第267話 オゾン号

 オゾン号は200年前に国から追われた勇者たちのシンパ達を乗せて航海をした船だ。それを考えれば当然なのかもしれないが、想像以上の大きさだった。ほぼ材木だけで作られたような船が多い中、その大きさだけに鉄骨なども使われているとの話だったが、200年前によくこんな船を作る技術が合ったなと驚く。もしかしたら名前が出てないだけで同じように地球から転生してきた職人でも居たのかとも考えてしまう。


「実は同じ型の船は2隻あったんです」

「え? じゃあその船もどこかに?」

「いや、そちらの方はこの島に着いたときに座礁してしまって、使われていた金属や木材などを分解して村を作るときに使ってしまったようなんです」

「なるほど……」


 実際にはその2隻だけじゃなく、もう少し小さい船等も数隻一緒に旅をしたらしいのだが、古い船のため、状態の悪い船は部品取りなどのために分解され数を減らしていたという。メイセスが今回大陸を目指した際に沈没してしまった為、今では港に泊まっていた船が唯一稼働出来る船だということだ。



 オゾン号の挫傷した場所は岩のゴツゴツした海岸から100メートル程度だろうか、たしかに小島の上にバカでかい船がオブジェのように乗っている。その周りは人工的に埋め立てられ、船を固定するように島を拡大したような感じになっていた。


 近づくと更に大きさを実感する。俺たちがここまで来た船の数倍はある。豪華客船とは言わないが、大型のフェリーくらいはあるんじゃないだろうか。ただ確かに船としての機能はすでに死んでいる。第一、乗り上げた船底部分がくり抜かれ中に入る階段がある。完全に建物として利用されている感じだ。


 俺たちが近づいていくと、見張りの人たちがすぐにメイセスの姿を確認したようで船の上の方でザワザワし始めるのが解る。なんとなく注目を浴びてるのを感じて、満面の笑顔で手を振ってみる……が、反応なし。


「恥ずかしいからやめて~」


 手を振ってスルーされた恥ずかしさは本人が一番なのだよ。みつ子……。




 ハーレーは、流石に浮き桟橋を渡らず、桟橋の手前で待ってもらい警護をしてもらう。そして俺たちだけで浮き桟橋を渡り中に入っていく。


 そのまま階段を登っていくと、最初のフロアは階段の周囲を色々な障害物で囲ってある。アンデッドが侵入してきた時の防御のためだろうが、かなり簡易的になってしまっている。急ぎ作ったという感じなのだろう。出迎えた戦士のような若者たちが目に涙を浮かべてメイセスと抱き合う。


「メイセス。よくぞ帰ってきた……。後ろの彼らが大陸の勇者たちか?」

「ああ。大陸の勇者だ。少し遅くなったがなんとか間に合ったみたいだな」

「ん……そうだな……」

「む? どうした?」


 メイセスの「間に合った」という発言に少し若者たちの表情が曇る。メイセスもどうしたのか聞くが、若者は「とりあえずすぐに長のところへ」と促す。俺たちも急ぎ階段を登っていく。


 上の階に出ると階段の所から船の前後に廊下がありその両側に部屋が並んでいるようだ。ただ、少し屈まないと頭が突きそうな感じで屋根が低い。もう1つ階段を登っても同じようん感じだ。大人数を載せるために屋根を低くしてフロア数を増やした感じなのだろうか。


「お姉ちゃん!」


 客室フロアに上がると、ユピーに向かって1人の子供が走ってくる。「ゼック。ただいま!」とユピーも答えるのを見てもこの子が弟なんだろうなと分かる。駆け寄ってきた弟に嬉しそうに「ほら」と人形を渡していた。だが、ユピーだって子供だ。勝手に船からでかけて村まで行けば……。


「ユピー! 1人で出かけちゃ駄目だって言ったでしょ!」


 ほら。大人からのキツイお叱りが待っている。

 体格のいいオバちゃんがゼックの後ろからやってきて、ユピーの耳を引っ張る。


「イテテ。痛いよ、アイラ!」

「あんたね。たかだか人形の為に死ぬところだったのよッ!」

「ごめんなさい……でも、ね。帰ってき――イタタ!」


 結局ユピーはオバちゃんに耳を引っ張られたまま部屋の中に連れ込まれていった。まあ、当然怒られるだろうけどな。まあ、俺達は先を急がないといけないだろうな。




「さっ。急ぎましょう」


 若者に促され、俺達はさらに上に登っていく。何層あるのだろう、そう思うと天井の低い客室フロアは3階層だったようだ。客室のフロアが終わると少し天井の広いフロアに出る。階段を上がった場所から両脇にスコーンと開いていて外が見える。おそらくここが船の甲板の位置になるのだろう。下から見たとき客船のように船の甲板部の上にも2~3階建て位の上部構造が見えた。おそらく村長のようなお偉方はこの上に居るんだろう。


 そこから船尾側のドアを開けて中に入っていく。この中にも多くの村民が避難していた。


「流石に村1つここに集まると大変だな。入りきれたのかな?」

「……犠牲者もだいぶ出たからな。ただ、食料の問題もある。いつまでもここには居られないだろう」

「厳しいなあ」


 やはりこのフロアは甲板になるようだ。話によると雨が降っていなければ甲板で寝てる人達も居るらしい。


 もう一つ階段を昇ってもまだ避難民が居る。そして廊下を更に船尾側に歩き、いよいよ船長室らしき部屋の前に来る。


「そんな広くないので……全員は入れない」


 ここまで案内してくれた若者が俺達を見てちょっと考え込む。


「とりあえず、モーザさんとハヤトさんお願いします」


 そうメイセスが言うと、モーザが不機嫌そうに答える。


「俺達のリーダーはショーゴだ。俺よりショーゴが先に入ったほうが良い」

「そう……ですね。それではショーゴさんもご一緒にお願いしていいですか?」

「え? ああ。まあ俺はどっちでも良いけど」


 メイセスとしては竜騎士のモーザは外せないのだろう。メイセスの旅の成功を象徴する存在だしな。その気持ちが分かるだけにモーザには入ってもらいたい。


 ノックをすると返事を待たずに若者がドアを開ける。そして俺たちに中に入るように促した。


「と、父さん!?」


 中には1人の壮年の男が、身体中に包帯を巻かれベッドで力なくこちらの方を向いていた。おそらく村長なのだろう。そしてその脇には、中年の美しいエルフと、初老の人間の女性が同時にこちらを振り向いた。

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