第278話 闇魔法
おそらくスクロールの中にある魔法にまつわる話はファーブルもメイセスも知らなかったのだろう、最高に酸っぱい梅干しを口にしたような顔で「ヤバい約束しちまった」という顔をしている。
だがシャーロットは笑顔でスクロールを開き、テーブルの上に乗せる。
「さ、ショーゴさん。どうぞ」
「あ、えっと。……どうしましょう?」
「ふふふ。面白い人ね。あの人ならこう言うわ。ユーやっちゃいな! ってね」
「ぶっ。その人を知ってるのか。ユタカさん」
ていうか、その人がもう亡くなったという話は知らないだろうな。
うん。俺はふうと深呼吸をして手を乗せようとする……いや。まてよ?
「ガル? メル? 起きてるか?」
そうだ。こいつらに聞けば良いんじゃないか。突然頭上の龍珠に向かって語りかけた俺にシャーロットさんたちはわけがわからないようだ。
「ああ、この龍珠は普段ほとんど寝ているんですが、起きてる時は会話も出来るんですよ」
「まあ~。それは素敵ね」
シャーロットさんは嬉しそうに俺の頭の珠を見上げる。やがて……。
『……なんだ?』
「お、ガルか。起きてたか。それとも起こしちゃったのか?」
『そんな事を聞くために、起こしたのか?』
「ちょっ。おいおい。そんな愛想の悪い言い方は無いんじゃないの?
俺が、ガルと揉めてるのを見てみつ子が話しかけてくる。
「どうしたの? 機嫌悪いの?」
「うーん。寝てたのを起こされて機嫌悪いみたい。子供だよな」
『子供とはなんだ』
「後見人が必要なやつは、子供って言っても過言では無いな」
『むぐっ……』
まあ、今はそこまで遊んでいられない。
「このスクロールは、闇魔法で良いのかな? もう1人を起こすのにコイツで大丈夫?」
『む……これは? ほほう……』
「いや。ほほうって。分かるのか? これで大丈夫なの?」
『うむ。<ペイントイットブラック>だな、これでも黒龍は起きるぞ』
「ペイントイットブラック? 何だそれは」
『任意のものを黒く塗りつぶす魔法だな……ふぁああ。我はもう寝るぞ』
「黒く? あ、おい。ちょっと。おいって」
『……』
まじか、本当に寝やがった。黒く塗る魔法って……なんだよそれ。困惑気味にシャーロットさんの方を向くと、シャーロットさんは「本当に龍珠なのですね」と不思議そうに珠を見ていた。
龍珠の声は聞こえないが、魔王の魔法の名前を言ってもないのに<ペイントイットブラック>と俺が口にしたのを聞いて確信できたようだ。
この魔法は本当にそのまますべてのものを黒く塗りつぶせるといった魔法らしく。乳幼児期に無意識に周りを黒く染めてしまう子供が生まれることが、魔王誕生の印になるらしい。まあ分かりやすいんだが……何ていうか、こう……もっと厨ニ的な魔法で居てほしかった俺も居る。だって、なあ。魔王を象徴する魔法だぜ?
王城に『魔王見参!』とか落書きしちゃいそうじゃね?
しかしまあ。これでも黒龍が起きるのは分かった。
「これで大丈夫らしいんで。じゃあ、使っちゃっても良いんですね?」
「いいわ。遠慮せずほら。ぐっといっちゃって」
「ははは、お酒じゃ無いんだから……それでは」
開かれたスクロールをまじまじと眺める。二百年前に魔法を吸ったスクロールらしいが、未だに劣化した感じはない。やはり魔法的な何かがあるのだろうか。
目を閉じ、一度深く深呼吸をすると、スクロールに手を載せ魔力を通し始める。それを見ていた周りからも「ハッ」と息を呑むような空気を感じて気になってしまうが、ここは無視で。
やがて描かれていた魔法陣が仄かに明かりを発し、いつものようにすっと魔法が身体に入ってくるのを感じる。そして俺の中のスキルや魔法を確認していく。
「うん。魔法は出現していない。成功ですね」
俺が顔を上げると、シャーロットさんはホッとしたような顔になる。やはりいきなり俺が魔王に覚醒したりとか少し不安を感じていたのだろう。
「やったね、これで3種類全部の龍珠が起きるね。次の珠の名前は決めてある?」
「いや、みっちゃん気が早すぎるよ。確か以前の傾向だと珠が出るまで1ヶ月くらいかかったと思うからゆっくり考えるさ」
「ふふふ。妊娠した妊婦さんみたいだっ」
「妊婦って……」
まあ、みつ子のツッコミはさておき。いよいよすべての龍珠が起きるのだろう。頭の上にもう一つの珠かあ……邪魔にならねえかな? いや。慣れてはいるんだけど今でも邪魔っちゃ邪魔だしな。
その後、ヨグ神の遺跡の場所の話を聞く。当初の目的の遺跡の封印は出来るのだろうか? という事が問題になる。俺としてはみつ子に封印をさせるつもりは無いので、以前のユタカがやったような、周りを土で埋めて物理的に封印する事を考えている。
それにしても……アンデッドたちはだいぶ統制が取れているような気がする。それについてもファーブルに尋ねた。
「そこなんだ、昔はもっと散発的な発生しかしていなかったんだが、段々と動きが変わってきてるのは事実だ」
「目的があって……誰かがコントロールしてるとかは……」
「コントロール? 一体誰が?」
「例えば……他所から来た人達とか」
そう言うと、ファーブルは俺が何を言いたいのかすぐに感づいたようだ。
「それは無い。彼らとはもう何十年もの付き合いがあるんだ。2,3年に一度くらいしかやってこないが、彼らのおかげで島じゃ手に入らない物も手に入るようになった。感謝してもしきれないくらいの恩を俺たちは受けている」
「彼らは商人として、利があるからこそ交流を続けているのでしょ?」
「それでもだ。父を国から追い出したパテックの奴らとは……いや。すまん。君たちには関係ない話だったな」
「いえ……大丈夫です」
むう。そうか……特に村長なんてユタカの息子だ。国を追われたユタカの苦しみなども直に見ていたのだろう。それから見ればどちらが信用置けるか……なんて聞かなくても分かるのか。ただ、メイセスや下の世代にそこまでのわだかまりが残っているかは微妙なところだ。ここまでの感覚を持っているのはファーブルくらいだろう。
……シャーロットはどう思っているんだ?
少し知りたかったが、村の統治的な部分に関してはシャーロットはなるべく口を出さないようにしているようだ。それに村長の前で流石にそんな事を聞くことも出来ない。
それから何日か村の警備を手伝いながら、外壁の周りに空堀を掘ったりと手伝えることをしながら村の防御を固めていく。俺たちが遺跡の封印に行っている間に村が襲われてもなんとか自分たちで身を守れるようにしておきたいところだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます