第92話 開業相談

 冒険者ギルドを出るとそのまま商業ギルドに向かった。

 建物の中に入ると受付のお姉さんの所に向かう。


「すいません。商売を始めたいなあと思うんですが、商業ギルドについて教えていただきたいんですが」


 そう尋ねると、あれ? と言う顔をされる。


「すいません。ショーゴ様はビジターの会員ですよね? 冒険者ギルドの方をビジターにするのもかなりの特例に成っておりまして。ギルドは通常1つだけの加盟という形になっているんですよ」

「あ、今冒険者ギルドの方は辞めてきたんです。それでも駄目ですか?」

「え? 退会なさったと言うことですか? それなら可能ですが、冒険者ギルドの方への問い合わせをしないといけないので、少々お時間を頂く形になると思います」

「あ、それで大丈夫です。ただ、商業ギルドのことを殆ど知らないので教えてもらえればと思いまして」


 あ。


「すいません」

「はい。なんでしょう」

「あのう、冒険者ギルド辞めたのって、ついさっきなんですが……」

「はい」

「ギルド長と喧嘩して辞めてきたので、問い合わせて俺を除名したみたいな話になってたりすると、商業ギルドに入れなかったりしますか?」


 そう言うと、受付のお姉さんはちょっと驚いた顔に成り。こちらを見つめる。やがてクスクスといった感じで笑う。


「大丈夫ですよ。冒険者ギルドには職員が一応確認に参りますが、冒険者ギルドに私の友達がいるのでそちらにも聞いてみますね。ただ、ショーゴ様はユーヤ様やランゲ様の後ろ盾が有るので特に問題ないと思いますよ」


 なるほど。とりあえず冒険者ギルドの方は問題なさそうだな。ていうか友達って誰だろう? シシリーちゃんとかかな?


 ついカッとなって後先考えずに辞めてきたけど、そこら辺もちゃんと計画的に動けるように成らないとな。俺もまだ若いな。



 しばらく待つと、銀行の個室ブースの様な所に通される。大きい金銭の取り扱いがあるからかなのか、こういうのは冒険者ギルドには無い設備だよな。ザ銀行マンの様なきっちりした青年が説明をしてくれる。


 まず。商業ギルドは冒険者ギルドとはだいぶ存在意義が違うようだ。相手が冒険者と言う個人と違い、商会などの組織を相手にしているのもあるのだろう。


 基本的に商業ギルドは会員の商会のサポートをする。税金の計算の代行や、徴収などもやっている。それから求人の仲介、店舗の確保、情報誌の作成。冒険者ギルドから素材や魔石などを常時買い取り、商店へ卸したり行う。レアな物だとオークションの開催もする。他にも話を聞いていると公正取引委員会的な活動もあるようだ。複雑すぎて理解できない部分も多いが、聞けば聞くほど組織の力は冒険者ギルドにも負けていないように感じた。


 個人商店だと、なかなか遠隔地から仕入れ等は難しい。隊商を組織して護衛を雇ってなどそれこそ人員も資金もかかるのでなかなか出来ることではない。そこで定期的に商業ギルドが隊商を出して遠隔地からの仕入れを行っている。その時に希望の商品など、商業ギルドに要望を出しておけば、代理で買付もしてくれる。

 ただ俺がエルフの集落への護衛をした隊商の様に危険な場所等までは行くことはなく、もちろん仕入れ値はそれなりに上る。それでも隊商を組織できない小規模な商会にとっては助かる話だ。



 お兄さんに、どの様な商売をお考えですか? と聞かれ。冒険者ギルドでやっていたような何でも屋的な物を考えていると言うと。「それは冒険者ギルドの仕事ですよね?」とちょっと困った顔をする。まあそうだろうなあ。


 お兄さんは俺がギルド長と喧嘩をして辞めた話はしていなかったので、スパズという存在への差別があり。ランクを上げてもらえない現状を話し、それなら個人でやった方が良いんじゃないかという話をするとようやく納得する。が、ビジネスとして成り立つかは少し疑問を感じているようだ。


「従業員の規模とかは考えていますか? お1人ですとやはり回せる仕事量も厳しい気がしますが」

「今のギルド長になって、冒険者登録をするときに身分証が無いと2万モルズの保証金を取られるんですよ。それで今までと違ってスラムの子供達が登録できない状態なんです。だからスラムの子供とか教育して使えるように出来ないかと考えているんですが」

「スラムの子供達ですか? しかしそれだと仕事の質が落ちそうな気がしますね」

「特に急いでお金を稼ごうとかは思っていないので、ジックリ教育に当てようとは思ってます。どこに出しても恥ずかしくないように」

「なるほど……」


 その後色々と質問をされるが、ビジネスの専門家に色々突っ込まれていると段々自分の考えが結構適当で、あまり計画性が無かったことを思い知る。


 <隠密>系のスキルとか持っていれば探偵事務所などもありだったかもしれないが、無い物はしょうがない。かといって普通に商人をやっていくのもあまり面白そうに感じない。


「ショーゴ様がロッカーの発案者というのは聞いております。ですので他の人とは違うアイデア等が出てくるんじゃないかという期待は持てると思います。しかし冒険者ギルドと言う巨大なライバルのある市場に勝負をかけるのは結構ギャンブル性は高いと思います」

「そこは重々理解してます。正直なところ冒険者ギルドに対する当て付けで仕事を少し奪ってやりたいって下心も無いわけじゃないですし。ただ、ロッカーの件でしばらくはお金に困ら無そうなので、ゆっくりと探りながらやって見たいと思ってますよ」

「そうですね。受ける仕事の中で得意分野で固定客等が付けば、1人でやる分には充分やっていけるとは思いますので」

「もし求人とかで人が来なくて臨時でつなぎ的な人が欲しい商会などあったら、声かけてください。何でもやろうとは思ってますので」

「わかりました。戦いも出来るようなので、うちの隊商の護衛等もお願い出来そうでしたらそういう仕事も回せるかとは思います」


 話しこんでいると随分時間がたっているようだ。お兄さんにお礼を言って、また相談させてもらいますと商業ギルドを出る。


 ふむ。

 結構大変かもしれないな。

 でもそれだけに、自由業的にまずは楽しもうじゃないか。


 腹も減ってきたので、ジロー屋に行く。そういえばこのオヤジも領主の館の料理長と言う恵まれたポジションを捨てて好きな道を歩み始めた人間だな。そう思うと少し近心感が増す気もするぜ。


「オヤジさん。ギルド辞めてきたよ」

「お、ようやく踏ん切りついたか」

「まあ、いざとなったらここでアシスタントやらせてもらうから」

「もっと客が来るようになったらな」


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