第149話 お試しパワーレベリング
次の日。朝起きるも俺の上にはあの珠がまだ漂っていた。当たり前のように珠におはようと挨拶をして起きる。
今日、スティーブは朝からボストン農場に行っている。冒険者の時に仲良くなったトゥルに頼んで口を利いてもらったんだ。スティーブにはクロアの話にも有ったが、ギルド長が変わって今はあのエゲツない保証金が無くなっている話をしたが、どうせ15歳になるまでランクが上がることもないし、うちに居たほうが強くなれるからと所属を続けている。
ウーノ村の訓練時、一度ハヤトも一緒にダンジョンに行ったようで。自分と同年代のハヤトの実力を目の当たりにしてやる気を更に燃やしているのも理由にあるようだ。
モーザも頼めば畑仕事などもやるが、やはり士爵の子だけ有って農作業などは抵抗がある雰囲気をにじませている。そのためなるべく抵抗のない仕事を探しては居るんだが。今回のパワーレベリングなら良いかもしれないと思ってる。
やがてクロアが1人の司祭を連れてやってきた。
「彼がブラン司祭だ。今回の依頼人だ」
クロアが連れてきた司祭を紹介してくれる。司祭は俺とモーザが黒目黒髪なのを見てなのか、2人の若い年齢を見てなのかちょっと驚いた顔をしている。大丈夫なのか? という顔でもあるかもな。
「よろしくおねがいします。省吾と言います、こっちはモーザです」
「はあ、こちらこそよろしくおねがいします……」
答えながらもブラン司祭は目を泳がせながら、不安の色を隠せないでいる。ちらっとクロアを見ると察したクロアがフォローに入る。
「見た目は若いが、信用していいぜ。そこらの冒険者より強いんだ。仕事もきっちりしてる。話しただろ? 冒険者時代もGランクから指名依頼をボンボン取って信用度も有る。今回の依頼にゃうってつけなんだ」
「ははは、ブラン司祭のお気持ちは分かりますよ。見ての通り若造ですしね、黒目黒髪ですし」
俺がそう言うと、ブラン司祭は慌てたようにいう
「い、いえ。そこは気にしてないのですが、その上に浮いている……」
あ……そうだな。俺らの事じゃないか、気になるのは。
この珠も2日目にして馴染んでしまっていた。
再び説明をする。ブラン司祭は邪悪な気配は感じませんねと納得して受け入れてくれる。不思議そうな顔でじっと珠を見ていたが、さっきまでは視線を送っていいか悩んでいたのかも知れないなあ。
でもまあ、聖職者の人に邪悪な気配は無いと言われると安心感があるな。うん。
とりあえず試しにこのままブラン司祭を連れてゲネブの外に行ってみることになった。クロアも興味があるらしく付いてくるという。
まだ昼飯には早いが、帰ってくるのは少し遅くなりそうな気がしたので、1階のジロー屋に行き、おにぎりを人数分作ってもらう。おにぎりはこの世界に無かったが最近ジローのオヤジに頼んで作ってもらうことがたまにある。
この世界の米は長粒米のため、おにぎりとしては微妙なのだが携行食としてはなかなか具合が良いので助かってる。長粒米はどうやらそのままではおにぎりの形に固まらないので色々工夫して麺に使う小麦粉を使ったりして焼きおにぎりの様な感じでなんとか固めてもらっている。まあ。これはこれで旨い。
ただ、用意に時間がかかるから必要な時は前日に言っておいてくれとオヤジがブツブツと不平をこぼしていた。たしかにまあ、そうだな。今日は突然だったから申し訳なかったか。
ゲネブの西門から出ていく。司祭を含めた4人で行くとどうも目立つようで門番に外に出る理由を尋ねられた。これから何度か聖職者を連れてレベル上げの為に狩りに行く予定だと言うことを説明して外に出た。門番は日誌の様なところに申し合わせ事項として書いておいてくれるという。
それでも一時間は森の中を歩いただろうか。ブラン司祭の体力ではとても走って進むことは出来ないのでしょうがないが。移動で大分時間を使ってしまうのはもったいなく感じる。
やがてフォレストウルフの気配を察知したクロアが教えてくれる。やはり俺かモーザのどちらかが<気配察知>を覚えないと色々不便だな。<気配感知>は有るのだがこれは範囲が狭すぎてこういう時にはいまいちだ。
「まあ、クロアさんは見ててください」
もしかしたらクロアさんがフォレストウルフの手足を切って動けなくして止めを刺させるような事をし始めるかもしれないからな、釘を差しておく。
キャン!!!
森から姿を表したフォレストウルフに素早く<ノイズ>で気絶させる。
「へ?」
「は?」
ブラン司祭もクロアも俺が何をしたのか解らなかったようだ。
「はい、それでは止めをさしてもらって良いですか? 剣が無ければ貸しますので」
「あ……ああ、お願いする」
もしかしたら聖職者は刃物を使わないのかもと思ったが、ブラン司祭は特に躊躇うこと無く剣を受け取る。そして腰の引けた体制でフォレストウルフに斬りつける。一撃では殺すに至らず何度か振るってようやく倒すことが出来る。
「おい、ショーゴ。<パラライズ>でも使ったのか?」
「ん? うーん。まあそんな感じですかね?」
「おい、何だよ教えろよ」
「いや~。申し訳ないですが飯の種ですので。うちの企業秘密なんです。まあ、その<パラライズ>みたいな物だと思ってください」
「ううむ……」
狩ったフォレストウルフはどうしようかと聞くと、特にいらないと言われる。スラムへの炊き出しをしているのはスラムに有るあの教会だけのようで教会としては特に集めてないのだろう。腐って匂いが出れば他の獲物も集まるかもしれないとクロアが言うので時にそのままにすることにする。やはり裕也の言うような、命を奪った獲物はなるべく使うというのはなかなか難しい物がある。ゆとりが無いと出来ないのかもしれないな。
それから夕暮れまで同じ様にフォレストウルフを狩り続けた。ブラン司祭もレベルを2つ上げることが出来てかなり満足していたようだ。ただ。10まで上げるとなるとフォレストウルフだけではかなりしんどいかもしれない。もっと奥にいくとフォレストウルフの上位の魔物も居るが、そこまで行くと泊まりになるかもしれない。
もう少し魔物が多そうな場所などを調べてみることにするか。
「ショーゴさん、今日はありがとうございます。見る限りかなり安全にレベル上げが出来そうで良かったです。今度上の人間と話して教会の正式な依頼として出せるようにしますので」
「はい。了解です。ただフォレストウルフだとレベルも10くらいが限界かなと。15まで上げるとなるとあの魔物ではかなり時間がかかると思うのでもっと魔物の多い場所や、上位の魔物のいる場所を探さないといけないですね」
「そうですか。ただ戦闘に慣れていない者たちばかりなので、あまり危険な場所はちょっと控えたいのですが」
「うんうん。そうですよね。まあ、僕らも少し森を散策して良さそうな場所をさがしてみます」
「はい、お願いします」
流石に夕方まで狩りをして帰ってくると、もう良い時間だ。ブラン司祭はこのまま教会に帰ると言うので、クロアをさそってクレイジーミートで軽く飲んで帰ることにした。
当然クレイジーミートの面々からも、珠の事を聞かれたわけで……。
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