第108話 サクラ商事
フォルのパワーレベリングから帰った翌日。フォルには休日を与える。少しやることもあるし、1人で動きたいところだ。
まず。朝の仕込みをしてるジロー屋に行き、事務所の賃貸契約を済ませた。家賃の支払いは商業ギルドの口座からの自動引き落としが出来るらしい。何気にそういうのは現代日本的で進歩してるなあと思ったが、こういうのは同一ギルドで同一の街のギルドの口座を持っていないと出来ないらしい。しかも商業ギルドの職員が手作業で行うサービスのため、手数料がそれなりに発生する。
手続きはオヤジの方でやっておくと言われたが、商業ギルドに行く用事があるからと書類を持って商業ギルドに向かった。
「口座引き落としの手続きはこれで大丈夫です」
「ありがとうございます。それから商業ギルドの登録なのですが、出来ますか?」
シシリーさんから俺が商業ギルドの受付の子も組織の人間だと気が付いた事を聞いているのだろうか、以前のように別の職員に説明を変わったりせずに、そのまま一緒に個室ブースに行き手続きの対応をしてくれている。名前はサラ。組織は女性ばっかりなのだろうか。
「大丈夫です。屋号はどうなされますか?」
「ん~。なんとか商会みたいな感じですかね?」
「そうですね、普通は開業主の名前をつけますが……」
「自分の名前をつけるのが嫌で悩んでいたんですが」
「何となくそれ解ります」
うーん。一応候補は考えてきたんだけどな。
「サクラ商事かな? と」
「さくら、ですか? どういう意味ですか?」
「ん~。実は僕の家のソファーにサクラって名前をつけたんです。」
「そ、ソファー……にですか?」
あれ、この子サクラの事分かってないなあ。
「はい。ソファーです。もの凄く座り心地が良い最高のソファーで、いつも僕を癒してくれるんですよ。こんな世知辛い世の中でしょ? やっぱりこういう心の支えって必要だなって実感してます。サクラは仄かに赤みかかったレザーがとっても上品な色合いなんです。買ったときは中古のソファーだったんですけど、却って使い込んであってよく革が馴染んでいて、もう今が旬って感じですね。こんな良い子を何で手放したんだろうって謎はありますけどね、きっと僕に逢う為だったんじゃ無いんかと今は思ってます。今度サクラに良く似合うオットマンを買ってあげようと思ってて、それで今日帰りにランゲ商会の家具屋を覗いてみようかなって思ってるんです」
「あ、はぁ」
「ダメですかねえ?」
「え? いや。いいと思います。それで登録しますね」
よし、会社の名前も決まりだな。
「たしか、冒険者ギルドの様な仕事とかも何でもやられると言う話でしたが」
「そうですね、人材派遣とか考えています。多業種に対応できる人材を育成していこうかなと。まあ今は自分しか派遣できませんが」
「なるほど、面白い考えですね。あ、ちょっとお待ちくださいね」
そういうとサラさんはブースから出て行った。なんだ? と思っていると直ぐに書類を持って戻ってきた。
「今、ギルドの会員の居酒屋なんですが給仕スタッフが突然辞めてしまって急ぎ代わりの募集をしているのですが……中々集まらなくて。たとえば繋ぎで新しいスタッフを雇うまで手伝って頂くとかも可能でしょうか」
「居酒屋ですか? 良いですけどあまり長くとかだと厳しいかもしれませんね。給料が安くて人が来ないとかですか?」
「給料自体は普通なんですが、店主が少し気難しい方のようで」
うん。めんどくさい予感。
でもなあ、こういう仕事でも請け負って行かないと信用も増えないだろうしな。
「わかりました、とりあえず一週間、その間に新しい人が見つかればそこまでと言う感じでどうでしょうか」
「それで構いません。とりあえずその旨を伝えてみますので、明日もう一度いらしていただいていいですか?」
「わかりました。よろしくおねがいします」
サラさんも、気を使ってくれているんだろうな。ありがたい話だ。
しかし、フォルはどうしようか。まあ、居酒屋って言うくらいだから夜の仕事だろうけど。読み書きとかは出来るのだうか。明日聞いてみるか。
商業ギルドを出た俺は、当初の予定通りランゲ商会の中古家具を取り扱っている店に向かう。店に入ると直ぐに店員が顔を出す。ランゲ爺さんの秘書?のナターシャさんと以前この店に来たときに対応してくれた店員さんだった。
「これは、ショーゴ様。今日はどんな家具をお探しでしょうか」
「あ、はい。今使ってるソファーに合うオットマンを探そうかなと」
「オットマンですか? わかりました。それではこちらにどうぞ」
そう言うと、ソファー等が陳列されている場所まで案内される。
何個かのオットマンがあるが微妙にレザーの感じが違う。まあ、そこは難しいのかも知れないが現物を見てみると微妙に高さが違ったりする。そういえばサクラの高さを測っていなかったなあ。ううむ。適当に買って合わなかったら嫌だしな。
悩んでると、今のソファーのレザーは何を使っているか聞かれる。ちょっと素材は解らないが何となくサクラの特徴を伝える。すると、何となく俺の買って行ったソファーを思い出したようで、たしかブラットバイソンのレザーを使ったやつだったかもしれないと言われる。
新品を取り扱っている店舗にもオットマンは売っているが、基本オットマンはソファーとセットで売っているらしく、単独のものは少ないかもしれないと言われる。この中から選ばないといけないのかな。
そんな事を考えながら、椅子の高さなどを確認してからまた選びに来ることにした。
ちょっとお昼には少し遅くなったがジロー屋に行こうか。
店に行くと、先客が居た。ピート一行だ。
「お、ギルドを騒がせた奴が来たな」
「ん? 騒がせたってどっちの話だ? 辞めた話? 狂犬の話?」
「どっちもだ」
どうやら俺が無事に釈放された事も情報としては広まっていたようだ。そもそも冒険者連中はどっちが仕掛けたなんて事は分かってた様で、すぐに出てくるだろうなんて話にもなってたみたいだが。ギルド長の暗躍までは知らなかったようだ。
「ああ、そうだ。この店の2階で事務所を構えることになったから、もし人手が入り用だったら声かけてくれよ。割安で受けてやるぜ」
「まあ、手に余る依頼ならそうするわ。ただ最近パンクの槍が良くなってるんだ。お前に頼ることもあんま無さそうだぜ」
「お、パンクがか?」
パンクの方を見ると、嬉しそうにこっちを見る。そう言えばフェニード狩りの時に槍の基本動作を教えたが、頑張っていそうだな。
「へへ。払って、戻して、突く。だろ? だいぶ馴染んできたんだぜ」
「おお、良いじゃん良いじゃん。ただ1ヶ月位で極められるようなもんじゃねえからな、もっと頑張ればそれだけ神槍に近づくぜ。がんばれよ」
「おう。俺はコレでAランク目指すぜ!」
うんうん、若いって良いな。
ピートはピート達で前に進んでいる。俺は俺で新しい事務所を構え商会の名前も決まった。定番の冒険者も辞めちまったがこれはこれで良いんじゃないかな。まだ仲間はフォル1人だけどな。これからドンドン頼りになる仲間を集めて楽しくやっていきたいぜ。
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