第298話 ヨグ神の呪い

 みつ子の火球の爆風に乗り、ボストークから少し離れたところに着地しながらみつ子の魔法の効果を確認する。

 蛇の形を形成していた呪われた魔力はかなり霧散している様に感じる。頭の先が消失し、残りの首が元の首に吸収されていく。生き物では無いだけにダメージと言う概念がなかったら厳しいぞ。少しでも削れていれば良いのだが。

 いずれにしても今はノンストップで。


 俺は着地と同時に再び前に出る。こうなったら本体のボストークを殺るのが近道だろう。しかしグルングルンに半透明の蛇が絡みつく身体のどこを狙えば良いのか……。ガンガンと頭の中で頭痛が痛む中、石柱に触れているボストークの腕を切り落としに行く。

 八相の位置からの振り下ろし。


 ガギャア!


「硬ええよ! くっそ!」


 俺の力いっぱいの一撃だったがボストークの腕の3分の1程の位置で止まる。ボストークが石柱から引っ張った魔力の濃さが原因なのか、はたまた俺の斬撃が弱まってきているのか。

 

 だが今はそんな理由を考える暇はない。


 ボストークに巻き付いている蛇の胴から、突然新しい蛇が生えてくる。そんなもん! 俺の喉首向けて伸びる蛇の首を斬り上げ、そのまま振り上げた剣を切り返し、ボストークの腕に斬撃を叩き込む。確実に。ズレることなく、それでいて威力を減衰させることなく、先程の切れ目を入れた場所に正確に剣をぶちこむ。剣は少し深く進むがまだ斬れない。


 俺の接近に合わせてなのか再び蛇が生えている。今度はもう1首増えた、2首の蛇が俺を襲う。俺は足元から来たやつを剣で払い、顔に向かって襲いかかる蛇をなんとか首をひねって避ける。


「省吾君!」


 みつ子の合図で俺はそのまま斜め後ろに飛び退る。同時に顔を狙ってきた蛇にみつ子の火球が命中した。


 ドゥーーン。


 先ほどと同じ様に、火球で蛇の首は吹っ飛び、伸びてきた胴部分は本体に吸収されていく。これはもうボストークの意志とか関係ないような気がしてきた。


 だが。初志貫徹だ。着地と同時に地面を蹴る。そのまま再び剣を振り上げ渾身の一撃を振るう。3度目の正直だ。めり込む刃が皮一枚を残して止まりそうになる。


「フンガ!」


 止まりかけた剣を一気に引き、完全に剣を通す。よし。今度は行けた……。


 ん?


 だがボストークの伸ばした腕はピクリとも動かずにそこにある。石柱に触れていた手の部分のみがボトッと地面に落ちた。


 ……くっそ。


 チラリとボストークの方を見るが。おそらくだが………。


 既にボストークの命は無い。


 だとしたらあれは何だ?

 石柱からは更に魔力が溢れ出し続けている。とどまる感じは見えない。


「ガル! あれは何だ??? ヨグ神なのか???」


 チクショー。本当にヨグ神が復活したとでも言うのか。それだったらマジで対処の仕様がない。みつ子と一緒に逃げるだけだ。


『あんなのが神のわけがあるか』

『そうよ。私が成龍に成ればわけないわよ、あんなの』


 む……神では無いのか? それじゃあ何なんだこれは。


「じゃあ、コイツはなんだ?」

『蛇だろ』『呪いよ』


 ……ん? 意見が別れたな。とりあえずガルの「蛇」は見た目だけの話だな。きっと。メラの方がなんとなく分かってる感じがする。


「メラ。それでなんで呪いがあんな形をしてるんだ?」

『なっ! なんでメラに――』

『あの石柱に恐らく神の力を呪いの形で封じているの、それがジワジワと周りに漏れるように』

「ジワジワと……それをボストークが無理やり一気に引き出したということか?」

『そうね、呪いと言っても神の力、強すぎる力が一気に流れ出て、さらにあの男も取り込む事で、擬似的な生命のような核にした……と言うより、なったのね。おそらく』


 ううむ。訳が分からんが、なんか分かる気はする。人間などを作り出したのも神の力なら、その力の集合体に意思が宿り、1つの生命体の様になってもおかしくないということか。

 だが、神じゃなければ絶望的では無い。


 ……いや。俺の魔力はほぼほぼ切れている。やっぱり絶望的かもしれない。ただ、今も続けているがみつ子の聖魔法を混ぜた火球攻撃は割と効果が出ている。俺が前衛で牽制しながらなんとかならないか……。


 バシュッ。


 なんとか耐えていた<ミョルニル>もとうとう蛇に押しつぶされた。蛇はそのままボストークを胎内に取り込み完全に独立した魔物のように俺たちの方を見ながら鎌首をもたげる。


 ちくしょうめ。


 とりあえずは出来る限り魔力を回復させたい。

 <適視><剛力><過重>を切る。<過重>で発生する重さを切れば<剛力>を抜いてもスピードはなんとかなる。それにみつ子のバフで筋力は増強されている。剣への送る魔力斬の分の魔力も、みつ子の<聖刻>頼りだ。これでなんとか行かないと先が見えない。

 とっとと終わらせて酒でも飲みてえぜ。


 グッと蹴り足に体重を乗せる。蛇の不透明感は少しづつなくなって来ている。まるで実態が出来てくるようにその輪郭を濃くしていく。そして……頭が3つに分かれる。


 ……なるほど。キングギドラだな。問題ない。やってやるよ。


 そこへみつ子の火球が飛ぶ。俺の横を灼熱が通り過ぎる。それと同時に俺も突っ込む。


 ドゴーーン!

 ザシュッ!!


 みつ子の火球でのけぞる首を一気に刈り取る。これでどうにかならないか!?

 そんな思いも束の間。刈り取られた部分が更に分かれて首が形成されていく。さらに……。


 ガシュ!!!


「どぅあぅ」


 突如生えた複数の首に対処を誤る。脇腹あたりの肉をえぐられる。あまりの痛みに反射的に後ろに下がる。次々に噛み付いてくる蛇を必死に剣で弾きながら下がっていく。

 幸運なことに蛇はまだ場所をそこまで移動できる感じじゃないのか。ある程度下がると追撃は止まる。


「大丈夫???」

「大丈夫大丈夫。うん。全然平気。ちょっと抉られたくらいだぜい」


 と言っても強がりだな。死ぬことは無いが……せっかく貯めようとした魔力が<強回復>に無理やり使われてしまう。くっそ。しかも何だあれ。キングギドラどころじゃねえよ。ヤマタノオロチとでも言いたいのかよ。


 再び剣を構えると後ろからみつ子の回復魔法が飛んできた。一気に傷が修復していく。それと同時に<強回復>の稼働が止まるのも感じる。


 ああ……愛してるぜ。


 まだまだ行けるぜ。……いや。もうちょっとだけ行けるぜ。

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