第277話 闇魔法問題

 シャーロットさんとしばらく話を楽しんだ後、そろそろ食事に帰るかという頃になり、家のドアがノックされファーブルとメイセスが入ってくる。


「あらあら、2人してどうしたの?」


 シャーロットさんが尋ねると、ファーブルが俺に向かって深々と頭を下げる。


「遅くなり申し訳ない。今回の村への帰還から、俺や村人の治療、あのオークたちをやっつけてくれたこと。何から何まで感謝する」

「気にしないでくださいよ。どうですか? 少し村は落ち着きました?」

「まだ門の修理が終わってないが、バリケードを築いている。なんでも警備も兼ねて門の近い家で滞在してくれると聞いた。重ね重ね申し訳ない」

「大丈夫ですよ、ハーレー……えっとあのドラゴンを門の近くに置いておけばアンデッドにあれを突破できるとは思いませんし」

「ふむ……助かる」

「父さん、例の……」

「ん? おお。そうだったな」


 ん? 例の??? ファーブルと話をしているとメイセスが、ファーブルに声をかける。今回の礼とかじゃなく何か他にも用事があるようだ。ファーブルは俺じゃなくシャーロットの方に話しかける。あれ? 俺たちもしかしてお邪魔かな? そんな事も一瞬頭をよぎる。


「今回のメイセスの願いでショーゴ様が大陸より来ていただいたのですが、その際に1つ約束をしたということで……そのう……」

「ファーブルさん。勿体つけた言い方はしなくていいわ。ユタカの残した物を渡す約束をしたのね。ショーゴさんは信用できます。かまいませんよ。……で、それで何を出せば良いのかしら?」


 さすがは村の長老だ。2人の母親でも有り、祖母でも在る。村長と言ってもファーブルもタジタジな感じだ。それにしても約束をしていたもの……。


 あ。


 俺もちょっと忘れてたわ。


「そのですね……闇魔法の……スクロールを……」


 シャーロットの質問にメイセスが少しオドオドしながら答える。途端にシャーロットの顔が厳しくなる。


「闇魔法を? ……なぜ?」


 ここでも、というかシャーロットにも闇魔法は忌法として考えているのだろうか。よく考えれば魔王との戦いの時にシャーロットも参戦していただろうし、当然といえば当然なのかもしれない。


「やはり、あるんですね。闇魔法のスクロールが」

「……そうですね。でも闇魔法と言っても色々あるでしょ? 私の所持しているものが貴方の希望するものと同じだとは限りませんよ?」


 言葉使いは相変わらず柔らかいが、なんとなくシャーロットに警戒感が浮かんでるのを感じた。ここは、ちゃんと説明するべきだろう。俺はゆっくりと自分の上に浮かぶ龍珠についての説明を始める。



 ◇◇◇


「龍の?……それは本当なの?」

「そこのノートにあるように、ユタカさんも、大陸にいる裕也も、ここに居るみつ子も、皆転生してくる時に女神に会っているのです。そこでいろんな説明を受けるようなんですが、僕はその記憶がまるでないんです。もちろん転生前の記憶はありますけどね」

「じゃあ、貴方は本当の役目というのは分からない、と言うわけね。とりあえず全部の龍を龍珠に変えたいと」

「はい。その巨人達の侵攻が本当であれば、やはり僕は黒龍の龍珠も呼び起こすべきだと思うんです」

「……そうね、先程私は貴方のことは信用できると言いました。黒魔法に関わる事とは言え、その信用を無かったことには出来ませんね。ちょっとまってて頂戴」


 そう言うと、シャーロットは部屋の床に敷いてあったカーペットを捲くり始める。俺たちは邪魔にならないように少し避けると、カーペットの下に床板が外せるような場所が露わになる。更にそこを開け、中から『つづら』のような箱を出してきた。


「そこに、スクロールが?」

「そうね、他にも色々ユタカの思い出の品物を入れては在るのよ」


 シャーロットは俺の問に答えながらつづらの中をゴソゴソと探る。やがて一本の巻物が出てきた。まさにスクロールだ。



「これはね、魔王を魔王たらしめるための魔法なの」

「はい?」


 なんだろう、この前フリ。


「人間、エルフ、ドワーフ、獣人、そして魔族。それぞれの人種が生み出された神話は知っているわね?」

「あ、はい」

「魔族の神も私達の崇める女神と同じ創造神が生みだした神の一柱なの。魔神と呼ばれて敵視はしているけど、邪神達と比べれば私達のサイドの仲間ではあるのね」

「そうですね。神話でも人族の成長のために敵が必要だと考えた神として記録されていますね」

「そうね。だから魔族の教会でしか神授されないものだとしても、決して邪悪なものでは無いと、私は思っているの」


 ううむ。話が見えない。しかしシャーロットさんはお構いもなしに話をすすめる。


「ただ、このスクロールはね。なんていうか少し特別なの」

「魔王を魔王たらしめる?」

「そう。魔族の中で産まれる歴代の魔王はすべてこの魔法を持っているの。そして一時代にその使い手は1人しか居ないと言われているわ」

「えーと……なんか凄い嫌な予感がするんですけど」

「そう。きっと貴方の想像の通りよ」

「魔王の……持つ魔法?」

「ふふふ」


 うわ……無理だ。これは頂けない。俺は困ったようにみつ子の方を向く。みつ子も最高に酸っぱい梅干しを口にしたような顔で首を横にふる。


「えーと……きっと僕が使っても龍珠が吸っちゃうんで……そうすると魔族の教会で新しくこの魔法のスクロールが神授されるという、話ですよね?」

「厳密に言うと、この魔法は教会で神授されるものではなくて、選ばれし魔族がこの魔法を得て産まれるという事なのよ」

「なんで、そんな物がここに?」


 シャーロットさんが言うには魔王を倒した後に、敗戦国の魔族をすべて根絶やしにと、多くの国が求めたということだった。でも、過去の勇者は魔族にも幼い子どもたちも多く、そんな事を受け入れられなかった。

 そしてこの魔法を持って生まれた魔族の子供からこの魔法を吸い上げることで、新しい魔王の出現を止められると、国々を説得して魔族の滅亡を防いだということだった。


 ……いやあ……主人公だな、ユタカさんよお。まったく敵わねえや。


 それにしてもそんなすげえ魔法を吸えるブランクスクロールよくあったな。ていうか。このままこの地でずっと封印しておこう。うん。それが良い。魔王が居ないなら魔族の所に行ってもまあ、なんとかなるかもしれないしな。


「やっぱり……これはこのままそっと隠しておきましょう」

「ううん。良いのよ。使ってもらって」

「いやいやいやいや。無理っす。そもそもそのプレッシャーに勝てねえっす」

「ふふふ。ユタカもね。魔族の人達に約束したの。こっそりね」

「約束?」

「100年程したらこの魔法は返すと。でも、このスクロール。何かに守られているのか全然処分も出来なかったの。それにここは大陸から遠く離れた島。届けるわけにも行かないし。誰かに覚えさせるのも、ちょっと出来ないでしょ? いい機会だわ」

「ま……マジすか」

「使ってもらって、それで消えるものなら、魔族の方々に返せるでしょ?」


 うううううう。


 やべえ。胃が痛い。しかし、返す約束をしたのなら使ってしまうのも問題ないってことだ。



 ……魔王が復活するかもしれないけどな!

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