつも肉が少なめなのか皿に盛られたボアの肉に子供達が大喜びしている。やばい。こんなの見たら定期的に持って来たくなっちまうじゃないか。


 食事中の会話もそこそこに皆ガツガツと料理を口に入れていく。女の子達も負けてはいない。その勢いにちょっと引きそうになるが、カーラさんに貴方もどんどん食べなさいと言われ、俺も負けずに食べ始める。うん。旨い。


「始めまして、省吾って言うんだ。君がスティーブ君だね?」

「あ、はい。始めまして」

「リンクには聞いている? 俺が冒険者ギルドを辞めて個人で仕事をしようとしてるって話」

「なんか仕事くれるかもってリンク兄ちゃんからは……」

「うんそうだね、まだ辞めたばかりでちゃんとした形に成ってないから、確実なことは言えないんだけどね。ちなみに将来の目標とか、やりたい事とかあるの?」

「え? う~ん。やっぱ冒険者かなあ。強い剣士になりたいな」

「お? 剣士かあ。戦闘は冒険者の花だもんなあ」


 話を聞いていたモナが会話に入ってくる。


「お兄ちゃん。スティーブは強くなるよっ!。今だってリンクよりも強いよ」

「なっ。しょうがねえだろ。スティーブはスキル持ちだしさ」


 おお。スキルがあるとやっぱ違うのな。まだ13歳だって言うし才能ある子なんだろうな。どんなスキル持ってるんだろう。気になる。


 その時、それまで黙って聞いていたカールが少し困ったような顔で話しかけてきた。

 

「ショーゴ君が色々優秀って話しはリンクから聞いてるし、こんなフォレストボアを狩って来るくらいだから只者じゃないのは解るのよ。でも見たところ15.6歳よね? ギルドを辞めて1人で仕事をするって大丈夫なの?」


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