第279話 ネライ子爵の相談

 ネライ子爵は、必死で村長と友好関係を築こうと頑張っているようだ。しかしなかなか思うようにいかないのだろう。先日、村長と話したときも、なんだかんだ言ってパテック王国へのわだかまりが残っているのを感じていたからなあ。文系学者肌の女性文官を選んだのは国王としては正解だと思うのだが。



 ……それにしても何だって俺に相談しに来るんだ。



「いやちょっと……俺に聞かれてもそんな国家単位の話なんて分からないっすよ」

「しかし、どうしても困ったらショーゴさんに聞けと……」

「はい? 誰が?」

「オーティス伯です」

「あう……」


 マジか。いやいやいや。あのおっさんホント無茶振るよ。そもそもなんで友好関係を築こうと考えるのかも分からないんだぜ? こんな船で一ヶ月以上かかるような場所で、しかもパテック王国の品物を輸出するほどの人口もお金もないし、この島にパテック王国が欲しがるようなレアな品物があるわけでもない。貿易なんてなりたたないしなあ。


「確かに、子爵より私のほうが村長との関係は近いですけど、きっとアンデッドを倒したりとか村に貢献したからだと思いますよ?」

「貢献……ですか。確かに私では全く戦闘では役に立ちませんね」

「それは、ほら。適材適所というか、得意不得意って誰にでもありますので」


 なんか貴族様なのになあ。実際ハヤトの先輩でガリ勉の秀才として有名だったと言うし、領地を持ってる貴族でもない。領地を持たない貴族なんて単なる公務員みたいだと言えばそうだしな。俺の前で小さくなって困った顔をしているのを見てると、とても貴族に見えない。


「ん~。陛下からの親書はお渡ししたんですよね? それでよしとするとか?」

「そんな事出来ません。私達は交流を深めたいのです」

「え? でもこんな小さな村と交流をしても買うものはないし売れるものも無いですよね?」

「損得での話では無いんです。陛下としては歴史の負の遺産を精算したいのだと思います」

「うう~ん」


 難しいことを言う。だが困りきった顔を見てるとなんとかしてあげたくもなるんだが。困ったように隣りに座っていたみつ子の方を見る。


「え? わたし、わかんないよ~」

「う~ん。そうだよなあ。でもまあ……えっと。ズバリ言うわよ?」

「ず、ズバリ?」


 いけねえ。古いネタでタメ語で話しちまった。ちょっと思い切りが必要なんだよ、こういう話は。


「はい。ズバリと言うかぶっちゃけた話として、村の人達は全員大陸に戻してあげるべきだと思うんです」

「はい?」

「んと。この世界というか……う~ん。なんていうか人間って近親結婚を重ねて血が濃くなることが良くないって話聞いたことあります?」

「えっと、そうですね。兄弟間の結婚などは弱い子供が産まれるとかで禁止はされていますが……血が濃い? ですか?」


 お、良かったやっぱ経験則で兄弟間での結婚は駄目なんだな。なら話はわかりやすいだろう。


「兄弟間もそうですが、親戚同士とか近い者同士で結婚を続けていくとやはり同じように問題が出てくるんです。その上で、この村を見てみて家の数もかなり減って、人口も200人居ないんじゃないですか? そしてこの島に来てから200年。村長などのエルフとか長命種の人達はいいと思うんですがね、人間種は20年ごとに新たな世代が出てくることを考えると、この少ない村の中で親戚同士の結婚が続いたり、だんだんと血が濃くなってると思うんです。実際問題になるくらいの人もかなり出てきてるんじゃないかと」

「……そんなに問題なんですか?」

「専門家じゃないからなんとも言えないですが、危険だと思います。もしかしたら奇形の子供とか精神に異常をきたした子供も多く産まれるようになるかもしれません。それを考えればきっちりと過去の問題を精算したいなら、彼らが大陸に帰る話を進めていく事が村の人達には最善じゃないかと思うんです」


 話を終えると、ネライ子爵は困ったように考え込む。村人を大陸へ引っ越させる為の船の準備。大陸へ帰った村人を受け入れられれる場所の提供。子爵1人で決められるような問題ではない。


「その難しい事を必死で考えてなんとかするという約束をして、王国との折衝を一手に引き受けてそのために行動をしていく。村のために何かを真剣にやるっていうのが、僕は一番だと思いますよ」

「そう……ですね」

「ただ、その血が濃くなる話とか、そういう知識がこの島の人達にあるかはわからないんで。移住の説得からものすごい大変だと思いますが」

「彼らにとっては、この島が故郷ですものね」

「はい。ただ、こんなアンデッドが居て、食べ物も魚介類や木の実、畑で取れる少しの野菜。生きていくにはかなり厳しい環境ですので、受け入れてほしいですよね」


 そうなんだよな。故郷を捨てるっていうのは、どんな故郷でも抵抗はあるだろう。礼を言って俺たちの間借りしている家から出ていくネライ子爵を見ながら、ふと大事なことを思い出した。


「すいません、子爵。言うのを忘れていたのですが……」

「はい?」

「こういうのはハヤトが得意です。きっと協力してくれると思うので使ってあげてください」

「ハヤト君が?」

「はい、ハヤトにとって子爵は尊敬してる学院の先輩なんです。きっと手伝いたいって思うと思いますよ?」

「えええ??? 尊敬ですか? で、でもわかりました。ハヤト君に相談してみますね。ありがとうございます」


 ネライ子爵が出ていくと、何か言いたげなみつ子がじっとこっちを向いてる。


「えーと?」

「なんか悪い顔してまっせ、省吾先輩~」

「ふひひ。ハヤトも今じゃ国の人間だしね。働いてもらわないと」

「まあね、巧妙に巻き込まれていますもんね。私達」

「でしょ? ま、少しくらいはね」



 実は今回の血が濃くなるという話は、みつ子が読んでいた過去の勇者のノートに記載されていた問題でもある。ようやく嫁自慢の項が終わったようだ。

 ユタカも数世代なら問題ないが、あまりに長くなることはやはり危険視していたようだ。この話はシャーロットさんなども聞いているのかは解らないが、将来的には村の人達は大陸へ返してあげるのが良いのかもしれないとは、俺も思うんだ。


 結果はどうなるかは解らないが、シャーロットさんとかにこのユタカのノートの話などをしたりサポートくらいはしてあげよう。




※少しゆっくりペースで進めております。

夜の執筆時間、ウクライナ情報のニュースが始まってるとどうしても目が離せなくなってしまいましてね。

あと、今回の話と、次回(予定)の話とか突然閑話休題的に入れたほうが良いかな?と始めたのですが、予定になかったので超悩みながら書いておりますw アップできたら明日行きますが、駄目だったらごめんなさいね~

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