第111話 事務所の掃除とか
ゲネブ公と会った次の日、朝にジロー屋に行きレシピを教える。野菜などの分量は適当に決めたため作りながら決めてって貰うのが良さそうだ。具材を裏ごししたりの手間が有るため、出来るとしたら1日何杯かの限定になるかな。鳥はキジの様な物を使ったが他にも違う種類の鳥があるのだろうか。色々試してもらったほうが良いかもとオヤジに言っておく。
卵が普通に売られているから鶏は手に入るのかもしれないな。昔の日本みたく食用専門では作られず、卵を産まなくなった老鶏がしめられるのかもしれないが。
そうこうしていると、店の外に誰かがウロウロしているのを感知した。ジロー屋の前に来いと言っておいたのでおそらくフォルだろう。外へ出て中に招き入れる。
「朝飯は食ってきたか?」
「あ、はい。でもまだ食べれますよ?」
ジロー屋の中に呼ばれたせいで何かを期待している目でこっちを見ている。しょうが無い昨日の試作品のスープも残ってるし食わせてやるか。一応オヤジに聞いて麺も一玉いただく。
フォルが食べ終わると2人で商店街に向かう。今日は事務所の掃除などをして使えるようにしたい。バケツや雑巾、箒等を買い。ついでに昨日寄った中古家具屋に行く。事務所の家具も欲しいなと。高いもので無くて良いのだが。何気にこの世界の家具はすべて手作りだから中古でも馬鹿に出来ない値段になる。ドラマの探偵事務所とかにありそうな大きい机に回転椅子。それからお客さんと相談するようなソファーセット。そんなイメージなのだが……うん。完全に探偵事務所だな。
「いらっしゃいませ。オットマンですか?」
「いや、今日は事務所に置く家具を見せてもらおうと思いまして」
「なるほど、どの様な物をお探しでしょうか」
昨日と同じ店員さんに対応してもらい家具を見せてもらう。あまり高いのは……。と言うと嫌味のない笑顔で対応してくれる。フォルよ。こういう対応を良く見ておくんだぞ。
ソファーのセットは割りとすぐに決まった。2人がけのソファーで肘掛の部分が木で背もたれと座面に格子状にステッチの入ったレザーで出来ている。大分年代物の物だが大事に使われていたのかいい感じに年季が入っている一品だった。肘掛け部分のすり減り感も滑らかで良い感じ。それと同じデザインの一人がけソファーが2脚。あとは同じ材木を使ったローテーブル。完璧だ。しかも古い物だからとかなりの格安。3万モルズ也。
問題は俺用の机と椅子。子供の勉強机サイズのはあるのだが、俺のイメージしているのはど~んデカイ重厚な一品。少し稼げるように成ったら新品で探そうかな。
ふと見るとフォルは、暇なのかロッキングチェアで遊んでる。
「フォル。それも商品だからなあんま遊ぶなよ」
「了解ッス!」
とりあえずそのソファーセットをお願いする。お昼くらいに届けてくれると言うので事務所の場所を教えお金を払い店を後にした。
事務所に戻るとフォルと2人で掃除。簡単に箒で掃除をしたあとに2人でせっせと雑巾がけ。フォルも自分の事務所と言う意識があるのかしっかりやってる。必死にやってるとあっという間に時間が経っていた。もうお昼か。
やがて家具屋さんが手押し車でソファーセットを運んできてくれる。俺とフォルも手伝い、部屋の中にセットする。
うん。すげー良い感じ。ソファーセット1つで人の居場所っぽくなる。
探偵事務所風になるとやっぱ1階がカフェとかバーだったりするほうが格好は付くがそこまで贅沢は言わないぜ。
「でも兄貴。基本外で仕事するんだろ? なんか悩んでたみたいだけどそんな机必要なのか?」
「分かってねえな。何事も形からだろ?」
「へ? 形からなんすか?」
「そうだ。愛すべき家具が有れば、それだけ事務所に愛を注げる」
「はあ……」
「愛する事務所を維持するために、より一層仕事を頑張ることが出来る。そうだろ?」
「……はあ」
「よし、昼飯を食ったらまた掃除だ」
「え? だいぶキレイに成ったんじゃないっすか?」
む。フォルよ。あえてここは厳しくさせてもらうぞ。
俺は無言のまま窓に近づき、桟に指を這わす。そして指を見せつける。
「フォルさん。まだホコリが残ってますよ」
「ういい」
ジロー屋で昼飯を食べながら、フォルに俺が仕事で場所を外している時はここで手伝いをしてもらう予定だと話す。仕事なら何だってしますと良い返事だ。母親が火傷の時に料理などをしていたから何とかなりますとか言ってるが。大事なのは接客だ。滔々と言って聞かす。
午後はフォルに掃除の続きをしておいて貰いつつ、商業ギルドに昨日の居酒屋の件がどうなったか聞きに行った。
「はい、一週間でも良いのでお願いしたいとの事でした」
「わかりました。じゃあ今日から行きますね」
そういう事で、今日の夜からか。サクラ商事の初仕事だな。
商業ギルドで、サラさんに子供の読み書き等の本を売っている店を聞き、帰りに買ってから事務所に戻った。ノートも欲しかったがなんか高かったのでわら半紙の様な安めの紙を大量に購入した。明日から少し勉強も教えようと思う。
事務所に帰ると、フォルはまだ掃除をしていた。うんうん。ちゃんとやってるな。
ローテーブルに紙と勉強用の本を置くとフォルが興味津々で近づいてくる。
「フォルは読み書きは出来るのか?」
「え? 名前くらいなら書けるっすよ」
「そうか。出来ない前提で買ってきちゃったが無駄にならなかったな。明日から読み書きとあと簡単な計算が出来るように勉強するからそのつもりでな」
「そんなの必要っすか?」
「必要だろ? 知らないと出来ない仕事も有るだろうし。家で習ったことを妹にも教えてやれ」
「おおお。やるっす! やりますよ」
夕方から居酒屋へ行かなくちゃいけないからと。今日はフォルを家に帰す。誰も居なくなった事務所でソファーに身を沈める。うん。サクラほどじゃないがなかなか良い座り心地じゃないか。
事務所内を見渡して、少しづつ形になってきた我が城に満足する。
店は東地区の居酒屋が多い場所にあった。裕也に紹介してもらった「あすなろ亭」の近くだ。ていうか最近行ってないなあ。しかし酔って街を歩くのはちょっとトラウマがあるからなあ。食事だけで行く感じか。
店の名前は「クレイジーミート」ガッツリ肉系の臭いがする。俺の事を知ってる冒険者とかも来そうな予感だな。
店は結構広い間口で、路上の方にテーブルが4卓並べてあり、上に椅子が乗せられている。店がオープンするときに椅子を下ろして外までやる感じなのだろうか。
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