第174話 正月休みは旅行に 2
翌日、二人は少し遅めにチェックアウトして次の村を目指す。
「大丈夫? 少しゆっくり行こうか」
「うん……ありがと」
「回復魔法とか使わないの?」
「今回復しちゃうと、毎回痛みに苦労しそうかなあ」
「まっ毎回??? なっなるほど。ごめんな、ちょっと夢中になっちゃって」
「ひひひ。大丈夫。もっと夢中になっていいぜ!」
「ななな何を言ってるんですかっ」
うん
予定より少しゆっくり目にポロ村を目指す。
しばらく歩いていると先の方に煙が立ち上るのが見える。
「ん? そう言えばここら辺って、シュワ領とゲネブ領の境で盗賊がよく出るんだっけ?」
「前もここら辺で襲われたわよね」
煙の場所まで行くと、道に獣車が何台かと停まっており、道から少し離れた場所で警護らしい冒険者達がたまって何かを燃やしていた。
……ん? 盗賊を追い払ったのか? 燃やしているのは……死体か?
「やっぱり省吾君ってちょっと変だよね?」
「え? なんで俺?」
「大体こういう時って、襲われる行商人を助ける感じじゃないの? テンプレだと」
「あ~。主人公特典が少ねえよな」
そんな事を話しながら横を通り過ぎようとすると、1人の冒険者がこっちを見てすごい勢いで走ってくる。ん? あの人って確か……
「おお~ 上玉じゃ~ん。なになに君冒険者なの?」
その男は、ススっとみつ子に近づき話しかけてきた。
「はい、冒険者やってますよ。盗賊ですか?」
「おう。俺が居る隊商に攻撃してくるとは、運のねえやつらだ」
「おお。お強いんですね。無事で良かったです」
おいおい。こいつみつ子しか見てなくね? なんていうか超ナンパ野郎だな。確かこいつシシリーさんと夕食を食べに行った時に居たAランクの冒険者だったよな。なんて言ったっけ……。
「みっちゃん、確かのこの方ゲネブのAランク冒険者の人だよ」
「おお~。Aランカーの人でしたか。流石ですねえ。こんな盗賊なんてチョチョイのちょいだね」
「うんうん。確か……ミックさん?」
「ジャック様だこの野郎。オマエには話しかけて……何だそれ。魔法か?」
ジャックは俺の上に浮いている珠を見て少し身構える。ていうか護衛ならすぐに気がつけよ。
「えっと……なんか精霊的な物みたいです。僕も実はよく解ってないんですが」
「聞いたことねえな……危険じゃねえのか? ん? オマエ何処かで会ったことねえか?」
うんうん、やっと気がついたか……て。まて。今はそれ不味い。そんな<直感>だ!
「いや~ 冒険者ギルドでお見かけしたくらいなんで。はい。じゃあ、みっちゃんそろそろ行こうか?」
「ほう。みっちゃんって言うのか。可愛いじゃねえか」
「あ、ありがとうございます。さあ、みっちゃんお仕事の邪魔になるから――」
「オマエには言ってねえよ」
うわあ。面倒くせえ。
そこに何かを……いや、間違いなく殺した盗賊だろう。を燃やしていたジャックの仲間の女性冒険者の2人がこっちにやってきた。ていうか。なななな。ビキニアーマー???
だとう!
間違いなく、あの時にいた女性たちだろう。日本のファンタジーアニメなんかでよく見かける露出度の高いビキニアーマーを着た女性が「何? 何?」と話しかけてくる。ていうか……エロすぎませんか?
あ。このタイミング……。
「てめえ、人の女を何ジロジロ見てるんだ?」
よし。今回は間に入れるスキを出さなかったぜ。まあ。前回のチラ見と違って見続けただけだけど。……ん?
「へえ。省吾君。ああいう服が好きなの?」
「え? いや。そういうわけじゃなくてさ。防御性能とかどうなんだろうって」
「ホントに? 凄いエロい目で見ていたんですけど」
「ホントだよ。ホント。やめてよ」
昨日の今日だからな。他の女性のエロティックな服装に目が行くのはまずかった。
「てめえ。何無視してるんだよ」
うう。みつ子のフォローで無視されたジャックが気分を害している。
もう、ホントにやめてよ。
「あ、やっぱり目が少しあの子達追ってるでしょ?」
「もー。何言ってるんですか。記憶にございません」
「おい、てめえ!」
ああああ。しつけえ!
「うるせえよ! お前こそ人の連れに声かけて来て、なにしゃあしゃあと人の女を見てるんだとか言っちゃってるの? アホなの? 馬鹿なの? 脳みそ足りないの??? ちょっと向こうに行っててくれる?」
……
……
「……てめえ、覚悟は出来てるんだな?」
あ。やっちまった。
そう言うとジャックは流れるような動きで腰から剣を抜き放ち切りつけてくる。うおお。
ガキィイイン!
ん? なんだ? 今防ぐ瞬間剣速落ちたよな?
……まさか、寸止めで剣を俺の喉元に当ててビビらせようとした?
「はっ! よく防いだな」
みつ子は「何やってるの!」と慌てている。そりゃ受けなければ分からねえ位の感じだしな。だけどやっぱちょっと思い通りに行かずに悔しいけどとりあえず褒めてごまかす感じだよな? やべえ。それって恥ずかしいやつじゃん。
駄目だ……ツボった。
「ぶっぶぶぶぶ」
「あ? 何笑ってるんだ」
「いやあ、軽く寸止してビビらせようとしたんだろ?」
「な、なに?」
「ごめんな。防げちゃってさ。ぐぐぐぐふっ。よく防いだな!って、ぶほっ」
「……てめえ」
あ。
再びジャックが切りかかってくる。
「うおぉ! ごごごめん。ちょっと。悪かったって。やめろよっ!」
しかしジャックは止まらない。続けて連撃を重ねてくる。くっそ。やるしか無いんか? 恥ずかしさと怒りで真っ赤になったジャックの攻撃をなんとか防いでいく。だがさすがAランクだ。やばい。速え。だが魔力斬の質は負けてねえぞ。
「落ち着けよ。お前」
牽制で<ウォーターボール>を数発速射で打つ。その全てを防がれるがっ。<ウォーターボール>をさばくジャックのスキを狙い下から切り上げる。
「くっ」
その一撃も防がれるが、<剛力>を乗せた重い一撃にジャックが一瞬浮き上がり態勢は崩れる。そのまま攻守が入れ替わり今度は俺が連撃を浴びせる。ジャックが防戦一方に成る。……しかし。
……駄目だ。攻めきれねえ。
次第にジャックが持ち直し、攻防が拮抗しはじめる。やはり強え。実力で押したかったがな、ここは<ノイズ>で一気に――
「やめなさい!」
止まらない2人にしびれを切らしたみつ子からぶっとい魔力が放出される。
「げっ」
「うぉお。なんだそれっ!」
みつ子が頭上に巨大なファイヤーボールを作り2人を睨みつけている。
ジャックも驚き後ろに飛びすざる。
「お、おいおい! お嬢ちゃん。なんだそれ。やめるやめる!」
「みっちゃん、それやばいってっ!」
「……ホントに、馬鹿なことしないでよっ!」
戦いを止めた2人をしばらく睨みつけていたみつ子が、ファイヤーボールを遠くに飛ばした。
ドゴォォォオオオン!!!
……
……
遠くでバカでかい火柱が立ち上がる。
あっけにとられたジャックも流石に戦意を喪失させていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます