第107話 雑事

 西門にたどり着くと、門番は大抵の門番がするのと同じようにジロジロと狩った獲物をみる。


「ん? ウルフも食うのか?」

「一応食えるらしいんで、スラムの教会の炊き出しに使えるなら寄付しようと持ってきたんですよ」

「なるほどな」

「金銭的な寄付とか出来るような立場じゃないんで」


 ん。そう言えば門番は第2警備団だったか。まあ、みんながみんな俺の事を知ってるわけじゃないんだろうな。門番担当はなんとなく階級低そうだし。



 フォル宅に向かう途中に商店街に寄り、野菜などをどんどん買っていく。なんとなく鳥のスープを作ってやろうと思って入るのだが、多分俺の知識だと水炊きみたいな物になりそうだな。鍋も一応買ってみた。


 フォル宅に付くと時間も時間だったからか、すでに母親が料理をしていた。玄関脇が土間になってて、そこで薪を燃やし何処からか拾ってきたような鉄格子を五徳代わりに火の両側に積んであるレンガの上に乗せてある。


「すいません。遅くなっちゃいましたね。鳥でスープでもと捕まえてきたんですが、まあ明日にでも食べて下さい」

「申し訳有りません、怪我を直してもらった上に食材まで。本当になんて言っていいか……」


 氷室は有るか聞くと、一応小さくて古いのが土間の隅に置いてあった。壁に付いてる感じなのでもともと備え付けなのだろう。しかし魔石を買えないため、何年も使って無くて使えるかわからないと言われる。


 鞄から何個か魔石を出して魔石ボックスに放り込むと、魔法陣に魔力が流れていくのが見えた。コレは使えそうかな。


 振り向くと、再び母親が涙を流しながら、魔石までありがとうございますと言ってくる。だんだん慣れてきた。夕食を一緒にどうですか? と聞かれるが用事があるのでと丁重にお断りしておく。


「あと、明日から何泊かフォル連れ出していいですか? 少し狩りを教えておきたくて」


 少し心配そうな顔をしていたが、フォルも行きたそうに母親にお願いすると許可を貰えた。母親ももう少し良くなったら仕事に行くのだろうが、そうなると妹がちょっと心配に成る。リンクの家にでも連れてって面倒見てもらうとかもありかもしれないな。


 フォルと明日事務所で待ち合わせの約束をして、家を出た。




 そのまま教会にウルフを持っていく。時間的に扉が閉じていたがノックをしてしばらくするとシスターが出てきた。女司祭なのか? たしかルティエさんって言ってたっけ。


「こんばんは、無事に出ていらしたのですね。荷物の方はお友達という方が……」

「荷物は受取りました、今日は狩りでウルフを捕まえたのでもし使うならと思いまして、友達の裕也が前に教会に持っていくと言っていたので」

「え? まあ。ユーヤ様のお友達だったのですね!」


 ん? なんか食い気味に来たな。裕也はそんな信用されているのか。まあそれでこっちの信用を得られるならなお良いな。中へどうぞと言われ教会の中に入っていく。血はもう滴っては居ないが、一応汚さないように気を使い中に持っていく。


 氷室まで運んでもらって良いですか? と聞かれ問題ないと運ぶ。フォル宅の小さな氷室を見た後だと、部屋に成ってる氷室の大きさにはちょっと感動する。あのとき裕也はかなり持ち込んでいたようだが、今は1匹吊るしてあるくらいだった。フックが有ったので持ってきたウルフを吊り、氷室から出た。


 なんとなくフォルから聞いた話で、面倒くさい慈善団体のイメージも少し付いてしまって居たため、それではと立ち去る。ルティエさんは少し話をしたそうな感じだったがまあ、また持ってきますよと言って教会から出ていった。




 明日からちょっと泊りがけでフォルのレベル上げを予定しているので食材を買いたかったがちょっと時間が遅かったようだ。明日の朝にでも買ってから行くか。


 そう言えば、フェニード狩りに行った時にルベントが持っていた地図。アレが欲しいな。

 そう思い、なんとなく商業ギルドに行ってみる。


「地図は、これですかね? 冒険者ギルドの物と同じだと思いますが」


 いつも対応してくれる受付の女性は仕事が終わったのか居なかったが、商業ギルドに入っていくと奥から男性の職員が出てきて対応してくれる。


 見せられた地図は多分同じだと思う、制作の年式とかは解らないが。ゲネブ周辺の簡単な地図でかなりザックリではあるが出没する魔物の情報も書いてあるものだった。商業ギルドでは、冒険者ギルドに属さない狩人などもやってくるので置いてあるのだと言う。


「あ、これです。はい。ありがとうございます」


 地図のお金を払い、ついでに口座の残高を確認させてもらう。ぬう、思った以上に入ってる。ロッカーの販路を拡大している間は口座に振り込まれ続けるのかな? やはり助かる。こんなまったりフォルのパワーレベリングなんてやってるのもここら辺の余裕があるからだもんな。


 少しお金を下ろさせてもらい、商業ギルドをあとにした。




「やっぱり我が家が一番!」


 二週間ぶりにサクラに身を任せ改めて牢から出れたことを実感する。

 今日捕ってきたキジの魔物をフォルにわたすとき脚を一本だけ自分用に取っておいたのでそれをただ焼いて食っただけだが、久しぶりに我が家で自炊しての食事は、なんというか自由を感じる。自由がなによりだ。


 サクラで地図を見ながらどこでレベリングをやろうか悩むが、あんまり知らない場所はあれか。カポの集落の寄合小屋を基点にするか。あわよくばマンドレイクも見つかるかもしれないしな。宿代も掛からない。


 少なくとも裕也の所に送ってある程度頑張れる位にはしたい。リンクのところのスティーブは恐らくそのまま送っても大丈夫そうだし。モーザはどうなんだろう。父ちゃんが警備団の人間なら初期の戦闘技術は仕込まれてそうだよな。


 それでももう冒険者は辞めちまってる。次に向けてどんどん動かないといけないが、なんだかやることが多くて何から手を付けていいかわからない。


 うん、とりあえずパワーレベリングから帰ってきたら、オットマンを買おう。

 サクラに合う可愛い奴が見つかるといいな。




 そして、次の日から3泊の合宿をした。当初は2泊の予定だったが、調子に乗って一泊増えてしまう。

 フォルの訓練は結果的にはまずまずだったのでは無いだろうか。レベルも5つほど上がり、とりあえずフォレストウルフは1人でも殺れるようになった。行けるかなと思いキラーエイプと戦わせようとしたが、キラーエイプとはまだまだ厳しそうだった。


 俺は回復魔法を持ってないからな。慌てて<ノイズ>を掛けたがかなりヒヤッとした。フォルは半泣きだった。ごめんな13歳なのに。


 みてるとやはり俺や裕也のように転生者特典的な祝福や加護が無い人間がスキルを生やすのも中々難しいのかもしれない。と言っても3日やそこらでそこまで期待するのは無理なのかもしれないが。レベルが上ることで身体能力はある程度伸びているようだが、フォルはそもそもの性格があまり戦闘に向いていないのかもしれないな。

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