第148話 クロアからの依頼

 商業ギルドに着くと、受付のサラさんが恐る恐る聞いてくる。


「ショーゴさん、それは……?」

「ああ、僕もよく解らなくて、これが何だろうと鑑定してもらおうと思いまして」

「はあ……ショーゴさんもわからないんですか?」

「はい、今朝起きたらなんか浮いていて……」

「今朝ですか?……魔法ですかね?」

「うーん。触るとピリッと静電気が走るんですよ」

「大丈夫なんですか???」

「そう願っているんですが」


 以前も通された個室ブースに行き待っているとグリュエさんがやってきた。以前<辞典>のオーブなどを鑑定してくれた鑑定師さんだ。


 グリュエさんも玉をみて一瞬ぎょっとするがすぐに平静を装い、向かいの椅子に座る。


「えーと。その玉を鑑定して欲しいと言うご依頼でよろしかったですか?」

「はい、何なのか全く見当が付かないので見てもらいたくて」

「分かりました。少々お待ち下さい」


 そう言うと、俺の上を漂う玉を凝視する。


 ……


「……すいません、なかなか高位の物らしく、私では鑑定できませんでした」

「え? 駄目でしたか?」

「申し訳有りません」


 なんと、グリュエさんの鑑定レベルだと鑑定しきれないと言う。これは……なんだ? 呪いの類では無いか? と確認したが、そういった呪いは内容が鑑定できなくても呪いというのは解ると言うので問題ないのではと言われる。その言葉に少し安心した。


 グリュエさんの知る範囲だと、ランゲ商会の先代が私より鑑定レベルが高いと思うということで聞いてみては? と言われる。俺がランゲ爺さんと懇意にしているのを知ってのアドバイスだろう。確かに爺さんは名うての商人の様だ。ハイレベルの鑑定を持っていてもおかしくない。


 鑑定が出来なかったという事で鑑定料は良いですと言われるが、鑑定も技術だ。技術には対価を支払いたい所だ。無理やりお金を払い今度はランゲ商会の家具屋に向かった。




 今日もランゲ爺さんはナターシャさんと執務室の様な部屋に居た。部屋に入るとやはり爺さんも俺の頭の上を漂う玉が気になってしょうがないようだ。ナターシャさんは護衛も兼ねているのだろうか、やや警戒するような顔になる。


「ショーゴ君……それは?」


 なんか、同じ様な説明にゲンナリし始めているが、そんな事は言ってられない。商業ギルドでランゲ爺さんに鑑定をしてもらったらどうか? と言われた話などをする。


「ふむ……ワシの鑑定でもよくわからんな」

「駄目、ですかあ」

「「珠」という情報だけは入ってきたのだが」

「玉ですか、まあ。玉ですよね」

「ん? 珠じゃ。玉ではないぞ?」

「珠ですか?」


 まあ、呼び名はどうでも良いのかもしれないが。玉より珠の方がハイソな感じはするな。なにか宝石的な物なのか。そう考えるとぐっと呪い感が減る。


 宝珠、真珠……そのくらいしか思いつかなかったが、チョットだけ見直すことにした。球とか弾じゃなくてよかった。霊もタマって読むか。


 ランゲ爺さんに礼を言って店を出る。

 もうあとは、裕也が戻ってきたら見てもらうくらいだな。悪さをしなければいいや。




 事務所に戻ると、意外な来客に驚く。クロアだ。

 クロアは自称ゲネブの新進気鋭の冒険者パーティーのリーダーということで、冒険者登録をしたばかりの頃に一度飯をおごってもらったことが有る。その後割と親しくして貰っては居たが、以前に会った時にBランクの試験のために王都に行くと言っていたが。


「あれ? クロアさん。どうしたんですか?」

「お、ショーゴ帰ってきたかっ……て。なんだそれ?」

「朝起きたら浮いてました。以上」

「は? 以上って……なんなんだそれ?」

「ふう……もう朝からこの説明ばっかしてるんですよ」


 そうは言ってもクロアにとっては初めて見るものだもんな、文句を言ってもしょうがない。再び同じ様な説明を繰り返す。クロアは興味深そうに玉……いや珠を眺めている。


「で、どうしました?」

「ああ、この度めでたく俺たちはBランク冒険者になってな。祝ってもらおうかと」

「おお、無事になりましたかおめでとうございます」

「いや、突っ込めよ。まあBランクにはなったが今日は別の用事だ。仕事を頼もうと思ってな」

「お、マジすか? ありがとうございます。何だってやりますよ」


 紹介したい仕事というのは、教会の聖職者達のレベル上げだった。クロアが知り合いの司祭に頼まれたらしいのだが、Bランクの冒険者の依頼料は高めになる。友達価格でその司祭を1人連れて行くくらいなら良いが、上手く行けば結構な人数のレベル上げをお願いしたいらしい。ギルドに依頼をするとどんな信仰をしている冒険者が来るかわからないのも問題らしい。


 そこで思い立ったのが、俺だ。


 クロア達がゲネブに戻ったら、俺がギルドを辞めて独立したと言う噂を聞いてはいたようだ。気にしてくれていたのを聞くと嬉しくなるな。

 


「教会の司祭さんたちは、総じてレベルが低めで魔力量も育ってないって話は聞いたことありますね、スラムの教会の奉仕も一日数人しか回復できないとか」

「そうなんだよな、仕事として毎日回復魔法は使っているから魔法のレベルは上がってるらしいが、このところレベルを上げることをしていないようで、高位の回復魔法が使えなかったりする問題が出てきているらしい。それを本部の教会で問題視してなんとかするように指示があったようだ」

「でも教会にも聖騎士だったりの戦いが出来る人も居るんでしょ?」


 しかし答えは芳しくなかった。昔の荒れていた時代は教会も自衛手段として多くの聖騎士と呼ばれる武力を囲っていたらしいのだが、やがて形骸化して行き、今では貴族の3男4男などがコネで聖騎士として居る程度になってしまっているようだ。


 王都のパテック王国の本部や各国の本部にはある程度戦力が残っているのと、教会の本拠のあるヴァシュロニア教国では教皇が王を勤めているため国の兵士が聖騎士として扱われているなどの例外もあるが。



 まあ、仕事としては美味しそうだ。本部からはレベルは15を目処にと言われているらしいが10くらいまで上げてもらえれば良いと言われる。完全に俺向きじゃないか。<ノイズ>で気絶させてとどめを刺させる。それを続けるだけだ。あれ以来、モーザにも<ラウドボイス>を覚えさせているので二組で出来る。


 うまく行けば、定期的に仕事も入りそうだ。


 クロアに仕事を受ける旨を伝えると、後日司祭の知り合いを連れてきて細かい内容を詰めようという事になった。



 元々はゲネブの冒険者ギルドのギルド長が変わりまともなギルド長になったという事で、俺に戻ってこさせ、指名依頼をさせようと考えていたようだが。ちゃんと事務所を構え従業員も居るのを見て誘うのは止めたようだ。


 ギルド長は死刑なのかな? なんて思っていたが、冒険者ギルドと言う大組織と、貴族であるギルド長の祖父の圧力で死刑までは至らなかったらしい。今は強制労働を強いられ、未開の地の開発に駆り出されてると言う噂らしい。


 ちょっと連行されるところを見たかったが、まあ色々忙しかったからな。かまってられねえんす。


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