第95話 スラムの小さな家 2
話を聞いていたカーラさんが、実際問題俺が仕事を個人でやっていけるのか聞いてくる。
あー。
そりゃそうだ。こんな訳も解らない若造が、突然息子を雇おうかみたいな話をし始めたら親としては当然警戒するよな。確かに何の保証も無いしなあ。さっきリンクがスティーブの方が強いって話の時に、スキル持ちだからって言ってたな。
スキルを持ってるってのは、信用度が上がるかもしれないな。うん。
「僕もスキル持ちです。そこら辺の冒険者にだって負けないと思っています」
「ほう。その年でそれだけやれるんだよ。持ってても不思議じゃないね」
これじゃ弱いか。どうするか。
「魔法もあります。<光源>とか生活魔法ですが……」
「ふうん。だけどそれじゃあ例えばうちの子と狩りに行って危ないことが有った時とか守れる保証はないだろ?」
「ううん……スキルに関しては……複合スキルも入れて10個以上……あるんです。相当強い敵が来てもきっと守れると思います」
「そんなに??? ほんとかい? それは」
「はい……」
「なんとまあ……」
話を聞いていた兄弟たちは驚いた顔でこちらを見る。空気が一瞬固まった様な状況がとてつもなく居心地が悪い。
そりゃそうだろうな。スキルがあれば有るほどその冒険者の実力は跳ね上がっていく世界だ。まあ、死にぞこないセットとかだけど。数だけ告げればなかなかのインパクトは有るんだと思う。
現在のスキルは。
アクティブスキルが<剛力>
パッシブスキルが<言語理解><極限集中><根性><頑丈(Lv2)><直感><逆境><魔力操作><俊敏><強回復(Lv3)><速視><魔力視>
まあ、<言語理解>まで入れると12個か。改めて見ると知らないうちにだいぶ増えたなあ。正直もうちょっとチートっぽいのが欲しいんだが。
カーラも俺の異常性を感じているようだ。気味悪がられないと良いんだけど。
「あんた……反逆の勇者の生まれ変わりみたいな子だね。それが本当なら尚更冒険者を続ければよかったのに」
「本当は僕だって辞めるつもりは無かったんですよ。でも黒目黒髪ってのがやっぱネックになるんですよね。いつまで経ってもランクが上がりそうに無かったんですよ」
「まあね、ランクが上げてもらえないって話は聞いてるよ」
「過去の勇者が黒目黒髪で、冒険者ギルドで成り上がって有名になった事実があるんで、同じ黒目黒髪の僕をランクアップさせるのに抵抗があったんじゃないですかね」
リンク達から俺の話を聞いてるなら、そこも知ってるんだろうな。
この際、色々ぶちかましちゃおう。実力的な所以外にも金銭的な信用も有ったほうが良いだろう。この人達、良い人そうだし。
「あと、特許……んーなんていうんだろう。自分が考えたアイデアをランゲ商会って所で商品化してくれて、ちょこちょことロイヤリティみたいなのが入ってくるんです。だから時にガツガツ仕事しなくても人材の育成とかにじっくり時間をかけられるというか」
「ほう。発明家みたいなのもやってるのかい? どんなアイデアなんだい?」
「えーと。ロッカーなんですが」
「ロッカー?」
まあ冒険者ではないカーラさんはロッカーは知らないだろうな。カールが最近町中に設置されている棚みたいなサイズの倉庫で、宿暮らしの冒険者が貴重品をしまっておくのに人気があるんだと説明してくれる。
今は王国全土にそのロッカーを広げて設置していると言う話を補足しておいた。
「実力的には……問題ないようね。むしろ期待以上だわ」
「いやあ、偶然が重なっただけですよ」
「偶然も重なれば必然に成るのよ」
おおう。なにやら格言的な。
ただ、スティーブは冒険者になりたいという志望は有るため、ずっと一緒に働くとかはあまり期待しないほうが良さそうだ。それでも訓練などの初期投資はするので少なくとも3年は一緒にやってもらいたい。16歳位までは冒険者登録を我慢してもらうことに成るかもとも話した。
元々スティーブはこの家でも資質を期待されている部分もあり、15歳に成ったら何とか家族で2万モルズを都合して登録しようという予定はあったようだ。問題なくDランクになればお金も返ってくるだろうし。
スティーブ関連の話がある程度落ち着くと、段々と雑談が盛り上がってくる。これだけの大所帯で楽しそうにしているのはちょっと羨ましいよな。
「そういえば、オーヴィは<ストーンバレット>使える?」
「うん、使えるよ」
「おお、でさ、あれってどういう感覚でやるの?」
「え? 感覚? うーん。なんて言えば良いんだろう」
「今さ、<光矢>を使えるようになりたいんだけどさ、作った<光源>を相手に向かって飛ばしたりするイメージでやってるんだけど、ふわふわって動いてく感じで全然矢っぽくなくてさ」
「あ~。<ストーンバレット>も別に作り出した石を相手に向けて飛ばすわけじゃないからね」
「え?」
「なんていうかさ。相手に位置に石を作り出すというか。出来たのを飛ばすんじゃなく。標的の辺りに作ると飛んでいく。みたいな?」
むむむ。
なんとなく言いたいことは分かった。飛ばそうとするから魔力の繋がりが切れる所で消滅するのか? んん? でもそれだと標的の位置まで魔力が飛ぶって事だからそこまで繋がるのか? 良くわからんが今度やってみるか。
「なんだい、光魔法を攻撃魔法に昇華させようってか? ははは。あんた見かけによらずどこまでも貪欲だねえ」
「でも魔法はまだまだ全然ですよ」
「今はそうでもそのうち化けそうだよ。どうだ? 飲めるだろ?」
そう言うと、コップに酒を注いで渡される。いや。まあ。断れないな。
その酒はエールの様だが雑味が多く、少しドロっとしている。何かハーブの様なものを混ぜて味を誤魔化している感じがあるが、決して旨くはない。スラムの貧困層の飲むお酒なのだろうか。日本で言うドブロクの様な物なのかも知れない。こないだピートたちと行った居酒屋では果実酒を飲んでいたのであまり気にならなかったが、居酒屋で飲むようなのは少し贅沢なのかもしれないな。
せっかく注いでくれた酒を不味いと言う訳にもいかず、一気に飲む。
「へえ。飲める口だね? お父ちゃんが仕込んだ酒だからあんま旨くは無いけどね。酔うには酔えるだろ?」
「なんていうか、個性の強いお酒で」
「はっはっはっはっ。個性ね。やっぱりお上品だよ」
一応15歳以下はお酒を飲まさないらしく、リンクたちは酒を飲んでいない。カールは少し飲んでいたが、あまりこのお酒は好きじゃないんだと二杯目までは飲んでいない。
そんな酒でも、一杯二杯と飲んでいくと慣れていくのか、酔って関係なくなるのか気にならなくなってくる。やがて子供達を寝かすよとモナがスティーブと子供のつれて地下に降りていく。リンクもオーヴィも気が付くと居なくなっていた。そうなると中々中座できない。
やがて、カーラもウトウトし始めると、カールがよいしょと立ち上がる。
「色々つき合わせちゃって悪かったね。スティーブの事、母ちゃんも悩んでいたからちょっとホッとしたんだろう。まあ一週間ほどで父ちゃんが帰ってくるからその時に一応確認はすると思うけど、ヨロシクな」
「あ、はい。らいじょうぶだと思います」
「ん? ショーゴもだいぶ酔ってるね? 泊まっていきなよ」
「もんらい無いですよ。しぇまい街ですし、そろそろ帰りますねえ」
「だ、大丈夫か?」
どんな酔っ払っても、自宅のベットで寝たいからね。大丈夫と泊まりの誘いを断りリンク達の家からおいとまをする。
「それでは、おやしゅみなさい」
夏も温暖なゲネブではあるが、流石に深夜になると夜風が冷たく感じる。酒で火照った顔に涼しい風が心地よい。知らない星座を眺めながら家に向かう。
……
ん?
グサッ
あれ? 痛てえぞ?
なんだ?
「かっ! おいおい楽に終わっちまったぞ? アジル達はこんなのにやられたんか?」
へ? なに??? 突然の事に頭がついていかず、声の方を向こうとするが、足がふらつき自分の血溜まりの中に膝をつく。見上げると、狂犬がつまらなそうな顔で俺を見下ろしていた。
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