第173話 正月休みは旅行に 1
もうじき今年も終わる。教会でも年末年始にミサなどがあるらしく。レベリングも13月の24日に第8班が終了するに合わせ休みにし、1月は7日まで一週間休みにする予定だ。
この世界でもお正月はお祝いをするという。モーザとスティーブは、家でゆっくりするという。フォルは……まだ音信不通だ。そろそろフォルの母さんも気にしてるんじゃねえかな。
「みっちゃんは予定あるの?」
「省吾君と年越しするくらいかな?」
「それは了解」
まあ、2人とも転生? 転移?のせいで家族が居るわけでもないしな。
「エルフの集落までどのくらいかかるかなあ……」
「あーフォル君って言ったっけ? 龍脈無い所とか1人じゃ帰ってこれなそうだもんね。う~ん。シュワからゲネブまでロシナンテで一週間くらいだったかな」
「ロシナンテおっそ! 護衛任務の荷車と変わらねえじゃん」
「そういう子なんだもん」
確か、エルフの集落の護衛任務の時のメモ書きみたいなのをした気が……あった。ふむふむ。32日か。1ヶ月以上だなあ。走れば……10日あれば往復出来るかな? シュワの街まで3日で行ければ、意外とエルフの集落までの森の中ってヌタの集落の先は道なき道を進んで6日だったけど、2日あれば行ける気がするんだよな……ううむ
ゲネブ→(1日)→ウーノ村→(1日)ポロ村→(1日)→シュワの街→(1日)→ヌタの村→(2日)→エルフの集落。こんな予定だと6日でエルフの集落か……それで1泊とかなあ。ううむ。単純に往復で12日か。休日足りねえな。
「ブラン司祭に言って少し来年のスタート遅くしてもらうか」
「もうだいぶ進んでるよね、全部で何人くらいレベリングするの?」
「下手したら100人近いみたい、大聖堂だけでかなりの聖職者が居るしね、回復魔法を覚えていない見習いの人も回ってくるみたいだから」
「そんな居るの??? 1年くらいかかりそうじゃん」
「ゲネブ教区の村に駐在している司祭さんも順次回す予定らしいのよ。まあ、途中で少し休憩しないとモーザが壊れるかもな」
モーザもエルフの集落へ行くと言うとちょっと来たそうな顔をしていたが、正月はやはり家族と過ごさないとという事で諦めていた。フォルの母親、スフェールに正月にフォルの様子を見にエルフの集落へ行くと伝えると、もしまだ帰ってこないようならと手紙を預かる。
ブラン司祭は少し遠くに行く話をすると、それでは帰ってきたら声をかけてくださいと言われる。恐らくモーザは大丈夫なので1人ならレベリング出来るのでとそこら辺も調節した。
「二人っきりで旅行ですね!」
「お、おう」
何やらみつ子が嬉しそうだ。初めはロシナンテを連れていきたいと言っていたがどう考えても時間が厳しくなる。まあみつ子はそれも解ってるんだろうけど、全然出番の無いロシナンテ。いつか仕事をしてもらおうか。
今年最後のレベリングを終えるとそのままゲネブを発つ。商業ギルドでお金を下ろしエルフの集落で何かあったら買い物をする予定だ。ブライト商会の4月くらいにある行商の邪魔にならない範囲でだが。
「それじゃ、ちょっと早いけど、良いお年を」
「なんだそれ」
「良い新年を迎えろって事だ。モーザは1月8日からレベリングよろしくな。スティーブちゃんとやるように見ててやれよ」
「問題ないだろ。お前らもちゃんと帰ってこいよ」
「おう、なんか良いお土産あったら買ってくるからな」
そうしてみつ子と2人でエルフの集落に向かって走り出した。
「流石に途中で1泊野営するからね」
「うん、ウーノ村の銭湯に入りたいねっ!」
「そのつもり。でも泊まるのは、チソットさんの所でいい?」
「うわっ。ケチか! モテないぞ!」
「マジか!」
出たのが仕事終わってからだからな。2時間も走ると日が陰りだす。暗くなる前にテントの設営を始める。しかしみつ子はテントを出さず料理を始めていた。
「あれ? みっちゃんテントは? 裕也に作ってもらわなかったの?」
「作ってもらったよ。でも2人なんだし1つで良いでしょ?」
「えっ!!! まままままマジですか?」
「うんっ」
……寝れるのか? 俺。
……
……
「省吾君起きて。そろそろ交代の時間」
「あ、ああ。ありがと」
問題なく交代でテントで寝ることになる。そりゃそうだ。夜番はテントの外で番するんだもんな。ちゃんと寝れた。一人で。ビバ<良き眠り>
次の日の夕方には無事にウーノ村に到着する。みつ子もラモーンズホテルで泊まりたそうだしな。そのままラモーンズホテルに宿泊して日本風銭湯を楽しむことにするか。
ホテルに行くとみつ子が宿を取る。フロントにはいつかの紳士がにこやかな笑顔で対応してくれる。
「それではダブルベットの部屋を1つで?」
「はい。お願いします」
……
……え?
少し困惑顔でみつ子を見ると、みつ子が嬉しそうに腕を組んでくる。
「2部屋は不経済ですからね♪ ケチケチ省吾君」
「え? いや。でも。ままままままマジですか?」
「ふふふ。そのリアクション2回目ですよ」
「お、おう」
うううむ。
裕也画伯の温泉画を眺めながら思案にふける。みつ子と同じ部屋に泊まるんだよな。ふう。全く故郷を懐かしめねえ。やっぱりこれって……そういう流れだよなぁ。俺の勘違いか? だけど、これで何も無く朝を迎えたらやっぱり「意気地なしっ!」とかになるのか? それとも何かを試されてるのかな。いや。みつ子の想いは聞いてるし、受け止めるつもりだし、そうだし。……でもなあ。だが……いやいやいや。しかし。ぬう。俺も男だ。うん。毒食えば皿まで? いやいや違う。据え膳食わぬは……。
少し茹だってしまった。
風呂から出ると、ちょうどみつ子も女湯の暖簾をくぐって出てきた。
!!!
くそう。湯上がりタマゴ肌が妙に色っぺえじゃねえか。
その後ホテルのレストランで2人で向かい合い夕食を食べる。
「うんうん、美味しいね」
「おお、そうだな」
「やっぱり、ここの銭湯は良いよね」
「おお、そうだな」
「……頭の中エロいことでいっぱいだね」
「おお、そうだな」
……ん?
「いやいやいやいや、今のナシ!」
「うふ。草食動物は肉食動物に食べられる運命なのです♪」
そう呟きながら、みつ子が俺の手を取る。全身の感覚が手に集まっていく。
くっ。やばい。マウントを取られまくってるぞ俺。
「はっ果たして巨象を喰らう事が出来るかな!」
やっとの思いで強がりの言葉を口にするが。みつ子は余裕の表情で俺の手を持ち上げ目の高さまであげる。2人の手の向こうからみつ子の目がじっと俺を見つめる。
「ふふふ。前世で私に彼氏が居たか居ないかそんな事はもうどうでも良いよね。でも。この世界で、この体がリセットされて。それから誰にも私を委ねたことはないの。」
「んぐっ」
「分かる? この意味」
「……うん」
「省吾君も……優しくお願いね」
ゴクリ。
小悪魔の様に笑うみつ子に。俺は勝てるのだろうか。
……
……
「おおおおお! あっ。うん。電気ね。消す消す。でももう少しだけ……おおおおお! あ。消すよ!すぐ消すけど!」
……
「ぐへへへ。ここがええんか? ……え? 違う? あ、ホント?」
……
「うおっ。ちょっ!みっちゃんストップストップ。駄目っ……あっ」
……
「い、いいね? ふっ。天井のシミでも数えて――あっ」
……
「……あっ」
……
……
うん
勝ち負けじゃねえんだ。
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